61話「信頼」
「――そうですか、じゃあ、楓先輩は大丈夫そうなんですね?」
「うん、大丈夫だよ。……まぁ、やっぱり元気はないけど、由紀がずっと傍についてるし、龍君が楓のために動いてる事を伝えてあるから、信じて待ってるって感じかな」
俺は愛さんの言葉に胸を撫で下ろす。
アリスさんが離れた後、俺は愛さんを捕まえて、楓先輩の様子を聞いていた。
軟禁状態になっていても、信じて俺の事を待っていてくれてることが、凄く嬉しかった。
「じゃあ私も仕事に戻るね? 上手くいくことを祈ってるから」
「はい、本当にありがとうございました」
俺はそう言って、ヒラヒラと俺達に手を振っている愛さんに頭を下げた。
「――で、なんでお前は頬を膨らませているんだ?」
俺はそう言って、先程から俺の横で頬を膨らませてムスッとしているギャルを見る。
「べっつに~」
そういう佳織は、何故か唇を尖らせていた。
一体、なにが気に入らなかったのだろうか……?
「クロヤンって……結局ロリコンなの?」
「は……?」
こいつは一体何を言ってるんだ?
『年上好き?』って聞くならわかる。
なんせ、さっきまで佳織の事を放っておいて、愛さんと話をしていたし、その内容も楓先輩についてだったからだ。
しかし、なぜ『ロリコン』と聞いてくる?
「意味がわからないんだが、なんでロリコンになるんだ?」
「だって、さっきまでずっとアリスさんを見てたじゃん……。話し方も優しげだしさ……」
「えー……」
まさかのそれかよ……。
確かにアリスさんの事をジッと見ていたけど、それは別の意味だし、優しく対応したのは相手が大事な取引相手だったからなんだが……。
というか、それで何故佳織が拗ねるのかがわからない……。
「てか、アリスさんってロリ枠なのか? 身長は佳織と一緒くらいだし、顔も大人っぽいぞ?」
「そうだけど……なんか雰囲気とか話し方が幼稚っぽいから……」
「そ、そうか……」
うん、俺はなんでそんなどうでもいいことを気にしたんだ……?
今言うべきことは、そんなことじゃないだろう……。
「あのな……俺が好きなのは楓先輩だ。それはこれからも変わらない。だから、変な探りはもうするな」
俺がそう言うと、佳織の頬がより膨らんだ。
あれ……?
俺なんか言うこと間違えたか?
佳織の顔を見ると、今にも『ムッスー』とか、言いそうな顔をしている。
とりあえず何言ってもふてそうだったから、俺は黙って佳織のこの顔を眺めていようと思うのだった――。
2
「――それはそうと、水沢さんや……まぁ、あれだけのことをしでかしたクロヤンの妹はともかく、桜井さんの事は買い被りすぎじゃないの?」
俺が相手をしなかったせいか、少し寂しげではあったが、頬が普通の状態に戻った佳織がそんなことを言ってきた。
「それは飛鳥さんにした話の事か?」
俺の質問にコクン――っと佳織が頷いた。
ふむ……。
「そういえば佳織って、加奈の事を自分の劣化版だと思ってたよな?」
「そ、そんなこと言ってないよ?」
俺の突然の質問に、佳織は笑顔を俺に向けてくる。
その顔は普通に可愛いんだが、そんな笑顔に誤魔化されたりはしない。
「言ってなくても思ってるだろ? それに似たような事を前に口走ってたしな」
「うっ――」
心当たりがあったのか、佳織はバツが悪そうに顔を背けた。
別に俺はその事を怒ってるわけじゃないんだが、佳織はそう受け止めてしまったみたいだ。
「怒ってるわけじゃないから、気にするな。ただ、加奈は佳織の思ってるような奴じゃないぞ?」
「え……?」
佳織は不思議そうにキョトンっとして、俺の顔を見上げてくる。
俺はそんな佳織に、笑顔を向ける。
「佳織は中学が違ったから知らないんだろうが、中学生の時――クラスで揉め事が起きたら、大抵加奈が仲裁してたんだよ。本人はただ一生懸命止めていただけかもしれないが、不思議と加奈が仲裁した喧嘩の後は、遺恨が残らないんだ。天然で優しい加奈に毒気を抜かれるのか……そのあたりはよくわからないんだがな」
「ふーん……あの桜井さんがねー……。確かに男女問わず、人気者って感じだけど――私のイメージでは、常にクロヤンにくっついてる女の子ってイメージしかなかったよ」
俺は佳織の言葉に笑ってしまう。
確かに高校に入った後の加奈は、常に俺の横にいたな……。
今はそんな加奈が横に居るのではなく、毛嫌いしていたはずの佳織が横にいるなんて、不思議なものだ……。
「じゃあクロヤンは、今回の噂を止めるのにも桜井さんに期待してるわけ?」
「そうだな……。正直言えば期待してるが、あまり無理をしてほしくない気持ちもある。おそらくだが、今回の噂に新たな噂が加わってしまった以上、後数日で止めるには一つの方法しかない。だけど、それはあいつらにとって負担になるだろうから、強要したくないんだ」
「相変わらず、桜井さん達には優しいことで……」
そう言って、佳織は俺の事をジーっとジト目で見てくる。
おかしいな……ここ最近は、佳織にも優しくしていた筈なんだが……?
まぁ、そんなこと言ってもどうせ文句が返ってくるだけだろうし、スルーしておこう。
「じゃあクロヤンは、彼女達が失敗してもいいの?」
佳織はちょっと顔をしかめながら、俺の方を見上げきた。
失敗か……。
「そうだな……俺達が今してる事とは違って、向こうが失敗しても、こっちで取り返せる。だから、あいつらがその方法をとらなくても、俺は責めたりしない。だが――」
俺は言葉を続けながら、佳織の目を見る。
佳織は不思議そうに、俺の目を見つめ返してきた。
「何だかんだ言っても、俺は佳織やあいつらの事を信じてる。佳織もそうだが、あいつらなら、きっと上手くやってくれるってな。なんせ、俺の大切な仲間なんだから――」
俺が笑顔でそう言うと、佳織は顔を背けてしまった。
おかしな事を言ってしまったかと思い、佳織の顔を見ると、その横顔は赤く染まっていた。
俺は佳織の態度に、自分が恥ずかしいことを言ったことを自覚する。
だから、佳織が顔をあげる前に、俺は先に歩きだした。
すると――佳織は何も言わずに、最近お決まりとなっている、俺の服の袖をギュッと掴んで、俺の後に続くように歩くのだった――。







