64話「天使からのメッセージ」
「――龍ちゃんはね……華恋の為に彼氏役をしてくれたの」
皆の前に立った華恋ちゃんは、静かに――しかし、はっきりとした声でマイク越しに、生徒達に真実を話始める。
彼女の普通の女の子よりもかなり可愛い声を聞き、顔が綻びた男子もいる。
本当は龍ちゃんじゃなく、黒柳君ってこういう時は言わないといけないはずだけど、一生懸命話そうとしてる彼女に、そんなことを言うわけにはいかなかった。
私はただ彼女に対して、頑張れって祈り続ける。
「華恋は少し前まで、クラスメイトも気付いてくれない中、ずっといじめられてたの」
その言葉に、生徒達どころか教師陣もざわつく。
こんな大人しくて可愛らしい子が虐められてたなんて、誰も思ってなかったのかもしれない。
慌てて壇上に上ろうとしている先生もいる。
虐めがあったとなれば、県内屈指の進学校であるこの学校のイメージが下がると思ったのだろう。
そんな先生達を、白川会長を筆頭に生徒会役員が止めてくれてる。
華恋ちゃんはそんな事に気づく余裕もないのか、ゆっくりと自分のペースで話を続けた。
「その時の華恋には、クラスの中に友達がいなかったの。助けを求めようにも、助けてくれそうな友達がいなかった。だから華恋は、一年生の時に仲良くしてくれた龍ちゃんと加奈ちゃんがいる、悩み相談委員に助けを求めたの。そして私の話を聞いてくれた龍ちゃんは、注意をすると逆に怒りを買う恐れがあるからって事で、彼氏役を務めて、華恋に手を出させないようにしてくれるって言ってくれたの。それからは龍ちゃんがずっと華恋の側にいてくれた」
華恋ちゃんは一度話を区切り、何度か短く息を吸いなおす。
普段あまり話をしない子だから、今これだけ声を出すのがしんどいだろう。
それでも、彼女は話をやめようとしない。
「それにはね、ただ虐めを抑制するだけじゃなく、華恋をクラスメイトと仲良くしてくれる橋渡しをするって意味も、あったみたいなの。龍ちゃんは華恋と話するときに、近くにいるクラスメイトに話をふって、華恋と話をしてくれるようにしてた。だから今では、華恋はクラスで一人じゃなく、佳織ちゃんを始めとした、多くの友達ができたの」
そう言って、華恋ちゃんは人懐っこい、可愛いい笑顔を浮かべる。
華恋ちゃんは上手いな――と思った。
ここで花宮さんを友達とあげたことにより、彼女と彼女がリーダーをつとめるグループの子達は、虐めをしていた対象として外されたと思う。
だって、虐めの加害者と被害者が仲良くなるなんてこと、滅多にないもん。
そして彼女達を除けば、虐めをしていた子の事は、華恋ちゃんや私達悩み相談委員が言わない限り、教師陣が突き止められるはずがない。
それを無理に聞き出そうとすれば、白川会長がとめてくれる筈だしね。
「だから――龍ちゃんの事を悪く言わないで下さい」
そう言って、華恋ちゃんは頭を下げて戻ってきた。
私はそんな華恋ちゃんを笑顔で迎える。
「お疲れ様、よく頑張ったね」
私がそう言うと、華恋ちゃんは恥ずかしそうにはにかんだ。
「佳織ちゃんに言われた通り、言いたいことだけ言って、帰ってきちゃった。……うまく話せなくて、ごめんね?」
「ううん、華恋ちゃんの気持ち、ちゃんと伝わってきたよ」
私はそう言って、いつも龍がしてくれるように、華恋ちゃんの頭をなでなでした。
華恋ちゃんはくすぐったそうに眼を細目ながらも、嬉しそうに笑顔を浮かべてる。
か、かわいい……。
龍がいつも頭を撫でる理由が、少しわかったかも……。
「こーら、次は加奈の番でしょ」
私は横にいた夕美ちゃんに軽く頭を叩かれ、自分の役割を思い出す。
そう――私も華恋ちゃんと同じように、彼等に話さなければいけない。
だけど私が話すのは、華恋ちゃんのような龍との関係ではなく、私の思いだ。
「そうだね……それじゃあ――いってくるね!」
私は夕美ちゃん達にそう言って、壇上に上がった――。







