47話「花宮の秘密」
「――暇です」
先ほどまで寝ぼけていた花宮が、唐突にそんな事を言い出した。
「暇ならスマホで――そういえば、昨日お店に行けれなかったんだったな」
俺の言葉に花宮がコクンっと頷く。
昨日紫之宮会長の家から俺達が帰った時には、当然お店は閉まっていた。
だから、花宮はスマホを修理に出せなかったのだ。
当然、代機を借りられているはずがなかった。
「ねぇねぇ」
花宮は俺の服をクイクイっと引っ張ってきた。
「どうした?」
「スマホ貸してよ」
そう言って、俺の方に手を差し出してきた。
「貸すって言っても、俺スマホにゲームなんて入れてないぞ?」
「別にいいよー。だって、ツキッターにログインするだけだからー。多分、通知が凄い事になってるんだよねー」
「ツキッター?」
俺は首を傾げる。
ツキッタ―ってなんだ?
「え、クロヤン――ツキッターを知らないの!?」
花宮が驚愕の表情で、俺の方を見ていた。
知らないのがそんなにおかしいのだろうか?
「あぁ、知らないな」
俺がそう答えると、花宮が俺からスマホを取り上げた。
そして、パスワードを解除して、操作をし始める。
……あれ?
こいつ今、普通に俺のかけていたパスワードを解除したよな?
「なぁ、なんでお前俺のパスワードを知っているんだ?」
「別に知ってたわけじゃないけどね。ただ、パスワードになってそうなのを入れてみただけだよ。……でも、パスワードが妹の誕生日って驚きだわ。流石、シスコンですねー……」
そう言って、花宮が俺の方をジト目で見てくる。
いや、自分の誕生日だと人にバレやすいから、このみの誕生日にしているだけなのだが……。
「普通、俺の誕生日とかを先に入れないか?」
「だって、クロヤンだもん。絶対妹関係にしていると思ってたよ」
……どうやら花宮は、本気で俺の事をシスコンだと思っている様だ。
「はい、これがツキッタ―だよ」
そう言って、花宮が俺にもスマホの画面が見える様に、体を寄せてきた。
顔が近い……。
だが、そんな事を指摘するのは、なんだかめんどくさい事になりそうので、指摘をするのではなく、俺はなるべく意識しない様にした。
「何をするものなんだ?」
「えっとね、最近の出来事とか、興味ある事とかを呟いて、みんなに見てもらうんだー。そして、コメントとかしてもらうって感じかな。もちろん、逆も然りね」
「ふーん……。じゃあ、この3万って書いているのはなんだ?」
「あぁ、それは私の事をフォローしてくれている人達だね」
「フォロー?」
「うーん、まぁ要するに、友達みたいなものかな? このフォローってしている相手が呟いたりすると、自分の閲覧ページに表示されていく感じ」
「なっ――! ということは、花宮には友達が三万人もいるということか!?」
俺の言葉に花宮が吹き出す。
「ハハハ、流石にそう簡単な話ではないよ。でもまぁ、私の呟きを見てくれている人達だねー」
……ネットとは、そんな簡単に繋がれるものなのだろうか?
俺は知り合いとしか連絡をとったりしないし、こんなサイトを使ったことなどないからよくわからないが……流石にこんな数字になるとは思えない。
「そうか――お前の情報源は、もしかしてこれか?」
俺がそう聞くと、花宮がニコッとした。
「まぁ、全部ってわけじゃないけど、これが主だねー。例えば情報が欲しい人物が居たら、まずこう書くの。『〇〇ってどういうところなのかなー? 一度行ってみたいなー』って。そうしたら、そこに住んでいる子達が、『この地域は海が綺麗ですよー』とか、コメントをくれるの。そういうコメントがきたら、その子のとこに飛んでいくの」
「飛ぶ?」
俺は言葉の意味がわからず、花宮の言葉に口を挟む。
「えっとね、例えばこの子のアイコン――画像がある所をタッチするとね……ほら、この子のプロフィールが書かれているところに行けたでしょ? これが、飛ぶっていう事なんだけど――そこからは、この子がフォローしている子を見て行くの。大抵同じ地域の子がばかりのはずだから、私が知りたい人物に近い人を探すって感じかなー。例えば、同じ趣味を持っていたり、歳が近かったりとか! 自分が今持ってる情報を頼りにしながら、そうやって探して行って、良い感じの子が居たらフォローするの。そして、その子に向けてコメントを書くの。そしたら向こうから返信が来るから、仲良くなれるように話題を考えながら、スキンシップをとっていくんだー。仲良くなれたら、後は折を見て、さり気無く話題を振るの。そうやって、情報を引き抜いて行くって感じかなー。これを同じように数人に繰り返して、情報を判別するって感じだよ」
なるほど……。
花宮はそうやって、情報を手に入れていたのか。
しかし、俺に同じことが出来るか……?
いや、無理だろうな。
多分、真似しようとしても失敗する。
まず、知らない人と仲良くしようとするのが、俺には無理だろう。
ただ、気になる事も有った。
「なぁ、花宮。そうやって知らない人達に絡むのはいいが、危険とかないのか?」
「そりゃあ身元がバレたら危ないよー。でも大丈夫。このアカウントが私だって特定されない様に気を付けているし、誰にも教えていないから」
「だったら、俺が知ったのはまずいんじゃないのか?」
俺がそう聞くと、花宮は首を横に振った。
そして、満面の笑みを浮かべ――
「良いの、だってクロヤンは特別だから!」
と、言ってきた。
俺はその笑顔に、胸の鼓動が早くなるのを感じた。
そして、胸を締め付けられる感覚に襲われる。
「大丈夫……?」
俺の違和感を感じとった花宮が、心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
「あぁ、大丈夫だ」
俺は花宮の顔を直視できなくなり、顔を背ける。
なんだか、罪悪感が込み上げてきていた。
結局――俺は新幹線が岡山駅に到着するまで、『全てが終わった時、花宮との関係がどうなるのか』という事を、考え続けたのであった。







