第百八十二話 予選6
カキン、カキン、と金属同士がぶつかり合う激しい音と魂から漏れ出ているかのような熱い叫び声が広がる。音は互いに共鳴しあい、その場を戦場へと駆り立てている。
『F会場、残り十人! 果たして生き残るのはどのプレイヤーか! おぉっと、A会場では【狂獣】がまた一人近づいてきたプレイヤーを振り払ったぁぁ!! まさに誰も近づけられない!!』
観客席の上空で見やすいように小さくなったバトルフィールドを見下ろしながらNYAが忙しなく実況していた。だが、20あるバトルフィールド、それを一つ一つ見ることは難しい。なので、自然とみんな見たい部分だけを見るようになる。
「っ! この」
「あわわわ、シロ君危ないです」
目の前に敵とつばぜり合いになるシロの背後から弓を構えるプレイヤーを見つけたフィーリアが焦りの声を上げた。
「よっと」
「みぎゃぁぁぁ!」
しかし、スキルで相手の攻撃を把握したシロは矢が放たれるの前にマジックパックからクナイを取り出し相手へと投擲。見事、額へと命中した。
「…なんでノールックで後ろの敵に当てられるんですか」
その様子を見てリーシャが訊ねる。どう考えてもおかしい。
「シロ君曰くそういうスキルみたいだよ」
「レベルも随分と上がりましたしね」
「もうお二人は慣れたみたいですね」
「慣れちゃった」
「慣れちゃいましたね」
「……はぁ」
だが、もう何度もシロの規格外な動きを見ているユキとフィーリアからしたら今更な話である。
人間、適応する生き物なんだなぁっと二人を眺めながらリーシャは呆然と思うのであった。
☆☆☆☆☆☆
「うりゃぁ!」
「っおと」
敵からの剣を頭上を低くして躱す。しゃがみ込み、水平に蹴りを入れて相手の足を払った。
「ってい」
「ぐえっ!?」
体勢を崩し倒れた相手の喉元に木枯らしを突き刺す。一気にHPを失い、シロの目の前にいた敵は光の粒子へと姿を変えて消えた。
「次」
いつもなら一息つくところであるが、シロはすぐに刀を戻し周りに視線を寄越す。今この場は戦場、一時でも気を抜いたらどこからやられるのか分かったものではない。
(【極視】っと…)
ぼそり、と脳内で呟くとシロは自身の視界が空中へと移り変わる感覚になる。自分の脳天が見え、そこから徐々に高度が上がっていく。すると、自分の遥か後方で魔法を放とうとしているプレイヤーを発見した。どうやら漁夫の利を狙っているみたいだ。
スキルで敵を発見したシロは、後ろに備えているマジックパックからクナイを取り出し上にぽいっ、と投げた。
「喰らえ! 【ロックバレット】!!」
人の拳大の無数の弾丸がシロへと迫った来た。目で追うのが難しい速度で飛んでくる岩の弾丸。そして、次の瞬間岩はシロへ命中する__
__はずだった。
「ふんっ」
「何っ!?」
岩が命中する前に、突然と体を反転させたシロは右手に持つ刀で命中するであろう物だけを選別し、躊躇なく一閃させた。
木枯らしの芸術的な切れ味によって真っ二つになった岩は無様にも粉々になり消えた。
あり得ないことに口を開けて呆然とする敵。しかし、シロはいつものように澄ました顔をして刀を鞘に納めると手のひらを空中に置く。
そこへ、ストン、と先ほど放り投げたクナイが着地。刃先を敵に向けると余計な力を加えることなく真っすぐにクナイを投げた。
「よっと」
「がっ!」
投げられたクナイは敵の額に命中。どうやら残りHPも少なかったらしい相手は光へと還った。
それをシロは見送ると次の標的をさっきと同じように探し出した。
戦闘が始まって大体10分ほど経過している。残りも見た限り30人はいないくらいになっていた。その中に、ユウキの姿も見える。
(へぇ、結構しぶといな)
弟子の頑張る姿を発見したシロは素直にそう思った。周りはA~Cランクと自分より上の人間ばかりの中でここまで生き残っているのは実際凄いことである。
(っと、他所の心配している場合じゃなかったな)
ここでは何が起こるのか分からないのだ。とっとと行動をするべきだ。
シロは再びスキルを発動させる。周りは阿鼻叫喚の生き地獄、自分が勝つために相手を陥れる世紀末も真っ青の世界だった。
剣と剣が重なり合う音と魔法が爆ぜる衝撃。喧騒と呼ぶには優しいやかましさが存在していた。
「さぁて、次はどうするかな…」
視線を右へ左へとやって獲物を探すシロ。残り人数を考えて効果を半径3mにしておく。乱戦において【極視】ほど強いものはないが、逆に言えば一対一ではあまり役に立つ品物でもないのだ。だから、シロは予めスキルの設定をいじった。
だからだろうか__
__勢いよく迫る斬撃に反応が遅れたのは。
「っっ!?」
右から来る斬撃を視界の端で捉えたシロは咄嗟に木枯らしでガードする。しかし__
(おもっ!!)
飛ぶ斬撃技などBGOに数多ある。だが、これほど重い斬撃を受けたことはない。ガード越しから強い衝撃を受けたシロは僅かにその場から後退させられた。
何とかガードが間に合ったシロは、どのくらいダメージを食ったかとHPを確認する。
「えぇ! めっちゃ減った!!?」
満タンに近かった体力が二割ほど削れてしまっていた。
唐突な出来事に慌てるシロ。そこへ、一人の女性の声が聞こえてきた。
「おや、意外といい反応でしたね」
HPが減ったことに驚いているシロは反射的に声のした方向に顔を向ける。
軽装の鎧に濡れ烏色の長い髪の毛。両手で握っている真っすぐと伸びている剣。西洋の女騎士を彷彿とさせる凛々しい佇まいの彼女の視線とシロの視線がバッチリと重なり合う。
ぶるっ、と何故か体が一瞬震えた。
それは彼女の凛々しい佇まいから発せられている強者のオーラがなす業なのだろうか。だけど、それと同時にシロは口角がずり上げるのを我慢していた。
本戦が始まるまであまり戦いたくないと思っていた相手であるが、逆にどこかで彼女の実力を測りたいとも考えていた。
「……【剣皇】アリス」
BGO最強の剣豪は相変わらず自分を眺めていた。




