番外編 柊雪の告白
彼という存在を認識したのは、ほとんど偶然に近い。
入学して最初のテスト結果の張り出しを見ようと廊下を出た時だった。私たちの高校では上位50位から上の人の名前を張り出すことになっている。廊下には、もしかして自分の名前が張り出されているかもと思って見に行く生徒でごった返していた。かく言う私も、入学してすぐに仲良くなった美紀ちゃんと面白半分で見に行った。
「わ~、結構人がいるね」
「そうね…」
私の漏らした感想に美紀ちゃんは何故か心ここにあらずという風に返答してきた。見ると、美紀ちゃんは廊下の端に立っている男子たちを睨みつけている。何か嫌な事でもされたのだろうか? でも、見るからに男の子たち怯えているし、美紀ちゃん気が強いから何か実害がある嫌がらせとかされてもすぐに復讐するタイプだと思う。
「どうしたの美紀ちゃん?」
「ううん、雪が気にすることじゃないわよ」
「う、うん…」
そういう美紀ちゃんは笑顔だけどどこか怖かった。それと、所々から感じる視線も気になるが美紀ちゃんに訊くことも出来ない。だって聞いたら一層怖くなりそうだもん。
そんなやり取りをしながらどうにか順位表の前に辿り着いた。
「あぁ~、やっぱりダメか…」
「まぁ、予想はしてたけどね…」
期待はしてなかったけど、落胆してしまう私たち。順位表を見るとやはりというべきか誰も彼も私より点数が高い。純粋に凄いなって思ってしまう。
すると、私の横に誰かが立った気配がした。顔を向けるとそこには、大人しそうな顔をした男の子がいた。隣で美紀ちゃんが警戒しているような目つきをしているけど、男の子はその視線に気づいていないようで目線は順位表に向けられていた。
下から順に上へと移り変わっていく視線がふと、止まった。そして、次には不服そうな顔つきへと変わった。
「ちっ、18位か…」
えっ、18位でその顔なの!? 十分凄いと思うけど…。
男の子は、それ以上は無駄とでも言うように颯爽と去っていく。その際に、彼はぽつり、と独り言を残していった。
「次は10位圏内に…」
その呟きを聞いたのは私だけのようで、彼が去った空間には他の生徒が入って来ていた。
「雪、私たちも戻ろう」
「……うん」
人も増えていく一方、長居は無用と私たちはそこから離れる。離れる時に私はあの悔しそうな顔をしていた彼の言う18位の部分に書かれている名前を確かめた。
18位 白井和樹
しらい、かずき君か…。友達になれるかな?
私は反復するように頭で再生してから美紀ちゃんの後を追った。
☆☆☆☆☆☆
二年生になった。
私は偶然にも彼と同じクラスになった。しかし、彼は大人しめというか、人と距離を取っているきらいがある。友達100人以上を目標にしている私としてもは是が非でも友達になりたいと思う。
だから、私はまず彼を観察することにした。白井君は、頭は言うまでもなく良かった。あの時の目標にしていた10位も次には達成していた。凄いなぁ…。
それと、運動神経もいい。最初の頃に行われたスポーツテストでも運動部の人たちと変わりない結果を残していた。……意外とハイスペック。
でも、観察する中でやっぱり彼は人とコミュニケーションを積極的にするタイプではなかった。休み時間は寝るか教科書を読んだり、昼休みはどこか行っているからよく分からない。放課後もすぐに帰宅することが多い。
意外と謎を秘めている男、白井和樹君。……本人が聞いたら怒るかも。
そんな中、私は春休み中にある人に勧められてとあるゲームをしていた。
Break Ground Online 通称BGO。
とあるゲーム会社が発売している大人気VRゲーム。これでも私はゲームはそこそこ嗜んできた。いや、昔はやっていたけど高校に入ってからは遠ざかっていたと言うべきだろうか。
簡単に説明すると剣や魔法を使ってモンスターを倒していくゲームなのだが、多くの人に人気でたくさんの人と交流することが出来る。人と話したり何かをしたりすることが好きな私には向いているゲームだと思う。VR機などもパパにもらったのだが、データは流石に私のお小遣いから出した。パパは昔から私を可愛がっていたからデータ代も出そうとしているけど高校生になったのだから自分で払いたかった。
話を戻そう。
BGOは結果から言って当たりだった。綺麗な景色に、激しい戦闘。どれも私の心に深く刺さった。
だが、ここで一つ問題が発生した。
BGOを始めてから20日ほど経過した頃、私はPKに遭った。姿が見えないPK犯『シルバー』、彼は私からお気に入りのアイテム、白狐を奪ったのだ。あれはあるクエストをクリアして集めた素材で作った大事な杖。簡単に諦めることなど出来なかった。色んな人に協力を求めたけど、ことごとく難しいと言われた。
後から考えるに、一度奪われたものを取り返すというのは砂漠のなかのコインを探すのと同じくらい難しいのだろう。
中々、協力してくれる人が現れない中私はリアルでも難攻していた。
白井君は思った以上に人と距離を取っていた。いや、ちゃんと会話は返すし必要なコミュニケーションは取るけどそのどれもが上っ面というか仮面を被っているような感じがした。
はぁ、ため息が自然と漏れる。自宅の自室に設置されているベッドの上で私は考えにふけっていた。上手くいかない現実と仮想現実との間でもがき続けるも、一人で出来ないから誰かを頼ろうとしても失敗する。既に心は疲弊していた。
そんな時、私のスマホに通知音が鳴った。
美紀ちゃんかな? といつもと変わらない手つきで私は電源をつける。だが、いつものメッセージアプリには何も表示されていない。表示されているのはメールのほうである。言いようのない不信感が私に纏まりつく。
今時、メールを使ってメッセージのやり取りを行うことは少ない。それに、美紀ちゃんにすら私はメールアドレスを教えていない。知っているのはごくわずかな人だけ。なのに、このメールには該当するアドレスの人がいなかった。
恐る恐る私はそのメールを開いた。
『白井和樹に協力を求めろ。そうすれば、君の悩みは解決するだろう。』
その内容に私は、言葉を失った。
何? どうして? なんで?
疑問が、戸惑いが、混乱が私の頭の中を埋め尽くす。
一体誰がこれを送って来たのだろう。どうして白井君の事を知っているのだろう。そもそも、白井君に協力を求めろというのはどういう意味だろう。
考えたら増える疑念が私に降りかかる。それでも、私はこの文章に釘付けになっていた。
もし、この文章の言う通り白井君に協力を申し込めば私の武器が返ってくるかもしれない。そして、もしからしたらかもしれないが__白井君と仲良くなれるかもしれない。
勿論、このメールは十分怪しいし、信憑性を感じられない。
だけど、それでも……。
私は、今とんでもないことに手を出そうとしているかもしれない。このメールの通りにして白井君に嫌われる可能性もある。
「………」
私はスマホを机に置いた。




