48話「知らなかった、新たな一面」
「――クロヤン、桃太郎の銅像だよ!」
俺達は、東口と呼ばれる方から駅を出ていた。
するとそこには変わった形の噴水があり、先程花宮が言った通り、桃太郎の銅像があった。
そういえば、岡山は桃太郎で有名だったな。
名産品が吉備団子って名前だったり、なにやら鬼ヶ島のモデルとなった、山もあるとか聞いた事がある。
「ねね、クロヤン。スマホ貸して!」
そう言って、花宮が俺の方に駆け寄ってきた。
なんだか随分と、はしゃいでるように見える。
「ああ、写真を撮るのか……」
俺はポケットからスマホを取り出し、花宮に渡す。
花宮は俺からスマホを受け取ると、すぐに桃太郎の銅像を写真におさめた。
「なんでそんなにはしゃいでるんだ?」
俺がそう尋ねると、花宮は恥ずかしそうに俺の方を見てきた。
自分がはしゃいでる自覚がなかったのだろう。
俺に指摘をされ、我に返ったという感じだった。
こんな花宮を見るのは初めてだった。
「実はね、私が孤児院に居た時読ませてもらえた絵本は、桃太郎の本だけだったんだ。貧乏な施設だったから、絵本一つ買うのも苦労してたみたい。だから幼かった私は、何度も桃太郎の絵本を読み返してて、桃太郎の事が凄く好きになってたの」
「そうなのか……。まぁ、それなら新幹線を下りて、すぐにテンションがあがった理由もわかったよ」
「うん! だって、岡山は桃太郎発祥の地だからね!」
……ん?
「何を言っているんだ、花宮?」
「へ……?」
俺の問いかけに、花宮は首を横に傾ける。
俺の質問の意味がわからなかったみたいだ。
「いや、別に桃太郎は岡山発祥っていうわけではないぞ?」
「え……?」
花宮が『何言ってんのこいつ?』と言った、顔で俺を見てくる。
「いやいや。え? もしかしてクロヤン知らないの? 岡山県って言ったら、桃太郎で有名じゃん! キビ団子あるじゃん!」
「いや、桃太郎ゆかりの地は全国にあるんだぞ? まぁ、確かに岡山県は桃太郎で有名だが、岡山の名産品である吉備団子と、物語上で出てくるキビ団子では、関係性が証明されていないぞ」
俺の言葉に、花宮はショックを受けたような表情をする。
悪い事をしたか……?
「クロヤンの意地悪! なんでそんな夢を壊すようなことを言うの!」
涙目の花宮が、俺の方を睨んでくる。
よっぽど桃太郎の事が好きだったらしい。
「ま、まぁ、証明されていないって事は、逆に物語に出てくるキビ団子と関係があった可能性は残っているわけだし、鬼ヶ島のモデルになった鬼城山って言う山も岡山にはある! そこには鬼ノ城という古代山城があるらしい! そこは鬼のモデルとされた、温羅という大男が居たんだ! それに吉備津神社って言う所に祭られている、大吉備津彦命は、桃太郎のモデルになったと言われている! これだけ桃太郎ゆかりの物があるんだから、岡山が桃太郎発祥の地と言うのは間違いじゃないな!」
俺は脳をフル稼働させて、桃太郎に関して持っている知識を披露した。
「うん、岡山が桃太郎の発祥の地なのー……」
若干ふてた感じではあるが、なんとか怒りを鎮められたようだった。
はぁ……、なんだかドッと疲れた……。
なんで交渉に行く前に、俺は体力を使っているんだ……。
まぁ……花宮の機嫌が直ったのなら、それでいいか――。
「ねぇ、その吉備津神社とか、鬼ノ城ってとこに行ってみたいな……」
……。
そうだな、そうなるよな……。
俺はスマホで検索してみる。
――バスを使えば行けなくもないが……。
しかし、今日20時から、あの人と約束をしているんだよな……。
山中さんとの話し合いが終わってから、急げば行って帰ってこれるか?
……いや、きついな…………。
俺は花宮の方を見る。
花宮は、自分が我が儘を言っている自覚があるのだろう。
俺に申し訳ないと思っているのが、表情や仕草から読み取れた。
この後も会う相手が居る事を、花宮には告げていないが、日程に余裕が無い事を花宮もわかっている。
けれど、次岡山に来れるのはいつになるかわからない。
だから、この機会を逃したくないという気持ちもあるのが、伝わってくる。
そんな気持ちに板挟みにされているから、こんな表情をしているのだろう。
……仕方ない。
花宮がこんな我が儘を言うのは、これが初めてだ。
いつも俺の願いばかり聞いてもらっているし、これくらい聞いてあげないわけにはいかないだろう。
俺はスマホで、会う時間を遅らせてほしいという事を書いて、あの人に送った。
「――そうだな、今日はこの後予定も無いし、山中さんとの話し合いが終わったら、桃太郎巡りをしようか」
俺がそう言うと、花宮の表情がパァっと明るくなった。
「いいの!?」
「あぁ。その代わり、明日からまた宜しく頼むぞ」
俺の言葉に、花宮は嬉しそうに頷いた。
それにしても、花宮が桃太郎の事をこんなに気に入っているのは意外だった。
ちょっと子供っぽいなとは思ったが、そういう面もあるのだと知れた。
ここ最近よく一緒に居て、花宮の事をわかった気で居たが、俺がまだ知らない彼女の一面は、他にもあるのかもしれない……。
――さて、思わぬ出来事はあったが、まず最初の関門だ。
ここを突破できなければ、話にならない。
――俺は一度深呼吸をし、気持ちを切り替えるのだった。







