60話「気付かない能力」
「それで――さっきのdummyってどういう事?」
私は黒柳達と別れた後、姉のアリスに気になっていた事を問い掛けた。
お姉ちゃんは世間の評判とは真逆で、実際は誰よりも優れてると私は思ってる。
お姉ちゃんには隠し事なんか通じず、お姉ちゃんが言うことが外れた試しがなかった。
でも、お姉ちゃんはあまり喋ることが得意じゃなく、前に出る事を嫌う。
だから私がお姉ちゃんの口となり、手足として活動してるの。
そんなお姉ちゃんが、先程気になることを呟いた。
その事を確かめないわけにはいかなかった。
「dummy flag――つまり……布石」
お姉ちゃんは小さい声で、そう呟いた。
「布石? やっぱり――あの交渉は実行しない可能性が圧倒的に高かったから、あの交渉自体に意味がなかったのね……」
「ちがう……」
「え……? 違うの?」
お姉ちゃんは私の問いかけに、コクッと頷く。
でも、その先に言葉は続かない。
お姉ちゃんと話をしてて大変なのは、こちらから色々と聞かないと何も喋ってくれないことなのよね……。
「あいつは何を狙ってたの?」
「クロの目的は……私達の名前……」
クロ……?
あ――黒柳の事かな……?
……珍しいわね……私の名前以外、他の人の名前を呼んだこともないのに、黒柳の事をアダ名で呼ぶだなんて……。
そういえば――さっきもお姉ちゃんの方から話しかけてたみたいだし、あの男の事が気に入ったのかな?
まぁでも、そんなことは後でいいや――。
「私達の名前……つまり――サインが欲しかったということ?」
「そう……私達が……この件に関わったという……事実……」
「……?」
お姉ちゃんが何を言いたいのかわからなかった。
私達がこの件に関わったところで、どうなると言うのだろう?
「本当に……放送を頼みたいだけなら……アリアに声を……かけてない、よ? 絶対……他のテレビ局の方が……話をとおしやすい……から……」
そうなのよね……わざわざ紫之宮財閥のライバル関係にある、私に話をもってきたから、絶対裏があるとは思ってた。
だから、お姉ちゃんにも来てもらったわけだし……。
「それで、どうして私達の名前が欲しかったわけ? まさか紫之宮財閥に、自分は平等院財閥共繋がれるってアピールしようとしたとか?」
「おしい……。おそらくは……平等院の名を……おどしにつかう……」
「脅しって……一体あいつは何をしようとしてるの……?」
「紫之宮財閥を……つぶすと脅して……紫之宮財閥の……トップを……うごかす……。それで……あそこにいた人達に……加わえて……平等院が関われば……相手に危機感を……持たせられる……」
「紫之宮財閥のトップって、紫之宮社長?」
私の質問に、お姉ちゃんは首を横にふった。
あれ……違うんだ?
「あ――紫之宮会長?」
今度は、お姉ちゃんが首を縦にふった。
なるほどね……。
「だから布石か……。つまり――実行するためじゃなく、『これだけの準備を整えてるぞ』って言う、脅しってことね?」
「そう……」
「なーんだ……。じゃあ、どう転んでも、春川咲は手に入らないじゃない……少しだけ、実行されることを期待してたのに……」
「でも……それで……トップが……うごかなかったら……クロは……本当に……実行……する」
「へぇー……つまり口だけじゃないってことね……。やっぱり、あの男面白いわ。どうにか引き抜けないかしら?」
「無理……」
お姉ちゃんが『無理』って言うことは、本当に無理なのね……。
おしいなー……。
同世代にあんな男が居るなら、絶対にほしいんだけど……。
「まぁ、お姉ちゃんが無理って言うなら仕方ないわね。それはそれとして、私の名前をそんな風に使おうだなんて、どうやって掻き回してあげようかしら?」
先程の交渉で、私はまんまとあの男の手の平で踊らされてしまったらしい。
メリットで考えれば、私の方が大きかった。
そのメリットは私が彼から引き出したものと思ってたのに、どうやらそれも彼の想定内だったみたい。
これは私にとって屈辱だった。
そのお礼として、彼の策を邪魔してやりたいと思う。
「だめ……」
「え?」
私はお姉ちゃんの方を見る。
「クロを……敵にまわせば……後悔する……」
そう言うと、お姉ちゃんは私の方に怒ったような顔をした。
こんなお姉ちゃんの顔は初めて見た……。
「どういうこと?」
私はお姉ちゃんに意味を訪ねる。
お姉ちゃんのお気に入りに手を出すなって意味だとしたら、言い方がおかしい。
『敵に回せば後悔する』ということは、黒柳と対立すればまるで――
「クロと……戦えば……まけるのは……アリス達……」
「――っ!」
私は驚いて、お姉ちゃんの顔を見る。
その表情は真剣だった。
それに、お姉ちゃんが冗談を言ったことはない。
本当に黒柳に勝てないと思ってるみたい……。
「嘘でしょ!? 私とお姉ちゃんのコンビに敵う奴が居るわけない! 今までだって、そうやって偉そうな奴等を叩き潰してきた! それとも、あの黒柳はお姉ちゃんよりも頭脳も観察眼も上なの!?」
「そうじゃない……。確かにクロは……その二つも……優れてる……。だけど……クロ一人なら……アリスとアリアの……二人で勝てる……。だけど……クロの本当に……凄いとこは……ちがう……」
「じゃあ、何が優れてるの!?」
「ヒントは……アリアがさっき言った……言葉……」
「私が言った言葉?」
お姉ちゃんは私の言葉に、コクン――っと頷いた。
私が言った言葉って……。
――だめ……こんだけじゃ、全然わからない……。
「えっと、どの言葉?」
私の質問に、お姉ちゃんは目を閉じた。
なんだか、うっすら頬が赤くなった気がする。
「まさか……現実であえるとは……思わなかった……。クロは……おおくの物語の主人公が……もってる能力を……もってる……。彼は……周りを巻き込むと……最強……」
あぁ……お姉ちゃんの理解しがたい回答が返ってきた……。
お姉ちゃんは頭がよすぎるせいか、自分の頭のなかで話を進めてから話しだすから、聞き手にはわからないことが多いのよね……。
「その能力ってのが、私が言った言葉と繋がるわけ?」
お姉ちゃんはコクコクっと頷いた。
他の人にはわからないだろうけど、今のお姉ちゃんは珍しくテンションが上がってる。
でも、私のほしい回答が返ってこないよ……。
「お姉ちゃん、言葉! 私が言ったその言葉は何!?」
私はもう一度、同じ事を聞いてみる。
「『やっぱり……あの男……面白いわね。どうにか……引き抜けない……かしら?』って、言った……。アリアが……そんなこと言うの……はじめて……」
「つまり――私が仲間にしたいと思うような事が、彼の能力?」
「おしい……? ちょっと……ちがう……かな……? ――もう話……疲れた……」
そう言って、お姉ちゃんは私から顔を背けて、歩き始めた。
こんなに話し込むことが久しぶりだったから、限界になってしまったみたい……。
これ以上無理に聞こうとしてしまうと、拗ねちゃうから、今日は諦めるしかないか……。
しかし――少し違うってどういう事だろ?
確かにそれだけなら、集団戦で最強ってのは違うし……。
「あーもう! あの黒柳って男、一体なんなのよー!?」
私は注目を集めるのも気にせずに、町の真ん中で、そう叫ぶのだった――。







