第八十二話 集合
「もうすぐ日が暮れるなぁ……」
「全然見つからないよ~!」
「もう疲れました……」
「「お腹空いた~」」
ララとルルの強烈な戦闘シーンを見てから数時間後。
双子の戦闘にシロたちは衝撃を受けたもののすぐに立ち直り再び湖を目指していた。だが、歩き続けているが一向に湖が姿を現さない。そうこうしている内に仮想世界の日が傾き、茜色が木々に反射して幻想的な光景が広がっていた。しかし、シロたちはその光景を堪能しているヒマもなく、ただひたすら前へ足を進めていた。
「掲示板の情報によるとそろそろついてもいい頃なんだけどなぁ」
「その情報間違っていないの?」
「公式な掲示板に載せるくらいだ。間違った情報は出さないだろう」
掲示板には、いくつかのパーティがシロたちの目指している湖に到着しているという情報が入っていた。心優しいプレイヤーの一人が湖の大まかな座標を示してくれているから、楽に到着できると思っていたのだがこれが中々難しい。《イジイの森》のように整備されている道など存在するはずもなく、ただ道なき道を進むしかない。ということは、座標に真っすぐ進むという訳にもいかないのだ。
中々姿を見せない湖にため息を吐きたくなる気持ちを抑え、シロたちは歩き続ける。
そこからまた数分歩き続けていると、シロの【索敵】に数名のプレイヤーの存在が引っかかった。それと同時にシロたちの目の前の視界が拓けて来た。
「おっ、着いたか?」
「ウソッ、本当!?」
拓けてきた視界から飛び出して来たのは茜色の光を反射させ、ゆらゆらと揺れる水面であった。その広さは半径50mといった所だろうか。対岸に生えている木々が小さく見えた。
「着いたな」
「ようやく到着だ~」
「疲れましたね」
「到着~」
「ゴール~」
シロたちが感慨深げに目的地への到着を呟く。ララとルルは疲れた様子もなく淡々とした口調でバンザイのポーズをとっていた。
「とりあえず、拠点をここにするとしてララとルルのギルドとも合流しないとな」
「そうだね、多分心配していると思うし」
「もうすぐ会えますからね」
「ありがとう……」
「助かった……」
「気にするな、たんなる気まぐれだ」
「素直じゃないなシロ君」
「ふふ……」
「……けっ」
シロの言葉にユキとフィーリアが可笑しそうに笑い合う。そんな三人の様子にララとルルは何やら顔を突き合わせコソコソとしていた。
「……仲良し?」
「……トライアングル?」
「何やら不穏当な会話が為されているような気が……」
「「気のせい」」
シロの地獄耳に二人は慌てることなく、即座に反応する。流石双子、息ピッタリである。
「あぁ~! 湖だ~!!」
「ようやく着いたわね」
「つ、疲れた……」
「ララちゃんとルルちゃん、いるかな?」
シロたちがそんな会話をしているすぐ傍で、女性の声が四つ聞こえてきた。どうやら【索敵】にかかった人たちのようである。シロたちが何気にその声のするほうを向くと、ララとルルが「あっ……」言う声を上げるとテクテクとそのパーティのほうへ駆け出した。シロたちもそれを追いかける。
「お~い」
「やっほ~」
「あっ、いたわよ!」
ララとルルの呼ぶ声が聞こえたらしく、四人の中の一人で髪をポニーテールにした女性が真っ先に反応した。
ポニーテール女子の声に連鎖するように残りの三人も顔を向けるとそこには元気に走ってくるララとルルの姿があった。
「ララちゃん! ルルちゃん!」
「まったく心配したじゃない!」
「やっほ~」
残りの三人も走ってくるララとルルを見て、各々声を上げる。よほど心配していたのだろう、二人は鬼気迫ったような勢いでもう一人は心配などしていなかったのか気の抜けた声を出し二人に続いた。
そこでシロたちがその声がどこかで聞いたような気がすればよかったのだが、あいにくとシロたちから微妙に距離が離れていたためはっきり声が聞こえなかったのだ。
そうして、シロたちはゆっくりと彼女らに近づいていく。
その集団の中に何やら見知った顔があることに気が付いたのはシロのほうであった。
「あっ」
「へっ?」
この時、シロはどうして自分が声を出してしまったのか分からない。だが、失敗したというのは間違いないと判断した。
なぜならそこにいるのは間違いなく、かつてのギルメンであるミルフィーであったからだ。
「………」
「………」
ちょっとした沈黙が両者に流れる。
どう声をかければいいのか分からない。逃げる? いやそれも違う気がする。では、なんと言葉を出せばよいのか。シロは素早く頭を回転させ考えるが答えは出ない。
そして、長いようで短い数秒が経過した時、シロの【感知】が異常なほどの危険信号を放った。
「っ!!? あっぶねぇ!!」
「……ちっ」
受け身も考えずシロは本能のまま横へ飛ぶ。すると、先ほどまでシロが立っていた場所を速く鋭い、レイピアが通過し風がシロたちの周囲に巻き起こった。
「きゃっ!」
「な、何ですか!?」
突然のことで混乱するユキとフィーリア。他のギルメンもいきなりのミルフィーの行動に唖然としていた。
「ちょっ、ミルフィー何やってんの!」
「いきなり攻撃はないでしょ!?」
「ミ、ミルフィーちゃん?」
「「……」」
混乱から回復した【向日葵の輪】の面々は、ミルフィーの突然の行動に声を上げる。だが、当のミルフィーはその声が聞こえていないようで目を吊り上げ、シロを睨み付けていた。その目はまるで親の仇を見るかのようであった。
一方、シロは予想外のミルフィーとの再会に苦い顔をする。まさか、ララとルルがミルフィーの所属するギルドのメンバーだったとは、どういう運の使い方すればこうなるのか誰かに聞きたい気分であった。
「……お久しぶりですね」
「……そうですね~」
シロは、視線をミルフィーの挙動すべてに集中する。会話を始めたのは相手の隙を作りやすくさせるため、必要ならここからの離脱を考えていた。
「出会ってすぐに攻撃というのは、そちらのギルドの挨拶なんですか?」
「いいえ、こんなことするのはあなただけですよ~」
「素直に嬉しくない」
男子なら一度は言われてみたい言葉のはずなのに、シロは恐怖を感じた。口調がいつもの間延びたものなのが余計に怖い。
シロは腰に携えている鞘に手をかける。だが、シロとしてはミルフィーに刀を向けたくはなかった。
「あの時の事覚えてますか~?」
「まぁ、強烈な体験でしたし」
「そうですか~、ならあたしの言いたい事は分かりますね~?」
「……」
ミルフィーの言いたい事はただ一つ。
シルバーの悪口を訂正しろ。これに尽きるだろう。
しかし、シロは自分の発言を撤回する気はさらさらなかった。
「ことわ……っとわ!?」
「なら力づくです!」
「いや、せめて最後まで言わせろよ!」
「知るかっ!」
シロの発言を最後まで聞くことなくミルフィーのレイピアが高速の突きを繰り出す。シロは間一髪のところでそれを回避。だが、ミルフィーは追撃を止める気配を見せなかった。
(やっべ、どうしよう……)
ギリギリのところでミルフィーの攻撃を避けつつ考える。
ミルフィーはシロがシルバーの悪口を訂正するまで止めないだろう。かと言って、シロは自分の言葉が間違っているとは微塵も思っていない。
一撃でも食らってみるか。いや、ミルフィーのあの攻撃を食らえば一発でアウト。ユキとフィーリアに助けを求めるか、恐らく戦力にすらならないだろう。 完全に詰みだこれは。
シロは半ば諦めモードになるのとほぼ同時に背中が木の幹に触れる。ミルフィーが目を細めながらシロの喉元へレイピアを突きつけた。
逃げられない、シロは大人しくPKされようと嘆息ついた時、シロの目の前に黒い影が飛び出した。オレンジ色と水色に煌めく四本のしっぱ。それをゆらゆらとさせつつ、その傍には巨大ハンマーとモーニングスターが存在感を醸し出していた。
「なっ!?」
「ミルフィー……」
「これ以上は……」
小柄な体でシロの守るかのように立つ姿にミルフィーは驚きの声を隠せなかった。だって、彼女たちがギルメン以外にこういう態度をとるのはまずないからである。
その双子の行動にシロ自身も目を丸くした。同じギルドの仲間に敵意を表す目をしていたからだ。だが、その娘たちは自身の決断に絶対の意志を持っておりその場から動くことはしない。それどころか、まるで小さい子を叱るかのように人差し指をびしっ、とミルフィーのほうへ指して述べた。
「「めっ!!」」




