第八十四話 相談
ララとルルからお礼をすると言ってもらったものの、それをシロたちに決めろと言う。しかし、シロとしてはどうでもいいので辞退したい所であるのだが、ララたちの無言の圧に耐えきれず絶賛悩み中である。
「ん~、とりあえずユキたちはどうする?」
「えっ、私たちもお礼される側なの?」
「「バッチこい」」
「えぇと、私は特に何かした訳じゃありませんが……」
「「バッチこい」」
「えぇ……」
まさか自分らもお礼される側だと思ってなかったユキとフィーリア。しかし、シロと一緒にララとルルを保護した事実には変わりないため二人としては除外する訳ない。
「しかしだな、お礼を決めて欲しいと言われても困るぞ」
「「うんうん」」
「ん~……」
「困った……」
シロたちの反応を見て、ララとルルも困った表情を浮かべた。ララとルルとしてもお礼をするにも三人に喜んでもらいたいのだ。
五人が仲良く頭を抱えていると業を煮やしたのかエルが口を開いた。
「ララ、ルル。アンタらで何か作ってあげれば?」
「作る?」
「なにを?」
「そこはアンタらが判断するか、三人に希望を聞けばいいでしょ。アンタたち曲がりなりにもうちの専属生産職でしょうが」
「「それだ!」」
エルの意見に二人ともポンッ、と拳を手にあてて納得する。
「君たちもそれでいいかしら?」
「あぁ、別に構わないが……この二人生産職だったのか?」
「そうよ、ララが武器、防具専門、ルルがポーション類専門よ。ちなみに腕は私たちが保証するわ」
「「エッヘン」」
「へぇ、意外と凄い奴らだったんだな」
腹ペコで倒れていた二人がまさかトップギルドの専門生産職だとは想像もしてなかったシロは素直に感嘆の声を上げる。
「ふふ~ん、凄いでしょ~」
「何でアンタが自慢げなのよ」
「あいたっ!」
ララとルルが褒められたのが嬉しいのかミルフィーまでも胸を張っていた。その態度にエルが軽くチョップでツッコみを入れる。ツッコまれたミルフィーを見てミカとルカは苦笑い、ララとルルはいまだに小さい胸を反らしていた。
その和やかな光景を見てシロは思わず口角を上げていた。
(……ちゃんと自分の居場所見つけたんだな)
ミルフィーがちゃんとギルドに馴染んでいるのが見て解るとシロはどこか安堵を覚えた。
自分のせいでバラバラになったメンバーたちが楽しんでいるのであれば心配ない。
「ニヤニヤ?」
「変態?」
「おい待てや、誰が変態だ」
シロがミルフィーの現状を知って微笑んでいるのが見えたらしいララとルルが聞き流せない言葉を呟く。特にルルのセリフは全力で否定させてもらう。
シロの苦言もなんのその、マイペースなララとルルはようやく話しが纏まったのでシロたちに要望を訊くことにした。
「要望……」
「オーダーメイド……」
「って言われてもなぁ」
ララとルルに訊かれて再びシロは思案顔をする。ポーション類はあらかた揃えてあるし、装備についても今の所不安は――
「あっ」
「どうしたの?」
「のたしうど?」
「何故逆さなのかは分からんが……っと」
ルルのボケに軽くツッコみながらシロはアイテムボックスを開くとそこから目当ての物を取り出す。取り出された品を見てララとルル、他のギルメンたちも目を見開かせた。
「これ!?」
「ヒヒイロカネ!?」
「おっ、さすが生産職。知っていたか」
「えっ! どうしたのこれ、超レア素材じゃん!!」
シロの取り出したヒヒイロカネを見て興奮気味で訊ねるのは先ほどまでシロに刃を向けていたミルフィー。その変わり身の早さにユキとフィーリアは目を丸くするがシロも含め他の面子はいつものことなのでスルーである。
ファングの時に得た初回クリアボーナス。《ドリーム杯》に出るにあたって武器の新調を視野に入れていたシロは神級レベルのレアアイテムを武器に使用しようと考えていた。ただ、それには結構厄介なことがある。
それは素材が素材なだけに鍛治レベルが相当高くなければ加工が出来ないのだ。恐らくシロの知ってる限りこれが加工、さらにエンチャントできるのは【緑営会】のギルマスをしているリュウくらいだろう。
シロは他にも使えそうな鬼の牙や鉄類、両手剣の破片なども取り出してみるがまずは確認からだ。
「えっと、確かララが鍛治専門だったよな」
「イエス」
「このヒヒイロカネで、この刀強化出来ないかな?」
シロの発言にララはヒヒイロカネを鋭い目つきで凝視する。その目はやってみたいという好奇心が籠っていたが、すぐに残念そうに首を振った。
「不可能……」
「そうなのか?」
「スキルレベルが足りない……」
「そうか、残念だな」
「不本意……」
「いや、別にそこまで気にしなくてもいいよ。試しに訊いたみただけだから」
「悔しい……」
シロの慰めの言葉を受けるもララは顔を歪めてヒヒイロカネを睨みつけていた。相当やってみたかったようだ。まるで販売を待ちわびていたゲームを買うために朝早くから並んだにも関わらず、目の前で売り切れたかのような顔をしていた。
しかし、そうなるとシロが欲しいものはなくなったわけだから、他の方法で二人にお礼をしてもらう必要があるのだが、もはや考えるのも面倒くさくなったのでユキたちに話を振ることにする。
「ユキとフィーリアはどうするよ?」
「う~ん、これと言って……」
「欲しいものというのもないですね」
話を振られたユキたちも困ったような顔をして告げる。
無欲というのは美点にされてることもあるが、欲というのは時には必要なものだ。二人の様子を見てもはやお手上げ状態のシロは、どうしようと言った表情でエルを見た。
目を向けられたエルはやれやれと首を振ると、五人が納得するような案を模索する。
「う~ん、あなたたち今日はどこで寝る予定?」
「この辺を拠点にしようと思ってますけど……」
「けど?」
「……道具がありません」
シロの言葉にエルを含め、【向日葵の輪】の面々は呆然とした面持ちになる。シロも予想通りの反応に苦笑いを浮かべた。キャンプイベントが開始してから、ずっとモンスターからドロップするのは食材ばかりで必要な道具が何一つ出てこないというのはよほどの運だろうなと自負している。
シロとしてはこれから、再び森へ入り必要な道具がドロップするまでモンスターを狩ってご飯を食べ終えたら勉強を始めるという予定を何となくであるが立てていた。
「ならちょうどいいじゃない」
「えっ?」
エルの発言にシロは思わず疑問顔をする。一体何がちょうどいいと言うのか。
「実は私たちも似たような境遇で……」
「道具しかドロップしなかったんですよ」
エルの言葉にミカが続けた。どうやら、【向日葵の輪】も中々の運の持ち主であったようだ。その発言にシロたちは思わず同情的な目を向ける。同じアイテムしか出てこないという辛さは知っているからだ。
「というわけで、今日は一緒にここでキャンプしましょう!」
「はぁ!?」
エルの高々な宣言にミルフィーが驚愕の声を上げた。そんなミルフィーにエルは首を傾げる。
「どうしたのミルフィー?」
「どうしたの? じゃないよ。本気なのエルちゃん!? この人と寝食を共にするってことだよ!!」
「何か問題でも?」
「大ありよ!!」
猛反発するミルフィーに対してエルは案外余裕な表情をする。焦っているからか口調が素に戻っているのにも気づいていない様子である。
(随分と嫌われたもんだなぁ……若干、泣けてくるぜ)
ミルフィーのあまりの反対意見にシロは悲しくなってきた。そんなシロの横でユキが優しく肩に手を置き、ポンポン、と叩く。「ドンマイ」とも言いたげである。
フィーリアもそれに同調するようにシロに同情的な目を向けた。そんな二人に励まされているとエルとミルフィーの間にララとルルが割って来た。
「賛成……」
「異議なし……」
「まぁ、いいんじゃない?」
「はい、こういうのは大勢の方がいいと思うよ」
シロたちに懐いたララとルルを皮切りに他の面々も賛成を表明。ミルフィーが「ぐぬぬぬ……」と唸っているのを無視してエルは視線をシロたちに向ける。
「で、そちら側の意見は?」
「……ちょっと相談します」
エルに意見を求められてシロはそう言うとユキとフィーリアを連れて、ちょっとミルフィーたちと距離を取った。
少し距離を取ったシロたちは顔を突き合わせて、話し合いを始めた。
「どうする?」
「私はいいと思うよ。エルさんの言う通り、大勢のほうが楽しいし」
「私もユキちゃんと同じ意見です」
「お前らなぁ、今回の目的を忘れたのか?」
そもそも、今回シロたちがこのイベントに参加した目的は『時間加速システム』を利用した勉強会のはず。そこにエルたちが入ったら恐らく勉強どころではないだろう。
シロの真っ当な意見にユキは「そうだよね」と呟いた。初めから期待していなかったようである。
ユキのその態度でフィーリアを再度見ると、フィーリアも首を縦に振った。シロは意見がまとまったのを確認し、今回の申し出を断ろうかと思ったその時。
「話は聞かせてもらったわよ」
『……え?』
背後から突如放たれた声にシロたちは揃って素っ頓狂な声を出す。そこには、先ほどまで離れていたエルがいた。色んな疑問がシロに湧きあがったが、エルはそれを説明をするかのように口を開いた。
「あっ、私、【聞き耳】スキル持ってるから」
「……本当にいたんですね持ってる人」
エルが自慢げにそう口にするとフィーリアが珍しいものを見るような目をした。一方で、シロは余計に一緒にいてはいけないと思った。そんなシロの心配をよそにエルはさらに続ける。
「で、勉強がしたいということらしいけど」
「あぁ、数日後に期末テストなもんで。今回のシステムを利用させてもらおうと思いまして」
「そうかそうか、なら、余計に私たちと一緒にいた方がいいと思うわよ」
「その根拠は?」
「ウチにはアホッぽいけど頭がいい奴がいるからね」
「……それって」
「あれ」
エルが首をくいっ、動かすとそこにはいまだに仏頂面をしてそっぽ向いてミルフィーがいた。
「ま、まさか……」
「そう、そのまさかよ」
「ミルフィーが、だと……」
「……なんかバカにされている気がする」
だってミルフィーだぞ。いつもバカっぽい口調に度々暴走するあのミルフィーだぞ。頭がいいなんて誰が想像できるだろうか。
疑いの眼差しでじー、とミルフィーを見つめるシロ。エルがさらに説明を加えた。
「あれでも学年一位の実績を誇ってるわよ」
「嘘だろ……」
「それが本当よ。まぁ、私も自慢じゃないけど勉強を教えられるくらいは出来ると思うから、力になれると思うわよ」
「……」
「それに道具だってあげられるし」
エルが何故にそんなに必死に説得をしているのかは分からないがシロとしてはたいしてデメリットがない話である。心配があるとすれば彼女の【聞き耳】スキルとミルフィーの存在だろう。何か一つでもボロを出せばシロの正体が露見しかねる。しかも、今のミルフィーの状態からシロの正体がバレるととんでもない空気になるのは確定だ。そうなったら、もはやキャンプどころの話ではなくなる。まぁ、そこはシロとユキが気を付ければ問題ないだろうが。
メリットは、ユキに教える負担が軽減し自分の勉強に当てられる。まさに理想形だ。シロは思案顔でそう結論付けると、再度ユキとフィーリアに顔を向けた。シロの顔から何か察したようで二人とも黙って頷く。二人のその反応を確かめるとシロはエルに向かって口を開いた。最終確認だ。
「……本当にいいんですか?」
「えぇ、ミルフィーも問題ないようだし」
「……まぁ、いいんじゃないかな~」
「ほらね」
「……そういう事なら、お言葉に甘えようかな?」
「よしっ、決定!」
シロが首を縦に振るのを確認するとエルは嬉しそうな、しかし安堵しているよな顔をしてホッ、と息を吐いた。それに疑問を覚えるシロであったが特に何か害を加えようとしているようには見えなかったので、そのまま放置をすることにした。
そして、シロはかつてのギルメンとその仲間たちと寝食をともにすることとなった。
☆☆☆☆☆☆
ふぅ、何とか引き止めに成功。いや~、一時はどうなるかと思ったわ。ミルフィーとの関係もあるし。
でも、なんとか一緒にいる口実は作った、そうなると次はえぇと、シロ君だったかな? 彼とあの子の仲をどうにかしないと。
私は覚えているわよ。彼らが掲示板に載っているのを。さらにシロ君は前に《ガウス街》で初期装備の素人だったはずなのに中級プレイヤー三人を圧倒していたのも知っている。あの日、現場にいたし。
いや~、どっかで見たことある子だなぁって思っていたんだけどまさか彼がそうだったとは、これは嬉しい誤算ね。
あの動き、ミルフィーの攻撃も避けられるなんてまさに逸材としか呼べないわよ。
これはチャンスよ私、彼らと何とか仲良くなって絶対に――
ウチに加入してもらうわよ!!
「ふ、ふふふ」
「エルが……」
「なんかおかしい……」
「ハイハイ、ほっときなさい」
「あ、あはは……」
(……エルちゃん、なんか企んでいるな~。まぁ、いいけど)




