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Break Ground Online   作者: 九芽作夜
第三章 LONEWOLF&GIRL'S TEAR
73/452

番外編 助っ人

更新が遅くなってしまい申し訳ありません! 

修正などは後々行いたいと思います。



 ファングの決闘から数日が経過していた。

 一日の授業を終わらせた和樹はいつもの通りさっさと帰るため身支度を始めていた。前から気になっていた曇り空は消え、晴れやかな天気が続くようになり始めていた。青空から照らしている太陽の日差しも強くなる一方で本格的な夏へと移り変わろうとしている。

 支度を整えた和樹は席を立ち、騒がしい教室から出て行こうとすると、後ろからトコトコ、ともはや聞き慣れた足音が近づいて来た。


「白井君、今から帰り?」

「……じゃあな」

「ちょっと待ってよ!」


 すごくいい笑顔で和樹に話しかけて来た雪に三秒で挨拶すると廊下へと出た。あまりの態度に雪は驚きつつも慣れた様子で和樹の後を追う。ちなみに、桜香もちゃっかりとついてきていた。


「ちょっと、白井君?」

「一緒には帰らんぞ」

「まだ何も言ってないけど」


 しかし、言いたかったことは正解なのでどうも言えない。

 廊下を出てスタスタ先を歩く和樹は人気のない場所まで来ると、くるりとやっと振り返った。


「お前なぁ、いい加減自分が周りにどう見られているか分かれよ」

「? 何の話?」

「……はぁ」


 純粋な顔で首を傾げる雪を見て、ため息を吐く和樹。

 柊雪は、学校中の有名人である。優れた容姿に、気さくな性格、そして人間大好き。そのおかげか告白する者は多く、憧れや好意の目が常に周りから注がれている。もはや、知らぬ者はいないと言っても過言ではないのだ。

 だが、本人にその自覚がない。それがいいのか悪いのかは判断できないが、少なくても和樹はその無自覚さにあきれていた。

 人の事は好きなくせに、人の事を知らない。まるでどこかの誰かさんのようで和樹は思わずイラついてしまう。しかし、それを表には出さなかった。


「帰ろう」

「いやだ」

「帰ろうよ」

「い・や・だ」


 和樹と雪の押し問答を傍で聞いていた桜香も困った顔をしていた。数分、それが続くがとうとう和樹が折れる形となった。雪はウキウキ気分で階段を下り、和樹は疲れたような顔をし、桜香は和樹と帰れて嬉しいが和樹の様子を見て素直に喜べないのであった。



☆☆☆☆☆☆



 一緒に昇降口まで来た三人。周囲を十分警戒しつつ、雪に怒られない程度の距離を保ちながら歩いて来た和樹はまだ帰宅していないのに疲れたように息を吐いた。


(はぁ、さっさと帰ろう)


 いち早く、この心臓に悪い状況から逃れたい和樹は下駄箱から靴を取り出そうと手にかけた時、その声が響いた。


「あーー! 白井君!!」

「??」


 突然の声に驚いた和樹は、思わず腰に手をやる。だが、そこにはBGOで提げている刀は存在せず虚しく手が空で止まる。自分の行動に気づいた和樹は手を背中に隠した。

 どうにも、BGOにのめり込み過ぎているようである。

 和樹は改めて声のする方を見る。そこには、和樹に指差し大きく口を開いている一人の女子生徒がいた。


「なになに?」

「和樹君、どうかしたんですか?」


 女子生徒と和樹の間にいた雪と桜香もうまく状況を飲み込めていない。当然だ、和樹ですらこの状況を理解出来ていないのだから。

 だが、女子生徒はそんな和樹を他所にズカズカと近づく。そして、眼前まで来るとパンっ、と両手を合わせ頭を下げた。


「お願い、白井君! ちょっと一緒に来て!」

「へ? 何だ一体?」


 急な女子生徒の行動に目を丸くする和樹。


「えぇと、和樹君、お知り合いですか?」


 困り顔の和樹を眺めつつ桜香は訊ねた。しかし、和樹はこの女子生徒について何も知らなかったので首を横に振る。

 すると、先ほどまで頭を下げていた女子生徒が勢いよく顔を上げると口を開いた。


「ひどいよ白井君! 竹内だよ、一年生の時同じクラスだった」

「えっ、そうだっけ?」

「そうだよ! クラスメイトの顔も忘れてしまったの?」

「あぁ……ああ! 竹内ね、覚えてる覚えてるよ!」

「うわ~、わざとらしい……」


 和樹のあからさまに怪しい態度にジト目で睨む竹内という女子。和樹もいちいち同じクラスだった奴の顔や名前なども覚えるのもめんどくさいと思っていたので自業自得であろう。


「それで? 白井君にお願いがあるんじゃないの竹内さん?」

「あっ、柊さん! そうそうそうだったよ」

「……知り合いなのか?」

「友達だよ」

「友達何人いんだよお前」


 一方で、一連のやり取りを静観していた雪は話の続きを促すと今になって気づいたのか竹内は驚いた声を出した。

 雪の顔の広さに和樹は驚きつつも、納得もしていた。恐らく彼女ならリアルに友達百人出来るのでは、いや多分出来ているだろう。

 雪に話の続きを促され、竹内はおもむろに和樹の手を取ると引っ張り始めた。その行動に驚愕する雪と桜香。和樹もそのいきなりな行為に戸惑う。


「おい、竹内! まずは説明をしてくれよ。これじゃ、全くお前の意図が分からん」

「私、口で説明するの下手だからまずは現場を見てほしいの!!」

「なんだよ現場って! 俺は今から帰る所なんだよ!」

「お願い、謝礼はきちんとするから!」

「いや、だから……」


 言葉も虚しくどんどんと連れていかれる和樹。それを呆然と眺めていた二人も、我に返ると顔を突き合わせてどうするか無言で確かめ合うと和樹の後を追ったのであった。



☆☆☆☆☆☆



「急いで、今どれくらい!?」

「あと50個です!」

「米が尽きました!」

「もう一度炊き直して!」


 そこはまさに戦場であった。駆け回る人、声が飛び交う、漂う熱と何かを焼く音。

 和樹がつれてこられたのは校舎の端に位置する家庭科室であった。そこで和樹が目の当たりにしたのは忙しなく動き回っている女子の集団である。各々三角巾とエプロンを着用して、フライパンを持ったりおにぎりを作っているようである。


「部長! 助っ人をつれてきました!」

「マジで!? ナイスたけっち!」

「はぁ? 助っ人?」


 竹内の言葉に首を傾げる和樹。そんな和樹をよそに部長と呼ばれた女子は、和樹のほうへ近づくと心底安心したような顔を浮かべた。


「いや〜ありがとうね、まさに今修羅場って感じただから猫の手も借りたいところだったのよ」

「え、いや、俺何も聞かされてないのですが……」


 竹内が相手を部長と呼んだことから先輩なのだろうと判断した和樹は、敬語で物腰を低くして対応した。和樹の言葉に部長さんは「え?」と呟くと竹内のほうに顔を向ける。


「たけっち、説明せずにつれてきたの?」

「す、すみません、急いでいたので」


 部長が少しきつめな口調で言うと竹内は肩を縮こませた。


「はぁ、ごめんね。なんだかこの子が無理やりつれてきたみたいで」

「いや、それはいいんですけど、何やってんですかこれ?」


 和樹は今も動き回る生徒たちを一瞥して言う。すると、部長は疲れたような笑みを浮かべて和樹の問いに答えた。


「これね、今料理部と各運動部のマネージャーで部活の差し入れ作ってるの。でも、思ったより人手が足りなくてね、運動部の男子ってよく食べるし……そこでちょっと暇そうな人に声かけてたってこと」


 もうすぐ大会を控える運動部たち、それを微力ながらもサポートしようと熱心に動く生徒たちを見て和樹はどこか遠い世界のように感じた。

 部長の説明を聞いてとりあえず納得する和樹。たが、やはり腑に落ちないことがある。


「何で俺なの?」


 実際、竹内と和樹は一年生の頃同じクラスと言っていたが関わりなんてなかったわけだし、そんな人間にどうして声をかけたんだろうという素朴な疑問が残った。


「だって白井君、家庭科の授業のとき凄かったじゃん。一人でテキパキ、黙々と作ってたの私見てたの」

「あぁ、納得」


 確かに和樹は家事を全て受け持っている身として、当たり前のことであったが一般的な高校生として見た時、和樹の料理の腕は次元が違っている。

 竹内もそれを間近なで見たので和樹を見つけた瞬間、これまでにない助っ人と考えたのだろう。

 和樹が一人納得していると部長が改めて頭を下げた。


「ということでこの通りです。どうか手伝ってください」

「お願い白井君」


 部長の行動を見て、竹内も頭を下げる。

 遅れて到着した雪と桜香は、場の状況にキョトンとした。


「……はぁ、作った料理は持ち帰り出来ますか?」

「え? あ、うん、余ったら部員たちで食べるか持ち帰ることは出来るよ」

「……なら、手伝いましょう。家帰って作ることしなくていいし」


 材料費浮くし。


「ほんと! ありがとう、助かるよ!」

「白井君ありがとう!」


 和樹が頼みを承諾すると、二人は嬉しそうにお礼を述べる。


「あ、あの私も手伝いましょうか?」

「わ、私も……」


 黙って状況を見ていた雪と桜香も状況がどうにか把握したらしく、おずおずと手伝いを申し出た。


「ほんと!? 手が多いのはありがたいことだよ」


 雪と桜香の参戦に部長も喜び、竹内も同様に笑顔を向けた。


「お前ら、料理とかできるのか?」

「料理はそこまでだけど、お菓子作るのは好きだからその要領で何とかなると思うよ」

「わ、私は、得意ではないですけど、おにぎりくらいなら出来ると……」


 和樹が雪と桜香の腕を聞くと、意外にも雪はお菓子作りが出来るらしい。これには和樹も驚いた。最近よく一緒にいることが多いが雪がそんな器用なことを出来るとは到底考えもしなかったのだ。逆に桜香は予想通りというところだろう、仕事だってあるし一般的な高校生ならその程度だ。


「というか、私的には白井君が料理得意ってのが意外だけど」

「そうか? だっていつも弁当は自分で作ってるぞ」

「そ、そうなんですか……」


 対照的に雪たちは和樹が料理をしているということを知らなかったようで、目を丸くする雪と女子として負けを感じる桜香であった。


「はい、それじゃあ、白井君は卵焼きの班に混ざってくれる? 柊さんとえぇと……?」

「姫野桜香です」

「姫野さんね、二人はおにぎり作る班に行ってくれる?」

「はい」

「分かりました」

「他には何を作ってるんだ?」

「他は唐揚げかな? 下味はもう漬けてあるから後は揚げるだけね」

「今夜は唐揚げか」


 三人が手伝うことになったのが嬉しいのか竹内はルンルン気分で指示を出す。実力を知っている和樹には何気に難易度の高い卵焼きを、雪と桜香には簡単におにぎりを作ってもらうことにした。

 竹内の指示された三人は各々指定された所へと向かう。


「いや~、悪いね白井君。付き合わせてしまって」

「別にいいですよ。俺も今晩のおかずがタダでゲットできますしね財布に優しいですよ」

「男子高校生が言うセリフではないと思うけど……ねぇ、白井君が毎日料理してるの?」


 卵焼きエリアへとついた和樹は先ほどまで会話していた部長とともにボウルに卵を数個割る。

 ……片手で。


「はい、ウチ父子家庭で父親も帰りが遅いですからね。必然的にそうなるんですよ」

「……ちなみにいつから?」

「本格的に始めたのは中二からですね。それまでは手伝いで食材を切ったりはしてましたけど味付けとかは親でしたね」

「ふぅ~ん」


 と、適当に会話をしつつも調味料を加えかき混ぜると、専用のフライパンを熱す。

 母親は? という疑問を浮かべた部長であるが人の家庭に口を挟むのもあれなので口を閉ざした。


「部長さんは料理好きなんですか?」


 油をひいたフライパンにかき混ぜた卵を入れながら和樹は何気なく訊く。慣れた手つきで作業を進める和樹と部長を見て周りにいる運動部マネージャーたちは、呆然とそれを眺めていた。

 そんな視線に気づかず、和樹の質問に答えようと部長は口を開いた。


「うん、自分が作ったものを美味しいって言ってもらえるのが嬉しいからね」

「あぁ、それ何となく分かります」

「そうなの?」


 半熟の状態になったら奥から手前に卵を折りたたみ、奥の方へ移動させる。


「はい、最初の頃は全然料理出来なくて失敗でしたけど初めて成功したものをうまいって言いながら食ってくれると何というか達成感みたいなのを感じましたね。それと同時に作ってくれる人がいるってのは幸せな事なんだなぁって思いますよ」


 フライパンに再び油をしき、残りの卵を流し入れ、手前の卵焼きを少し浮かせて底部にも流し入れる。


「そうそう! いや~、白井君分かってるね! 他の男どもに聞かせてやりたいよ」


 和樹の言葉に部長だけでなくマネージャーたちもうんうん、と頷いていた。運動部のマネージャーというのは大変なようだ。

 そんな会話をしつつも手を休めることなく卵を流しては折りたたみ、流しては折りたたみを繰り返していくとあっという間に綺麗な卵焼きが完成した。それを皿に盛りつけると傍で同じことをしていた女子生徒たちから感嘆の声が漏れる。伊達に家事をこなしていないのが分かる出来である。


「ふぅ、凄いね白井君。完璧だよ」


 和樹の出来に素直に称賛する部長。それを受け、背中がムズムズとする和樹。料理で褒められたのは父親以外では初めてのことだった。


「いえ、これくらい大したことじゃないです」


 本当に大したことなくて、普段していることなので褒めれると何だか調子が狂ってしまう和樹であった。


「じゃあ、この調子でじゃんじゃんいこう!」


 和樹の助っ人として申し分ない実力を目の当たりにした部長とマネージャーズはテンション高くすると続々と卵焼きを焼いていく。和樹もそのテンションについていくことはなかったが淡々と、言われた仕事をこなしていった。



☆☆☆☆☆☆



「皆さん! お疲れさまでした~、おかげさまで滞りなく出来ました」

『お疲れ様でした』


 和樹たちが参加して一時間後、焼いた卵焼きの数は人知れず。ただ黙々と作業をしていたため自分がどのくらい焼いたなんて頭になかった。

 和樹たちが焼いた卵焼きとおにぎり、それから唐揚げは皿に山のように盛られ、それをマネージャーたちが持っている。これから運動部に差し入れしにいくらしい。


「お疲れ白井君」

「お疲れ様です和樹君」


 和樹が椅子に座って一息していると雪と桜香が近づきながら労いの声を出していた。


「おう、お疲れ。そっちはどうだった?」

「はい、皆とおにぎりを作れて楽しかったです」

「そうだね、人によって形が違ってたりしてるから面白かったよ」


 和樹のエリアとは違い、雪たちは楽しみながら料理? をしていたようだ。対照的に和樹たちの所はもう修羅場である。元々、人数が少なかったということもあってから一人当たりの焼く量が半端ではなかった。


「いや~、ごめんね三人とも手伝わせて」


 和樹たちがそんな話をしていると後片付けを終えた竹内が三人の元へ駆け寄る。


「いいよ竹内さん。困った時はお互い様だよ」

「うぅぅ、柊さん、あなたはどうしてそんなにいい子なの」


 何に感動しているのか、竹内が流れていない涙を拭く仕草をすると本題へと入った。


「はい、これお裾分け。三人とも今日はありがとう」


 ニコッ、と元気な笑顔を向けながら人数分の袋を差し出した。和樹たちは礼を言いながらそれを受け取ると中身を確かめる。中には今日作ったであろう唐揚げ、卵焼き、おにぎりが入っていた。


「あれ? 俺のちょっと多くね?」

「白井君は今日頑張ってくれたからって部長がちょっと多めに入れてくれたの」

「そうか、これで今晩は楽出来る」


 重労働した体で帰ったあとに色々と料理をするのは億劫だった和樹には部長の計らいは素直に嬉しかった。改めて、部長にお礼をしよと姿を探していると…


「白井君」

「あ、部長さん。これ、ありがとうございます」

「あぁ、うん。こっちこそ今日はありがとうね」


 和樹がお礼を述べると手を振って応える部長。実際、和樹の働きがなかったらもっと時間がかかっただろうと判断しているのでこれくらいの謝礼は当然だろう。

 それよりも部長としてはここからの話が大事であった。


「白井君」

「はい?」

「……料理部入る気ない?」

「えっ?」


 部長の言葉に呆然とする和樹。しかし、驚いたのは和樹だけでなかった。雪や桜香、それに料理部である竹内も目を丸くしながら状況を眺めていた。


「君の腕は確かだよ。それをウチでもっと発揮してみない? ウチでは作ったものは皆で食べたりしてるから味の感想も聞けるし。それに君も『人に食べてもらうのは嬉しい』って言ってたよね、男の子が入ってくれると他に料理が好きな男子も来てくれると思うんだ」


 部長の言う内容にも一理ある。その証拠にまわりには和樹以外に男子がいない。これではもし入りたい男子がいたとしても入るに入れないだろう。

 真剣な眼差しで和樹を見つめる部長。その真摯な態度に和樹はふざけた返答は出来ないと判断した。数秒の沈黙が流れる。そして、答えを伝えるべく和樹は口を開いた。


「……すみません、お誘いは非常に嬉しいですが無理です」

「どうして?」

「話した通り、自分には家のこともあります。部活をしている時間はないんです」

「ウチは週一だからそこまで負担にはならないと思うよ?」

「ですが、勉強もしないといけませんし、それに……」


 チラッ、と雪のほうに視線を向ける和樹。その視線に気づいた雪は困った表情を浮かべていた。


「それに?」

「まぁ、色々とあるんです」

「……そっか、ごめんね。なんか無理やりな感じで」

「いいえ、誘ってもらえたことはありがたいと思ってますよ。また機会があれば是非呼んでください」

「うん、そうさせてもらうよ」


 部長はそう言うと部員らしい人たちに指示を出すためその場を離れた。竹内も手伝おうとしていたので和樹たちは再び竹内に挨拶をすると家庭科室から出て行ったのであった。



☆☆☆☆☆☆



「いえ~、大量大量」


 帰り道、人通りの少なくなった道を和樹たちは歩いていた。

 竹内から渡された袋を提げる和樹の顔は満足げといった様子である。


「良かったですね和樹君」

「おう、あとは味噌汁でも作ってやればいいだろう、今夜は楽だな」

「……」


 和樹が珍しく生き生きとした口調で言葉を紡ぐ。桜香もそれを受けて微笑みを浮かべていた。しかし、一人だけどこか浮かない顔をしている者がいた。


「あの、雪ちゃんどうかしました?」


 いつもはバカみたいに明るい雪が静かなのがやはり気になったのか桜香が心配そうに声をかける。だが、雪は桜香の言葉に首を振るだけであった。雪のその様子に和樹はため息を吐く。何となくであるが雪が暗い理由は察していたからだ。

 それから歩くこと数分。


「あ、私今日は用事があるのでこっちです」


 駅へ向かう方向へ続く道に差し掛かった所で桜香が口にする。


「仕事か?」

「はい、これからちょっと打ち合わせをすることになってるんですよ」

「それなのに料理手伝ってよかったのか?」

「時間的には余裕がありましたから、問題ないですよ」

「そうか、じゃ、ここで、頑張れよ」

「はい! 和樹君、雪ちゃん、さようなら」

「うん、バイバイ桜香ちゃん」


 和樹と雪に手を振りながら去る桜香をしばらく眺める二人。その背中が途中で見えなくなると、雪がおもむろに口を開いた。


「……白井君」

「なんだ?」

「あの、料理部興味あった?」


 恐る恐るという感じで雪は訊ねる。いまだに前を向いたままの和樹はしばらく宙に視線をやると答えた。


「まぁ、全くないと言えば嘘になるかな」

「そう……」


 和樹の答えを聞くと雪はそのまま黙り込んだ。誰もいない道を眺めながら、雪は罪悪感を感じる。

 和樹が料理部の誘いを断ったのは恐らく、BGOをしているからだろう。一分でも一秒でも時間の惜しい今の時期に部活などに入っている余裕などない。そんな時間があるなら掲示板でも見て情報を集めたほうが効果的だからだ。

 だからだろう、和樹をBGOに誘った自分のせいで和樹がやりたいことを妨げているという、ある意味和樹の邪魔をしているということに雪は心を締め付けられる思いをしていた。


「お前さぁ、自分のせいとか思ってる?」

「え?」


 いきなり、自分の考えを言い当てられて戸惑う雪。それが顔に出ているのだろう、雪の表情を見た和樹は「はぁ…」と嘆息すると軽く雪の頭を叩いた。ソフトタッチだったので痛くはない。


「あのな、前にも言ったと思うけど、BGOを始めたのは俺の意志だし判断だ。そのせいで自分がやりたいことが出来ないなんてのは結局は自分のせいなんだよ」

「で、でも……」

「それに料理部みたいに周りが女子だらけの空間にいるとか俺には無理だね。想像しただけで疲れる」


 そう言って苦い顔をする和樹を見て雪は、何と言えばいいのか分からなくなった。


「……白井君」

「なんだ?」

「めい、わくかな?」


 その声は弱々しく、そして覇気がなかった。まるで怯えているかのような瞳で和樹を見上げる雪をこちらも覇気を感じさせない声で言った。


「お前が迷惑かけるなんていつもの事だろう?」


 まるでそれが当然とばかりに口にする和樹。そして、その自然的で嘘がない態度に雪はすぅ、と肩が軽くなるのを感じた。

 そして、先ほど和樹が発した言葉に対して頬を膨らませて抗議する。


「いつもはないでしょ、いつもは」

「……この間、間違えてエンカウントしたモンスターにやられそうになったのはどこのどいつだよヒーラー」

「うぐっ」


 すっかりと元に戻った雪に和樹も思わず笑みを浮かべる。


 やはり、雪には元気がよく似合う。この笑顔や元気がどこかで崩れず、明るいままでいるように。


 和樹の言葉に反論できず唸る雪を横目に静かにそう願ったのであった。




 









次回から第四章に入ります。

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