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貧乏学生の相手は大手企業!  作者: ネコクロ


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51話「花宮の気持ち」

 ――私は、別に桃太郎が好きではない。

 ならどうして、私の隣を歩く彼に、桃太郎が好きだとか、あんなはしゃいだ姿を見せたのか。

 それには訳があった。

 彼――黒柳龍との思い出が欲しかったからだ。


 おそらく私達の関係は、この件と共に終わってしまう。

 私達の関係は利害関係。

 それは私が望んだ事。

 彼の中で、私の優先度を上げるためにそうした。

 

 ――あの時は、それでいいと思ってた。

 私が助かるにはそれしかないと。

 でも、今になってそれを後悔している。

 最初に違和感を感じたのは、彼が私だけ下の名前で呼ばなかった時。

 彼は親しくなった相手の事を、男女関係なく下の名前で呼ぶ。

 なのに、私の事はずっと『花宮』のままだった。

 まさかあれだけ一緒に居て、仲良くなってないからとは言わないだろう。

 結構、楽しく話もしていたはずだ。 

 もしそれで仲良くないとか言い出したら、この男を刺しても許されるのではないだろうか?

 ……そんなことはしないけど……。


 まぁ、そんな彼が私の事を名前呼びしない事で、思い出した事がある。

 それが先程言った、私達が『利害関係』だと言う事。

 だから、彼は私を名前で呼ばないのだと思う。

 

 でも、普通そんな事気にする?

 別に最初は利害関係だったとしても、こんなに一緒に居るのなら、別にもうそんな事気にしなくていいと思わない?

 なのに、彼はそんな事を気にしているのだ。

 変な所で真面目だと思う。

 だから私は後悔していた。

 なぜって?

 そんなの決まっている。

 彼と一緒に居るのが、楽しいからだ。

 本当ならもっと一緒に居て、仲良くしたいと思う。

 でも、彼は私にだけ壁を作っていた。

 『利害関係』だから、と言う理由で。

 私の気持ちがわかるだろうか?

 みんなは下の名前で呼ばれて、仲良く話しかけられるのに、私だけ苗字呼び。

 そして、大抵私と話す内容は、何か頼み事。

 他愛の無い話など、ロクに出来ていなかった。

 それがどれだけ疎外感があることか……。

 

 利害関係である以上、彼と私には壁が出来てしまう。

 どうしてあの時、『友達』として仲良くしようとしなかったのかを、後悔した。

 わかってる……あの時には、ああするしかなかったのだ。

 だから仕方がない。

 そして、利害関係である以上、お互いに利が無くなれば、その関係は終わってしまう。

 既に、私が彼に求める利がなくなってしまっている。

 本来なら、彼の大切な物を一緒に守ると言う決めごとをしていたのだから、これからは私が彼に利を与えていくはずだった。

 

 しかし今、私には何もメリットが無いのに、彼の手伝いをずっとしている。

 それ自体には文句が無い。

 彼は私の傍に居てくれる大切な人間だから、彼が困っているのなら助けてあげたかった。

 だから、見返りなどいらない。

 なのに、彼はこの事で私に利を返し、この利害関係が終わると考えていると思う。

 なんで、そんな事がわかると思う?

 彼の過去を調べて、どういう人間かを把握してるからだよ。

 本当に……変なとこで真面目過ぎる。

 最初の約束が、彼の大切な人達を一緒に守るって事だったんだから、それを貫けばいいのに、どうせ『今回の件で多大な借りを返してもらったから、これ以上お前に負担を掛けるつもりはない。それ以上は、不平等になってしまう』とか言い出すと思う。

 ……こっちの気持ちも知らないで……。

 

 私は彼が知っている以上に、汚い人間。

 欲しいものは、何でも手に入れる。

 それが今までの私だった。

 

 私は孤児院で育てられた。

 欲しい物を何も買ってもらえない環境。

 そんな私が、どうやって欲しい物を手に入れていたか――簡単だ――持っている人から恵んでもらえばいい。

 施しを受ければよかった。

 私が演技力を身に着けたのは、その時だ。

 今の優しくお金をそこそこ持っている両親も、自分で手に入れた。

 何度か失敗はしたけど、優しそうで子供が居なさそうな人を見つければ、可哀想で良い子を演じ――そして、懐いているように演じた。

 さらには、何かを欲している様に見せながらも、口には出さない。

 最後に、自分の居る施設の名前だけを告げるのだ。

 そうやって、今の両親を手に入れた。 

 もちろん、その事を彼には話していない。

 偶然引き取ってもらえた両親が、優しくて良い人だったと伝えている。

 

 彼は自分の妹の演技力を評価していたけど、私からすれば未熟だった。

 だから、彼女の演技に気付いた。

 

 ――私は常に演技をしている。

 もう……本当の自分がわからなくなりそうなくらいに。

 多重人格じゃないかと言われても、おかしくなかった。

 でも……そんな私が、彼の前では本当の自分を出せている。  

 その私を彼は受け入れてくれている。

 だから、一緒に居て楽しいのだ。

 

 正直に言おう――今の私は『彼が欲しい』

 頭が回って、駆け引きが得意な彼。

 彼は私にだけちょっと物言いがきつくなるけど、それはなんだか特別扱いされている感じで、逆に気持ちよかった。

 だけど、私が不安になれば優しくしてくれる。

 さっきだって、頭をポンポンしてくれた。

 そんな事されたら、もっと不安な表情をして、甘やかしてもらいたくなる。

 まぁ……そんなの、私のキャラじゃないから無理だけど……。

 多分不必要にしてしまえば、また演技していると言われるのだろう。

 ……その通りだけど……。

 

 そんな彼が欲しくなるのは、当たり前だと思う。

 正直言えば、手はあった。

 少なくとも、彼から紫之宮先輩を引き離す方法。

 それは『彼を裏切る』だった。

 今回、彼は私の事をとても信頼している。

 だから、色々と話してくれた。

 つまり、作戦を失敗させる手も見えてくる。

 私が裏切って先手を打てば、彼の作戦は失敗に終わってしまうだろう。

 そうすれば、紫之宮先輩を助ける事なんて出来なくなる。

 そして、彼は必然的に私の物になる。

 なんでだと思う?

 彼には他にも、初恋の幼馴染や、可愛い女の子が傍に居るのに、私の物になる理由――そうしなければ、彼が死んでしまうからだ。

 私ならお祖父ちゃんに頼めば、莫大な手術費用を出してもらえる。

 でも、他の人間にはそれが無理。


 彼が前みたいに手術を拒否するかもしれない?

 ――それはない。

 彼が死ぬという事は、彼の大切な妹に、十字架を背負わせてしまう事になるから。

 少し前に――私は彼の妹のせいで、彼が手術を出来なかったことを妹にバラした。

 つまり、彼が死んだとすれば、それは妹のせいになる。

 そんな事になれば、あのヤンデレ妹はふさぎ込むだろう。

 だから、彼は絶対に手術を受ける事を選ぶ。

 それに、彼の中にある私の存在が、かなり大きくなっている事にも気づいていた。

 手術費の事をお祖父ちゃんに頼むだけではなく、彼の事も好きだと告げれば、彼は私を選んでくれると思う。

 そう……今まで通り、欲しい物を手に入れる事が出来るのだ。

 紫之宮先輩を失って不幸になった彼も、私がすぐに幸せにしてあげればいい。

 それだけで済む話。


 ――と、少し前までの私なら、そう考えていたと思う。

 でも、今の私はそんな事をしない。

 だって――彼を少しでも、傷つけたくないもの。

 なぜそう思うようになったのかは、わからなかった。

 彼といつも一緒に居て、いつの間にかそう思うようになっていた。

 そして、初めに戻る。

 つまりそれが、私が利害関係になってしまって後悔している事。

 利害関係じゃなければ、水沢さん達みたいに彼の傍に居られただろうに。

 だからと言って、これが終わっても一緒に居たいとは言えなかった。

 彼にはもう、紫之宮先輩が居る。

 なのに、他の女が傍に居たいなど言えば、修羅場にしかならないだろう。

 それに彼は優しいから、困らせてしまうだけだと思う。

 それは、私の周りに居てくれる人を幸せにするという、私の理念に反する。

 だから、私は彼から離れなければならない。

 

 ………………本当はそんな事、嫌なのになー……

 

 もっと彼と一緒に居たい。

 

 楽しく遊びたい。

 

 笑って会話がしたい。

 

 そんな思いが胸に溢れてくる。

 

 なんで、私は自分の首を絞める事してるんだろう。

 

 決まっている――彼が望む事だからだ。

 

 もう私は、彼と長くいられない。

 

 もっと早く彼と――紫之宮先輩よりも早く彼と出会えていたのなら、また違ったのかな?

 

 わからない。

 

 でも、そんな事を考えても意味がない。


 たられば話など、どうしようもないのだから。


 もう、彼と離れる事が決まっているのなら、仕方ない。

 これが終わったなら、潔く彼と関わるのは……やめよう。

 そうするのが、お互いのため。

 それに、いつ昔の私が顔を出すかわからない。

 彼を不幸にすることだけは、どうしても避けたかった。

 でも、少しだけ――。

 彼と離れる前に、一つだけ思い出が欲しかった。

 私と彼との過ごした日々を、一つの形として残したかった。

 

 そんな気持ちから――私は嘘をつき、今回の我が儘を言いだした。


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