65話「例え怒られたとしても、やらなければいけない事――」
「みなさんは――黒柳龍君をどういう人間だと思っていますか?」
全校生徒の視線が私に集まる中、私は簡単な自己紹介をし、そう話を切り出した。
「学年で一番勉強が出来て、運動部に所属してもいないのに運動も出来る。挙げ句には噂になるくらい女の子に囲まれている――恵まれた少年だと思っているんじゃないでしょうか?」
私の言葉に、みんな戸惑った顔をしている。
『一体何が言いたいんだ?』と思ってるのかもしれない。
――私がみんなに知ってもらいたいのは、私達の関係じゃなく、龍という少年についてだった。
その役目は本来、彼と付き合いが長い夕美ちゃんや、妹であるこのみちゃんの方が相応しいのかもしれない。
でも、この役目は他の人に譲りたくなかった。
賢い夕美ちゃんじゃなく、馬鹿な私だからこそ言えることもあると思ったの。
「ですが――それは彼が努力して得たものであり、決して生まれ持っていたものではありません。――なんてことを今言っても、意味がありませんよね。それに彼の過去を話して、同情をしてもらいたいわけでもありませんので」
私はそう言って、苦笑いを浮かべる。
本当は、龍の過去をここで言いたかった。
彼がどれだけの苦労を重ねて、この学園にいるのかをみんなに知ってほしい。
それを知れば――『黒柳は恵まれた人間だ』何て言って、僻んだりする人はいなくなる気がする。
だけど、そんな同情を買うようなことをすれば、きっと龍は怒ると思う。
だから、私は我慢する。
でもね――例え龍や夕美ちゃんに怒られたとしても、これだけは言いたかった。
「私がみなさんに知ってもらいたいのは――黒柳君は今、命の危険がある病気を脳に抱えていると言うことです」
私の言葉に、先程の花宮さんと紫之宮先輩が従妹だったという事実を知ったとき以上の、ざわつきが起きている。
舞台袖を見れば、白川会長や華恋ちゃん、それに悩み相談委員の男組二人や、生徒会メンバーが驚愕の表情をしてた。
……夕美ちゃんは額に手を当て、天を見上げてる。
……ごめんね、勝手なことして……。
私は夕美ちゃんに心の中で謝り、全校生徒の方を見なおす。
「遅かれ早かれ、彼が学校に来なくなればわかることだと思い、私の独断でみなさんに話しました。この病気は手術をすれば完全になおるそうですが、失敗すれば――命を落とすそうです」
私の言葉に、より一層ざわつきが大きくなった。
「本来なら、今すぐにでも手術をしないといけないそうです。ですが、彼は好きな人のために、自分の命を省みずに頑張ってるんです。何も、彼を助けてほしいとお願いするわけではありません。ただ、変な噂をこれ以上流して、彼の足を引っ張らないで下さい――お願いします!」
私は誠心誠意込めて、頭を下げてお願いをする。
そして私はもう一度顔をあげ、私の事を戸惑った表情で見てる生徒達を見る。
「彼が噂のような人間ではないことを、悩み相談委員が保証します。それを信じるかどうかは、これからの私達を見て決めてください。私達悩み相談委員は、これからも一生懸命みなさんの為に、働き続けます。だから、これ以上変な噂を流さないで下さい――おねがいします!」
私がそう言ってもう一度頭を下げると、夕美ちゃん、神崎君、山吹君が壇上に姿を現した。
「私共からもお願いです。どうか噂を流すことを、やめてください――お願いします!」
「「お願いします!」」
夕美ちゃんの言葉に続いて、神崎君たちも頭を下げてくれた。
ありがとう、みんな……。
パチパチパチ――。
パチパチパチパチパチパチ――。
誰かはわからないけど、一人の生徒がしてくれた拍手を皮切りに、全校生徒が大きな拍手をしてくれた。
私達はそんなみんなに、頭を下げ続ける。
少しして、白川会長が壇上に戻ってきた。
「――今回は『噂を流さないように』との注意だけで終わりますので、明日の小テストも行いません。ですが、もし今回のような噂を流す生徒を発見した場合、それ相応の処罰を与えますので、覚悟してください。それでは以上になりますので、解散してください」
白川会長の言葉に、生徒達は順に退場していった。
――もちろんその後、私はみんなから問い詰められて、龍の事を話すことになったし、夕美ちゃんにも人生初めてと言っていいくらい、説教をされたのだった――。







