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貧乏学生の相手は大手企業!  作者: ネコクロ


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38/70

38話「妹の恨み」

「――おはよう、黒柳君」

「おはよう、春川さん」

 俺がストレッチをしていると、春川さんが現れた。

 そして、俺の横でストレッチを始める。


「春川さん、今日は話があるんだが、聞いてくれないかな?」

「ん? 何かな?」

 そう言って、春川さんが笑顔で俺の方を見る。

 今俺の置かれている状況を全て、春川さんに話した。


 彼女は真剣に、その話を聞いてくれた。

「つまり、紫之宮財閥の人を説得出来たら、その紫之宮さんって人と付き合うんだね?」

 彼女の問いかけに、俺は頷く。

「そっか……。ごめんね、私は協力出来ない」

 そう言って、春川さんは俯いてしまう。


「やっぱり、イメージキャラになるのは嫌かな?」

「それ自体は黒柳君のお願いなら、引き受けてもいいの。ただ――」

「ただ?」

「ごめんね、今日は一人で走らせて」

 そう言って、春川さんは先に行ってしまった。


 やっぱり、駄目だったか……。

 でも、イメージキャラを引き受ける事自体を、否定されたわけではなかった。

 何を彼女は嫌がったんだ?


 ――それから毎日、俺は春川さんを説得し続けた。

 何度聞いても答えはNOだったが、俺が来ること自体は嫌がっていなかった。

「――せめて、嫌がる理由を教えてくれないかな?」

「………………そんなにその人が好きなの?」

 春川さんは真剣な表情で、俺の方を見てきた。

「うん、俺にとって大切な人だから……。俺はその人の事が好きなんだ」

 俺がそう言うと、春川さんは溜息をついた。


 彼女の溜息は、初めて見る。

 今日もだめか……。


「ねぇ、もしその人と付き合う事になったら、君はもうここに来なくなるのかな?」

 春川さんは俺に背を向け、そう聞いてきた。

「なんで?」

 俺はなんでそんな事を聞かれたのかわからず、そう尋ねる。

「だって、多分その人は私達が朝こうやって会ってるって事を聞いたら、嫌がると思うよ?」

 ああ、なるほど、そういうことか。 

「俺は別にやましい気持ちがあって、ここに来ているわけじゃないから。だから、多分朝ジョギングの為にここには来るよ」


 俺がそう言うと、一瞬悲しい表情をされた。

「やましい気持ちがあるわけじゃない……かぁ……。そんなはっきりと言われると、やっぱつらいね……」

「春川さん……?」

「ううん、なんでもないの。いいよ、その話引き受けてあげる。その代わり、絶対紫之宮財閥の人を説得してね」

 そう言って、春川さんが微笑んでくれた。


 その表情は無理しているようにも見えたが、俺はそのことに触れなかった。

「ありがとう」

 俺はそう言って、頭を下げる。

「やめてよ、友達のお願いを聞くのは当たり前のこと何だから!」

 そういって、春川さんはバタバタと両手を振っていた。

 俺はそんな彼女に、頭を下げ続けるのだった――。





 ――そして、運命の日が来た。

 今日、楓先輩のお父さんの説得を失敗すれば、もう二度と楓先輩と会えなくなる。

 俺は深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。


 ――プルルルルル……。

 俺が身支度していると、スマホがなった。

 俺はスマホを手に取り、画面を見る。


 非通知……?


「もしもし?」

「――妹は預かった」

「――っ!」


 電話口から聞こえた声は、ヘリウムガスを吸っているのか、それとも変成器を使っているような声だった。

「なんの悪ふざけだ?」

「悪ふざけではない。いいか、妹の命が惜しければ、今から指示する所に来い。もちろん、誰かにこの事を話せば、妹の命は無いと思え」


 俺は時計を見る。

 今はまだ10時過ぎ――。

 楓先輩達と会うのは、夕方5時。

 それまで、まだ時間がある。

「わかった。それで、どこに行けばいいんだ?」


 ――指示されたのは、ここから一時間くらいかかるところにある町の、廃工場だった。

 俺は電話を切ると、部屋を飛び出す。

 これは、楓先輩のお父さんの罠なのか?

 何があっても、絶対来いというのはこういう事だったのか?


「キャッ――!」


 俺がドアを開けて飛び出すと、丁度部屋に入ってこようとした、加奈とぶつかってしまった。

「大丈夫か?」

「うん……。そんなに慌てて、どうしちゃったの?」

 俺は加奈の質問に答えようとして、先ほどの電話内容を思い出す。


『誰かにこの事を話せば、妹の命は無いと思え』


「――っ! 悪い、何でもないんだ」

 そう言って、俺は走り出す。

「え、ちょっと、龍!?」

 俺は加奈の声に振り向かず、そのまま走った。





 一時間後――俺は指定された廃工場についた。

 俺は慎重にドアを開けて、中に入る。


 ――このみはどこだ……?


「お兄ちゃん!」

 俺はこのみの声がした方を見る。

「このみ!」

 そこには、椅子に縛り上げられているこのみの姿があった。

「待っていろ、すぐ助ける!」

 俺は周囲に気を配りながら、このみに近づく。

 変だな、俺を呼び出した犯人がいるはずなのに、その姿が見えない。


「お兄ちゃん、早くこの紐をほどいて!」

「あぁ、そうだな」

 俺は先にこのみの紐を解こうと、このみの後ろに回る。


 え……? 

 俺が紐を解こうとした瞬間、紐が勝手にほどけた。


「かかったね、お兄ちゃん」


「このみ……? ぐっ――!」

 俺の首元でバチッと音がし、激痛が走った。

 スタン……ガ……ン……?


 俺の顔を見て微笑むこのみの顔を見ながら、俺の意識はなくなるのだった――。





「――時間だ。彼は来なかったな」

「もう少し――もう少しだけ待ってください!」

 私はそう言って、お父様に頭を下げる。

 彼が来ないはずがない。

 きっと、何かあったんだ。


「もう一時間だ。それで来なかった場合、私の見つけた男と婚約してもらう。その条件を呑むなら、待ってやろう」


「はい――!」


 大丈夫……彼なら絶対来てくれる……。


 だけど――タイムリミットまで5分を切っても、彼の姿は見えない。


 どうして……?

 どうしてきてくれないの……?

 彼は、私の事を見捨てたの……?


 いや、まだ時間はある。

 彼を信じて待とう――。





「――時間だ。約束は守ってもらうぞ?」

「は……い……」


 結局、彼は現れなかった。

 私は部屋を飛び出す。


「由紀は!? 由紀は何処にいるの!?」

 私は由紀を探す。

 彼がこなかったのは、きっと訳があるはず。

 その事を由紀に調べてもらわないと――!


「お嬢様、由紀は一時間前ほどから、どこかに出かけております」

「そんな……。そうだ、姉さん! 姉さんに連絡をして!」

 私の言葉に、メイドが首を横に振る。

「なりません、お嬢様」

「なんでよ!?」

「旦那様からの命令です」


「そんな……」

 私はその場に崩れ落ちる。


 どうして……。

 どうしてこうなるのよ……。





「う……ん……? ここは……? なっ――!」

 目を覚ました俺は、椅子に縛られていた。


「おはよう、お兄ちゃん。いや、もうこんばんはだね」

 そう言って、笑顔のこのみの顔が目に入る。


 そうだ――!

 俺は、このみに気絶させられたんだ!


「このみ! 何のつもりで、こんなことをした!」

 俺の言葉に、このみがニコっと微笑む。

「そんな事より、いいのお兄ちゃん? 今日は大切な約束が、あったんじゃないのかな?」


「――っ! 時間! 今、何時だ!?」

「もう夜中の七時だね」

 ……何という事だ――。

 楓先輩のお父さんとの約束に、間に合わなかった――!


「何てことしてくれたんだ!」

 俺はこのみに怒鳴る。

「残念だったね、お兄ちゃん。これで、紫之宮先輩とはお別れだね」

 このみは終始ニコニコしたままだ。

「お前……その事を知っててやったのか!」

「うん、夕美お姉ちゃんから聞いてたからね。でもね、お兄ちゃんが悪いんだよ?」

「どういうことだ?」

「お兄ちゃんさぁ、私の事を置いて行って、私がなんとも思わなかったと思ってるの? 本当に、再会した事で、お兄ちゃんの事を許したとでも思ってたの?」

「……俺を恨んでいるのか?」


「もちろんだよ。私ね、お兄ちゃんの事をスッゴク頼りにしていたんだよ? そんなお兄ちゃんに置いて行かれた妹の気持ちが、わかるかな? 私がお兄ちゃんを探していた本当の理由はね――見つけ出して、私を置いて行ったことを後悔させてやろうって思ったの」

「――っ!」


 俺はこのみの言葉が信じられなかった……。

 本当にこれは、俺の妹のこのみなのだろうか?


「でもね、正直言って、お兄ちゃんと再会できた時嬉しかった。やっぱり、私はお兄ちゃんの事が好きだと思ったの。でも、お兄ちゃんには別の女が傍に居た。私はその時、凄くショックを受けた。そして思ったの――お兄ちゃんは私の物……だから、奪い返してやろうってね」

 そんな事を言うこのみの顔は、最早(もはや)別人だった。


「私はずっとチャンスを、待ってたんだ。そして、今日その時は訪れたの。これで、お兄ちゃんはもう紫之宮先輩には会えない。一人、お兄ちゃんの周りから女が消えたの。――まぁ、あの先輩は私の事も救ってくれてたようなものだし、このくらいで許してあげる。でも――この女は許さない」

 そう言って、このみがスマホの画面を見せてくる。


「なっ――! なんだよそれ!?」

 その画面に映っていたのは、目隠しをされ、縛り付けられている加奈だった。

「この女はね、私からお兄ちゃんを盗っただけじゃなく、夕美お姉ちゃんまで私から奪おうとした。泥棒ネコには、おしおきしないといけないよね?」

「何をする気だ……?」

「この画像を送ってきてくれたのはね、私が掲示板で集めた不良たちなの。その人達に、この泥棒ネコを犯してもらうんだ~」

 このみはそう言って、いつもの人懐っこい笑顔を向けてきた。


「やめろ! やめてくれ!」

「だ~め。もちろんその犯されてるシーンは、動画で送らせてお兄ちゃんに見せてあげるね? この泥棒ネコは、これから一生この人達の物として、生きていく事になるの。私の大切な物を二つも奪おうとしたんだから、当然の報いだよね?」

 そう言って、このみが変成器を手に持ち、電話をかけ出す。


「あ、もしもし? うん、やっちゃっていいよ!」

「やめろ!」

 俺の言葉を無視してこのみは、スピーカーボタンを押す。


「やめて! 誰か、誰か助けて!」

 スマホから聞こえてきたのは、加奈の叫び声。

「龍! 龍! お願い、助けて!」

「あはは、お兄ちゃんよっぽど頼りにされているんだね? こんな時でも、お兄ちゃんなら助けてくれると思って、名前を呼んでいるよ?」

「頼む、やめさせてくれ! お願いだから!」


「だからダメだってば~。じゃあ、終わった頃にまた電話をかけなおすね」

 そう言って、このみは電話を切った。

「これでもう、私からお兄ちゃんを奪う人はいなくなったね」

 そう言って、このみが笑う。


 俺のせいで……。

 俺が今までやってきたことが、全て裏目に出てしまった。

 加奈がこうなってしまったのは、全て俺のせいだ……。


「うっ――!」

 薬が切れてしまったせいで、頭痛がしてきた。

「ん、どうしたのかなお兄ちゃん?」

  俺が苦しみだして、このみがキョトンとしている。


「くす……り……」

「薬? あぁ、片頭痛がこのタイミングでおこっちゃった? ふふ、なんだろうね……。小さい時は、お兄ちゃんが片頭痛で苦しむとこを見ると、胸が苦しかったけど、なんだか今はお兄ちゃんが苦しんでいる姿を見ていると、凄く気持ちいいんだ~」

 そう言って、このみが俺の頭を撫でてくる。


「もう少し待っててね、全てが終わったら、薬飲ませてあげるから」

「それよりも……加奈を助けてくれ……」

 俺がそう頼むと、このみの顔色が変わる。

「まだ、あの泥棒ネコの事を心配しているんだ? やっぱりあの人には、ここで壊れてもらう必要があるね」


 ――それから、どれくらいたったのだろうか……。

 頭痛の痛みから、もう、何も考えられなくなっていた。


「もうそろそろ、いいかな? さ~て、あの泥棒ネコはどんな風になっているかな?」

 このみがスピーカーにして、電話をかけ始める。


 加奈……。


「――もしもし、そっちの様子はどうかな?」

「……」

「ん? どうしたのかな? もしも~し?」

 このみが呼びかけても返事がない。


「ちょっと、なんで返事をしないのかな?」

「あ~はいはい、もしもし?」

 電話から聞こえたのは、女の声だった。

 この声は――!


「どちらさま?」

 このみも異変に気付いた様だ。

「あ~、あなたのお兄さんのお友達だよ? 随分とヤンチャをしちゃったね、このみちゃん?」

「どういうことですか?」

「どうもこうもないよ。君の計画は失敗したって事だよ。クロヤ~ン、聞こえる~? 桜井さんは無事保護してるから、大丈夫だよ? そっちとの電話が切れてすぐに助け出したから、一切手出しされてないから!」

 電話口から聞こえたのは、花宮の声だった。


「なんで、私の計画がバレてたの?」

「計画自体の内容は流石にわからなかったよ? でも、君が何か企んでるのはわかってたからね。紫之宮財閥の人達に、クロヤンの周りに居る子達を全員見張ってもらってたんだ。桜井さんには辛い思いさせちゃったけど、現行犯で、あなたの仲間たちは全員少年院送りにしてあげたから~」


「ハハハ、私の負けって事か~……。でも、お兄ちゃんが私の手元にあるからいいか~」

 そう言って、このみが俺の頭を撫でてくる。

「悪いけど、クロヤンも返してもらうから」

 花宮の言葉の直後、工場のドアが開く。

 そして花宮と由紀さん、それに執事服の人達が大勢いた。


「どうしてこの場所が!?」

 計画が失敗した時でさえ冷静だったこのみが、この展開に取り乱す。


「いや~、流石にクロヤン自体に手を出されるとは思ってなかったから、この場所を探すのに苦労したよ。GPSとかも全て切られていたしね~。由紀さんから、クロヤンが紫之宮の家に現れないって聞いてさ、わざわざ紫之宮財閥の人達を動かしてもらって探したんだから」


「ありがとう、花宮……」

 俺はなんとか、頭痛を我慢しながら声を絞り出す。

「クロヤン!? まさか頭痛が!?」

 そう言って、花宮と由紀さんが駆け寄ってくる。

 このみは地面にへたりこんでしまっている。


「薬は!? 薬はどこにしまってるの!?」

「右……ポケット……」

「右ポケットね! ちょっとまってて!」

「大げさな……。お兄ちゃんは片頭痛もちなだけだから、そんなに心配する事なんてないのに……」

 このみの言葉に花宮が立ち上がり、このみの頬を叩いた。


「何するんですか?」

 そう言って、このみが花宮の顔を睨む。

「クロヤンが頭痛で苦しんでいるのは、片頭痛じゃない! 脳に病気をもっているの!」


「え……?」

 花宮の言葉に、このみが俺の事を見てくる。


「嘘、だよね、お兄ちゃん……?」

 このみの問いかけに、俺は答える元気がなかった。

「これを見なさい」

 そう言って、由紀さんが俺の診断書を見せる。


「――そんな……私なんてことを……」

「あんたはやってはいけない事をしたの。それを女子少年院で後悔しなさい」

 そう言って、花宮がこのみに背を向ける。


「嫌だ……。嫌だよ……。そんなとこに入っちゃったら、私、もうお兄ちゃんと会えなくなっちゃうよ……」

 そう言って、このみが泣き出す。

 多分さっきまでは、少年院に入れられたってまた出てくるだけでいいと思っていたのだろう。

 だが、俺の命が長くない事を知った今、それを拒みだした。

 花宮も由紀さんも俺が手術をする事を、教えようとしない。

 このみに罪悪感を、植え付けるためだろう。


「花宮、由紀さん、このみを少年院に突き出すのは、やめてくれないか……?」

 薬により段々と痛みが減ってきて、やっと喋れるようになった。

 俺の言葉に、三人がこっちを振り返る。


「お兄ちゃん……?」

 このみは嬉しそうに、俺の方を見る。


「何言ってんの、クロヤン? この子は、れっきとした犯罪者だよ? それを見逃せって言うの?」

 花宮はそう言いながら、俺の事を睨む。


「あぁ、頼む」

 俺の言葉に、花宮は溜息をつく。

「あのさぁ、あんた妹に甘すぎ。わかっているの? 桜井さんはもうちょっとで、取り返しのつかない事になっていたし、紫之宮先輩と二度とあえないかもしれないんだよ? それだけの事をした子を、許すの?」

「確かに、花宮がいなかったら加奈は助からなかった。楓先輩の事も手遅れだ。でも、このみは俺のたった一人の妹なんだ。頼む……」


「お兄ちゃん!」

 このみが俺の事を呼びながら、抱き着いてきた。


「いや、そんなこと言われたって知らないし。悪いけど、私もかなり頭に来てるんだ」

 花宮は軽蔑したように、このみの事を見る。

「それはわかっている。でも、このみをこんな風にしてしまったのは俺なんだ……全て、俺が悪い。だから、加奈達への責任は俺が全てとる。それに、このみには直接罪滅ぼしをさせたい」


 そう言って、俺に抱き着いているこのみの頬を思いっきり叩く。

「お兄ちゃん……?」

 このみは俺に叩かれたのが、信じられないといった顔をしていた。

「俺の分は、これで終わりだ。後はみんなに一緒に謝ろうな」

そう言って、俺はこのみの頭を撫でる。


 俺にこのみを叱る資格はない。

 このみをこんな風にしてしまったのは、俺なのだから。

 だから、俺はこのみと一緒に頭をさげよう。


「ありえない……ありえなさすぎる……。このシスコン、妹に甘すぎるよ……」

 俺の言葉に、花宮が頭を抱えている。


「でも、楓お嬢様の事はどうするんですか?」

 由紀さんが困惑した感じで、俺に聞いてきた。


「そうですね……今回の事で相手に口実を作ってしまったんで、話し合いはもう無理でしょうね」

「諦められるのですか?」

「まさか。強引な手にはなるかもしれないですが、先輩を取り戻します」

 俺がそういうと、由紀さんは笑った。

 どうやら、由紀さんは俺に判断を任せてくれるみたいだ。


「あのさ、わかってるわけ? その子が今後、何かをしない保証はないわけだよ?」

 やはり、花宮はまだ納得してくれない。


「――このみ、俺と一緒に暮らすか?」

「いいの……?」

 俺がそういうと、このみは泣きそうな表情で聞いてきた。

「あぁ、もちろんだ。夕美には俺から事情を説明する」

 俺がそういうと、このみは嬉しそうに笑った。


「あははは、いくらクロヤンでも、そろそろ私キレるよ?」

そう言って、花宮が俺の胸倉を掴んできた。

「俺がこのみを監視する。それでいいだろ?」

「なるほどね……」

「それに花宮は、俺の意見なら聞いてくれるんだろ?」

「はぁ……それを今持ち出すわけ? まぁ、確かにそう言ってたわね……わかった。今回だけ、見逃してあげる。でも、次はないし、私も監視するから」

 そう言って、花宮はこのみを見る。


「わかりました。本当にごめんなさい」

 そう言って、このみは頭を下げた。


 ――これからやらなければいけない事は、山積みだ。

 だが、これは俺がやってきた事の償いだ。

 だから、そのすべてときちんと向き合う事を俺は心に決めたのだった――。


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