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貧乏学生の相手は大手企業!  作者: ネコクロ


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60/70

60話「気付かない能力」

「それで――さっきのdummy(ダミー)ってどういう事?」

 私は黒柳達と別れた後、姉のアリスに気になっていた事を問い掛けた。

 お姉ちゃんは世間の評判とは真逆で、実際は誰よりも優れてると私は思ってる。

 お姉ちゃんには隠し事なんか通じず、お姉ちゃんが言うことが外れた試しがなかった。

 でも、お姉ちゃんはあまり喋ることが得意じゃなく、前に出る事を嫌う。

 だから私がお姉ちゃんの口となり、手足として活動してるの。

 そんなお姉ちゃんが、先程気になることを呟いた。

 その事を確かめないわけにはいかなかった。


dummy(ダミー) flag(フラグ)――つまり……布石」

 お姉ちゃんは小さい声で、そう呟いた。

「布石? やっぱり――あの交渉は実行しない可能性が圧倒的に高かったから、あの交渉自体に意味がなかったのね……」

「ちがう……」

「え……? 違うの?」

 お姉ちゃんは私の問いかけに、コクッと頷く。

 でも、その先に言葉は続かない。

 お姉ちゃんと話をしてて大変なのは、こちらから色々と聞かないと何も喋ってくれないことなのよね……。


「あいつは何を狙ってたの?」

「クロの目的は……私達の名前……」

 クロ……?

 あ――黒柳の事かな……?

 ……珍しいわね……私の名前以外、他の人の名前を呼んだこともないのに、黒柳の事をアダ名で呼ぶだなんて……。

 そういえば――さっきもお姉ちゃんの方から話しかけてたみたいだし、あの男の事が気に入ったのかな?

 まぁでも、そんなことは後でいいや――。


「私達の名前……つまり――サインが欲しかったということ?」

「そう……私達が……この件に関わったという……事実……」

「……?」

 お姉ちゃんが何を言いたいのかわからなかった。

 私達がこの件に関わったところで、どうなると言うのだろう?

「本当に……放送を頼みたいだけなら……アリアに声を……かけてない、よ? 絶対……他のテレビ局の方が……話をとおしやすい……から……」

 そうなのよね……わざわざ紫之宮財閥のライバル関係にある、私に話をもってきたから、絶対裏があるとは思ってた。

 だから、お姉ちゃんにも来てもらったわけだし……。

「それで、どうして私達の名前が欲しかったわけ? まさか紫之宮財閥に、自分は平等院財閥共繋がれるってアピールしようとしたとか?」

「おしい……。おそらくは……平等院の名を……おどしにつかう……」

「脅しって……一体あいつは何をしようとしてるの……?」

「紫之宮財閥を……つぶすと脅して……紫之宮財閥の……トップを……うごかす……。それで……あそこにいた人達に……加わえて……平等院が関われば……相手に危機感を……持たせられる……」

「紫之宮財閥のトップって、紫之宮社長?」

 私の質問に、お姉ちゃんは首を横にふった。

 あれ……違うんだ?

「あ――紫之宮会長?」

 今度は、お姉ちゃんが首を縦にふった。

 なるほどね……。


「だから布石か……。つまり――実行するためじゃなく、『これだけの準備を整えてるぞ』って言う、脅しってことね?」

「そう……」

「なーんだ……。じゃあ、どう転んでも、春川咲は手に入らないじゃない……少しだけ、実行されることを期待してたのに……」

「でも……それで……トップが……うごかなかったら……クロは……本当に……実行……する」

「へぇー……つまり口だけじゃないってことね……。やっぱり、あの男面白いわ。どうにか引き抜けないかしら?」

「無理……」

 お姉ちゃんが『無理』って言うことは、本当に無理なのね……。

 おしいなー……。

 同世代にあんな男が居るなら、絶対にほしいんだけど……。


「まぁ、お姉ちゃんが無理って言うなら仕方ないわね。それはそれとして、私の名前をそんな風に使おうだなんて、どうやって掻き回してあげようかしら?」

 先程の交渉で、私はまんまとあの男の手の平で踊らされてしまったらしい。

 メリットで考えれば、私の方が大きかった。

 そのメリットは私が彼から引き出したものと思ってたのに、どうやらそれも彼の想定内だったみたい。

 これは私にとって屈辱だった。

 そのお礼として、彼の策を邪魔してやりたいと思う。


「だめ……」


「え?」

 私はお姉ちゃんの方を見る。

「クロを……敵にまわせば……後悔する……」

 そう言うと、お姉ちゃんは私の方に怒ったような顔をした。

 こんなお姉ちゃんの顔は初めて見た……。

「どういうこと?」

 私はお姉ちゃんに意味を訪ねる。

 お姉ちゃんのお気に入りに手を出すなって意味だとしたら、言い方がおかしい。

『敵に回せば後悔する』ということは、黒柳と対立すればまるで――

「クロと……戦えば……まけるのは……アリス達……」

「――っ!」

 私は驚いて、お姉ちゃんの顔を見る。

 その表情は真剣だった。

 それに、お姉ちゃんが冗談を言ったことはない。

 本当に黒柳に勝てないと思ってるみたい……。


「嘘でしょ!? 私とお姉ちゃんのコンビに敵う奴が居るわけない! 今までだって、そうやって偉そうな奴等を叩き潰してきた! それとも、あの黒柳はお姉ちゃんよりも頭脳も観察眼も上なの!?」

「そうじゃない……。確かにクロは……その二つも……優れてる……。だけど……クロ一人なら……アリスとアリアの……二人で勝てる……。だけど……クロの本当に……凄いとこは……ちがう……」

「じゃあ、何が優れてるの!?」

「ヒントは……アリアがさっき言った……言葉……」

「私が言った言葉?」

 お姉ちゃんは私の言葉に、コクン――っと頷いた。

 私が言った言葉って……。

 ――だめ……こんだけじゃ、全然わからない……。

「えっと、どの言葉?」

 私の質問に、お姉ちゃんは目を閉じた。

 なんだか、うっすら頬が赤くなった気がする。

「まさか……現実であえるとは……思わなかった……。クロは……おおくの物語の主人公が……もってる能力を……もってる……。彼は……周りを巻き込むと……最強……」

 あぁ……お姉ちゃんの理解しがたい回答が返ってきた……。

 お姉ちゃんは頭がよすぎるせいか、自分の頭のなかで話を進めてから話しだすから、聞き手にはわからないことが多いのよね……。

「その能力ってのが、私が言った言葉と繋がるわけ?」

 お姉ちゃんはコクコクっと頷いた。

 他の人にはわからないだろうけど、今のお姉ちゃんは珍しくテンションが上がってる。

 でも、私のほしい回答が返ってこないよ……。

「お姉ちゃん、言葉! 私が言ったその言葉は何!?」

 私はもう一度、同じ事を聞いてみる。

「『やっぱり……あの男……面白いわね。どうにか……引き抜けない……かしら?』って、言った……。アリアが……そんなこと言うの……はじめて……」

「つまり――私が仲間にしたいと思うような事が、彼の能力?」

「おしい……? ちょっと……ちがう……かな……? ――もう話……疲れた……」

 そう言って、お姉ちゃんは私から顔を背けて、歩き始めた。

 こんなに話し込むことが久しぶりだったから、限界になってしまったみたい……。

 これ以上無理に聞こうとしてしまうと、拗ねちゃうから、今日は諦めるしかないか……。

 しかし――少し違うってどういう事だろ?

 確かにそれだけなら、集団戦で最強ってのは違うし……。

「あーもう! あの黒柳って男、一体なんなのよー!?」

 私は注目を集めるのも気にせずに、町の真ん中で、そう叫ぶのだった――。

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