67話「準備は整った」
「――という事です」
俺はこの前愛さん達を招いてした話し合いの内容を、契約書を見せながら紫之宮会長に説明した。
「……まさか、平等院の者まで引っ張ってくるとは……」
紫之宮会長は口に手を当て、そう呟いた。
そして、俺の方を見てくる。
「――っ!」
その目は凄まじい威圧を含んでいた。
俺の横に座っていた佳織が、俺の服の裾を握ってきた。
「なぁ龍君、何か勘違いしとりゃあせんか?」
「どういうことでしょうか?」
俺はその紫之宮会長の問いかけに、尋ね返す。
「儂が自分の大切な会社を危険にさらされて、何もせんと思っとるのか……?」
紫之宮会長は怒気を含んだ声で、俺の眼を見据える。
明らかに怒っていると言った感じだ。
「……えぇ、会長は何もされないと思います」
「……どうしてそう思うのじゃ? 普通なら、手を打つじゃろ?」
俺は首を横に振る。
「そんな事をすれば、あなたの大切な三人の孫が不幸になるからです」
そう――今回の計画が失敗すれば、不幸になる人間は楓先輩だけじゃない。
この計画に加担した愛さんと佳織も不幸になるんだ。
「言いたい事はわかるが、楓は君が居なくなる分どうする事も出来んが、他の二人は儂の力でどうとでもなるぞ?」
「確かにそうですね……ですが、それを佳織と愛さんが望む――いえ、受け入れると思いますか?」
俺の言葉に紫之宮会長は佳織の方を見る。
佳織は俺の服を握りながら、強い眼差しで紫之宮会長を見つめ返した。
「そうじゃな……佳織と愛がそれを納得するはずない……」
俺は紫之宮会長の言葉に頷く。
「じゃが、だとしてもじゃ。儂はそれでも行動に移すかもしれんぞ?」
「いえ、それはありません。なぜならば、わざわざリスクを冒さなくても、紫之宮財閥に危害が加わらない道が一つだけありますよね?」
俺はそう言って、紫之宮会長の眼を見る。
紫之宮会長も俺の眼を見ながら、何か考えていた。
「そこまで儂を土俵にあげたいのか?」
「そうならないで済むのであれば問題ないんですが――もしもの時の切り札としてほしいんです」
「ふむ……」
紫之宮会長はそう呟くと、考え込み始めた。
俺と佳織はただ黙って、紫之宮会長の言葉を待った。
「よかろう――」
その言葉に、俺と佳織は顔を合わせて喜ぶ。
「まぁ、今回は前と違って、しっかりと儂が土俵に上げる理由を作ってきた。だからそれに答えるだけじゃ」
「はい――ありがとうございます!」
俺は紫之宮会長に頭を下げる。
それに続いて、佳織は一緒に頭を下げた。
紫之宮会長がすんなり了承してくれたのは大きい。
これで、全ての準備が整った。
もう後は時を待つだけだ――。







