第百十八話 レイドボス3
エルたちは武器を構え直し、プレイヤーたちを蹂躙していくデビルトスを睨みつける。その先頭に立ち、今日一番の笑顔を輝かせるのは彼女たちのエース、ミルフィー。
そのミルフィーは、相棒のレイピアを片手に目の前に佇む怪物を見上げていた。先ほどの範囲攻撃によって地面はもはや最初の美しい湖の原型を留めておらず、この世の終わりと呼ぶにふさわしい有様であった。
「GYOOOO!」
「うんうん、元気だね~」
「HPも二本目の半分、それでこれってのはちょっと危ないかもね」
「大丈夫だよ~いつも通りすればいけるよ~」
「アンタはもう少し危機感というものを覚えなさい」
四本あるうちの二本目の半分を超えた現状で、生き残っているプレイヤーは結構絞られてしまった。デスペナルティを喰らった者たちは最初のエリアからすぐに向かっているだろうが、それでも時間はかかってしまう。さらに、ステータスが減らされているためにあまり役に立つとも思えない。結果、厳しい戦いになるということ間違いない。
それでも、一括してこの中で勝利を諦めている者はいなかった。
「平気平気~、だって皆がいるんだもん~」
何の根拠もないその発言であるが、その言葉にギルドメンバーたちは途端に微笑みを浮かべた。
根拠はないが、そこには確かな自信と確証が存在していた。
「はぁ、しょうがないわね」
「ふふ、エルちゃん照れてるの?」
「べ、別に照れてないわよ!」
「…ツンデレ?」
「…可愛い」
「はいはい、そろそろ準備してねギルマス」
「くっ、後で覚えてなさいよアンタたち…」
やれやれと首を振るエルにメンバーから要らぬ野次を飛ばされる。否定しづらいために悪態をつく。
最初彼女が加入した頃、ミルフィーがこんな風に皆と力を合わせて戦う光景を思い浮かべるなんて想像が出来ただろうか。過去のことを思い出してフッ、と笑いを浮かべるエル。
場は騒然としており、デビルトスに魔法やスキルを当てていく勇敢な猛者たちで溢れていた。
「さぁ、やるわよ皆」
『は~い』
一斉に動き出すメンバー。
まずは先頭を走るエルがヘイトを集めに入る。
「【ヘイトゲット】」
エルが放ったスキルがデビルトスに命中すると、彼女たち以外を相手にしていたデビルトスの顔がエルへと向けられた。
【ヘイトゲット】などの壁系スキルはそのスキルレベルの差によって効果の強弱を決める。エルのような上級プレイヤーが使うとほぼ大抵のモンスターのヘイトを集めることが出来る。しかし、それでもエルにはあの【絶対強者】のスキルを上回ることはできない。
ヘイトを取ったエルは大剣を前に構え、相手の動きを注意深く観察した。
デビルトスの体が真後ろへと向いた。
「っ!?」
その瞬間、エルは横から強い圧迫感を感じた。右を見ると、物凄い勢いでデビルトスの尻尾が迫って来ていた。
「【エアドーム】!」
即座にエルは自身に風を起こして、防御体勢へと入る。その数秒後、体にダンプカーでも突っ込んだのかというほどの衝撃が襲い掛かった。
ズズズズズ、と地面を抉りながらエルは歯を食いしばり衝撃に耐える。刹那の時間がエルには数秒に思えた。
だが、耐えた甲斐があった。
「ふう…」
落ち着いて呼吸を整えるエル。そこには彼女の手前で止められた巨大な尾があった。
「嘘だろ!?」
「単体であれを受け止めやがったぞ!」
華奢な少女が自分の数倍ある巨大な尾を受け止めた事実に彼女の戦いを見たことがない人々に驚愕と戦慄の声が聞こえる。
そんな声など聞き慣れているエルは、それらを無視して尾を止めることに集中していた。一瞬でも気を抜けばたまらず吹き飛ばされるということが実感していたからだ。そして、そのことが分かっている者たちはすぐに行動を起こした。
「…とう」
「…やあ」
やる気を感じさせない声とともにエルが止めていた尻尾が空中へ打ち上げられた。
打ち上げられた尻尾は虚しく空中を泳ぐ。その間に一筋の光がデビルトスの背中へと突き進んでいった。
「GYOOOO!」
光線を浴びたデビルトスは悲痛の叫びをあげる。すぐに反撃に出ようと身体を前へ向けた時。
既に彼女は間合いへと入っていた。
「【クイーンズピア】」
光は太く、厚くなりデビルトスの腹へ突き刺さった。強突な一撃は深く、体を内側から壊すようにボスの体に抉り込む。喰らったデビルトスも声を上げることすら出来ず、口をパクパクと動かすだけ。
それでも、レイド級には致命傷となるほどでもない。デビルトスはミルフィーへ向けて鋭い爪を振り下ろした。
「っと…」
「GYOUUU」
「怖いね~」
「ミルフィー、スイッチ!」
掛け声と同時にミルフィーは後ろへ下がる。逆にララとルルの双子姉妹が入れ替わるようにデビルトスへ武器を振るう。
「GYOOOO!」
「…っ!」
「…くっ!」
だが、デビルトスはブレスを履いて応戦し二人を近づけないようにする。そう上手くはことを運ばせてくれない。
「ルカ!」
しかし、それも彼女たちには想定内。エルはすかさず後方にいるスナイパーへ合図を送った。
「【スナイピング】、【ジャイロアロー】」
【スナイピング】で相手の弱点部位を見極め矢を放った。矢は竜巻のように回転しながらデビルトスの額に命中する。
「さすが…」
「余裕…」
寸分の狂いもなく命中させた手腕にエルは感嘆し、ルカは当然とばかりに次の矢をセットする。
弓矢を武器とする者にも様々なスタイルはある。短弓、長弓、ボウガンと、大きく分ければ弓矢を使う者はこの三つに分類される。その中でも、一撃に重きを置く者、連射を優先させる者、機動性に着目する者とさらにスタイルは多岐に分かれる。その中でもルカは一撃必殺型の典型的なスナイパータイプである。彼女の一撃は重く、さらに射程距離の長さから一対一のPvPやPvEは強くないが集団戦などではその強さが発揮される。
そこに目を付け勧誘したエルも洞察力が半端ないと言える。
「第二射準備…」
「それじゃ、時間稼ぐわよ」
「「「ガッテン、軍曹」」」
「誰が軍曹だ!」
「楽しそうだね皆」
ルカが二発目を準備する間、時間を稼ごうとするメンバー。コントを繰り広げる前衛組にデビルトスの咆哮が轟く。
「GYOOOOO!!」
「【ヘルブラスト】」
その口に、青白い炎の球が入り込み弾けた。
「GYOOOOO!?」
「あっ、ごめんなさい」
「……容赦ないわね」
「うぅ~わざとじゃないんです」
ルカの言葉にミカは涙目で否定する。その姿は庇護欲を掻き立てるが見慣れてしまったルカは、流し目で見てから相手を見る。
高温の球を受けて口はまさにパニックだろうデビルトスはそれでもなお口を開け、攻撃を繰り出そうとしていた。高温を放ったミカに対抗するように氷点下のブレスを噴き出した。
「【光の軌道】」
「【風射太刀】」
「【フレイムバレット】」
爆発と衝撃
デビルトスのブレスとミルフィー、エル、ミカのスキルがぶつかり合い余波が周りに吹き込む。森は荒れ、他のプレイヤーたちも飛ばされないように踏ん張る姿が見えた。
それを受けてから二つの影が前へ出る。ハンマーとモーニングスターを相手目がけて殴りつける。
「GYOOOOO!!」
「「……むっ」」
だが、それをデビルトスは爪を用いて防ぐ。防がれた双子は表情をピクリッ、と動かした。いい気分ではない様子である。攻撃を防いだデビルトスはそのまま爪を地面へ突き立てるが、ララとルルもバックステップで回避して距離を取る。
「ミルフィー」
「エル」
「「了解」」
双子の呼ぶ声に答えながら二人は、己の武器を持ち走った。
エルは大剣で上段構えをとり、スキルを発動させる。
「【ヘヴィースラッシュ】」
大剣の重量に逆らわず下に降ろされた。衝撃がそのまま地面へ移され、衝撃波が発生しデビルトスに襲い掛かる。
デビルトスの爪に衝撃が走るが大した傷みもない。それは、スキルを使ったエルも承知のことだ。
「よそ見は厳禁だよ~」
どこからともなく現れたミルフィーがレイピアを一瞬の時間で5回刺突する。ドドドドド、と刺突の音が鳴るがそれまでミルフィーの攻撃に悶絶していたデビルトスが今度は怒りの声とともにブレスを吐き出した。
即座にそれを回避するミルフィー。
「GYUUUUUUUU」
「さすがだね~」
割れた地面の中で比較的安定した足場に着地するミルフィーは咆哮を上げる相手を眺める。
凝視すると相手のHPバーは二本目が尽きかけていた。ようやく折り返し地点へと差し掛かったようだ。だが、これまでミルフィーの攻撃に耐えられていなかったはずだがまるで慣れてきたようにミルフィーの攻撃を受けてからの反撃の速さが変わっていた。
「これは、厳しくなりそうかも…」
神と名乗る異形の咆哮はおぞましさをより一層増して森へと響き渡った。




