二人は似た者同士?
「ふっ、ふっ……」
いつものように早朝からトレーニングルームでダンベルカームを繰り返し、日課である筋トレに俺は励んでいた。というのも、昨日の事を反芻していたから、全く寝れなかったのだ。
あの撮影終了後、俺は平気な態度を気取ってはいた。七海やあーちゃんと別れ神奈さんと一緒に帰宅する。ここまでは良かったんだ。だけど、風呂に入って一人になった時あの光景が蘇ってきたんだ。プリクラのツーショット時、神奈さんが俺に――ってな?
ドスン!
「はぁっ、はぁっ……駄目だ。集中しろ、俺」
自分で喝を入れるべく、ダンベルを落とし、そして両手で頬にビンタをかました後で長く息を吐き出す。これで少しは雑念を消せた……ような気がする。
「よし次は……って、まだ五時かよ!?」
トレーニングルームの出入り口付近にある置き時計を見て俺は驚いていた。時計なんぞ全く見てなかったから、時間こんなに早いとは思ってなかった。この時間はいつも起床時間だけど、もうメニューは一通り終わってる。今日は学校も休みだし寝るか……? いや――――
「待てよ……? 久しぶりにランニングでもやるか。不完全燃焼もいいとこだし」
そう呟きながら予め用意していたトレーニング用の赤ジャージに着替えてトレーニングルームを後にし、家の外へと出ようと玄関に向かうべく、渡り廊下を忍び足でゆっくりと進んでいたのだが……。
「あ……お、おはようございます。蓮二さん」
「っ!?」
その途中、神奈さんに見つかってしまった。クソッ、いつもなら嬉しいんだが今は勘弁してくれ! 昨日の記憶思い出しちまうから!!
「す、すんません神奈さん! 俺今から走ってきますんで!!」
「えっ!? ちょ、ちょっと蓮二さん!?」
慌てて玄関までダッシュで向かい、素早く運動用の黒のスニーカーを履き、豪快に家を飛び出した。
神奈さんごめん、今は本当に無理なんだって! だって、昨日起きた事はこの一年でも有り得なかった事なのだから――――!!
「蓮二さん……」
私は洗面台であの人の名前を呟いていました。
それにしても、まさか逃げられるとは思いませんでした。とはいえ昨日の事を考えれば仕方ないですよね。私かられ、蓮二さんに……っ〜!!
「私も何であんな事を勢いでしてしまったのよ……!?」
そう、私は昨日蓮二さんにした事をずっと考えていたせいで眠れなかったんです。というのも、この前蓮二さんと一緒に寝た時と同じで、凄く恥ずかしいと思う気持ちが芽生えてしまったからなんです……!
「何で私って実践する時は問題ない癖に、やった後でこうなるの……?」
これに関しては母さんからも言われた事です。『貴女は事を終えた後が駄目ですね。心を最後まで強く持ちなさい』と……。正にそうだと思います。でも仕方ないじゃないですか! なってしまうものはなってしまうんですから!!
「それに――」
部屋に閉じ篭っているのも嫌なのでとりあえず顔を洗おうと思ったんですが……蓮二さんに見られてしまいました。この、酷いクマができている顔をっ……!
「朝から踏んだり蹴ったり……! もういやぁ……」
「あ、お嬢様。おはようございます」
「あ……レイ〜!」
「お、お嬢様!?」
起床して姿を見せたレイの胸に飛びつき、私は暫くずっとそのままでいました。自分のした事を後悔してます。幾ら負けたくないからって……。勢いというものは恐ろしいという事を、改めて思い知らされました……!
「はぁぁ……」
何処まで走ったのかなんて今の俺にはどうでも良かった。ただ、今は神奈さんとろくに顔を合わせらんねぇ。この前の一緒に寝た時はギリギリなんとかなったが、今回のはレベルが違いすぎる。
「クソッ……」
ベンチに寝転がっている俺は晴れ晴れとした空を見上げ、浮かんでいた雲に焦点を合わし、何故か自然とそれに向かって右の掌を伸ばしていた。
「全く……いいよなぁ? 何も考えず、ただプカプカと空に浮かんでるだけでいいんだからよ……?」
「どうかしましたか? お兄さん」
「あぁっ?」
やばい、思わず威嚇してしまった……イライラしすぎだろ俺。謝ろうと思い体を起こした俺は声の主の姿をこの目に移した。
そこには、身長140センチ位の青髪の黒ジャージを着た男が立っており、ニコニコと笑顔をこちらに向けている。悪い事をしたな……。
「す、すまん。ちょっと気が立っていてな」
「いえ、気にしてませんよ。それより、何があったんですか? 僕で良かったら聞きますよ」
「え?」
こうして、何故か俺は初対面の男に名前とかは伏せて昨日起きた事を全て説明していた。最初こそ抵抗があったものの、この男が聞き上手だったので、気付けば普通に友達との感覚で話していた。
「成程……そんな事が」
「ああ。こんなんで感情制御出来ないって、中学生かって話だよな」
「仕方ないと思いますよ? 僕もお兄さんと同じような経験ありますから」
「む……」
このガキ、経験あるのかよ。人は見かけによらぬものとは言うが正にその通りだな。それに何か妙に大人びている……もしかして、ガキじゃないのかもしれないな。低身長の大人だっている訳だし。
「お兄さんって言ってくれるけど、俺なんか歳十五だぞ?」
「僕、十四ですけど……」
「何!?」
う、嘘だろおいっ! 歳下なの!? 一個下という事は、コイツ中坊かよ。なら尚更へこむわ……。
「情けねぇなぁ、俺……」
「そ、そんな事ないですって!」
左肩を二回ほど軽く叩かれ、慰められる。こいつ良い奴だなぁ? 全く知らない俺なんかに優しくしてくれるなんて。俺は今猛烈に感動してる……。
「ありがとな。お前のおかげで何かスッキリしたぜ」
「いえいえ。良かったです」
ガキなんて思って悪かったな、中坊……って、そういえば――――
「そういや、互いに名前聞いてなかったよな?」
「あ、そう言えばそうでしたね……」
「これも何かの縁だ。折角だから名乗っとくぜ? 俺は――」
「おい、いたぞ!」
俺が名も知らぬ中坊に名乗ろうとしたその時、俺たちをスーツを着た男たちが取り囲んでいた。数は……二十ってとこか。スーツの左胸付近についているバッジは劉の文字。コイツら、劉星会か!
「紅蓮二……こんな所でガキとまったり談笑しているとはな? ラッキーだぜ」
「チッ……!」
不味い……。こっちは俺とこの中坊の二人。俺一人だけなら切り抜けられるが、この中坊をまずは逃がさねぇと。俺のせいで巻き込んでしまったからな……って、あれ?
隣に座っていたはずの中坊がいない? いったい何処に――――
「誰がガキだって? オッサン」
あ、あの中坊劉星会の奴に喰ってかかってやがる。身長差が約30センチ位あるってのに勇気あるな、アイツ……って、そんな事考えてる場合じゃねぇ!
「あぁん!?」
「おいっ! やべぇから逃げろ!!」
「大丈夫ですよ、お兄さん」
俺の方を向き優しく慈愛に満ちた声で話しかけてくるが、俺はそれと同時に言葉を失った。何故なら、既に右拳を振り抜いて劉星会の一人の顎に命中させ、沈めていたからだ……!
「僕、強いですから」
『っ……!?』
おいおい、何て力だよ? 相当なハードパンチャーだな、この中坊。それに相手を見てなかった……が、的確に顎を打ち抜いた。これは相当喧嘩や修羅場に慣れてないと出来ない芸当だぞ……!? 俺ですら確実に出来る訳では無いのに、いとも簡単にやってのけやがった……!!
「フッ……どうやらそうみてぇだなぁ?」
さっきの一撃に連中が怯んだ隙に俺はニヤリと笑みを浮かべて立ち上がり、鼻と拳を同時に鳴らしながら中坊の隣に向かって歩き出す。
あんなスゲェものを魅せられたら、こっちだって負けられねぇだろうが……?
「そんじゃあ残り全員、とっとと片付けるぞ。やれるな?」
「はい!」
俺たち二人は拳をコツンと軽く一回合わせた直後に、十九人いる劉星会の男たちの群れに突っ込み、大喧嘩の幕が上がるのであった――――!




