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貧乏学生の相手は大手企業!  作者: ネコクロ


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37話「三者会議」

「――で、なんで私まで?」

 不機嫌そうな夕美が、腕を組んで俺の前に座っている。

「逆に聞きたいんだが……なんでそんなに不機嫌なんだ?」

 俺がそう言うと、夕美がギロりとこちらを睨んだ。


「あ~……クロヤン? 今回は完璧人選ミスだと思うな~……」

 そんな夕美を横目で見ながら、花宮が苦笑いをする。

「なんでだ? 夕美の知恵も借りたいとこなんだが……」


「いや、あのさ……必死になってるんだろうけど、紫之宮先輩と水沢さんが仲悪いって事忘れてない?」

 あ――そう言えば、楓先輩と夕美は犬猿の仲だった……。


「はぁ……。嘘に決まってるじゃない。流石にもう割り切ってるわよ」

 そう言って、夕美が笑う。

「そっか、よかったよ。それじゃあ早速だが、何かいい案はないか?」

「う~ん、不正を探して、それを脅しに使う?」

 そう言って、花宮がニタ~っとする。

 あ、今夕美がビクってした。

 花宮の不気味な笑顔に怯えたんだな。


「それはやめとけ」

「え~、なんで? 私そういうの見つけるの得意だよ?」

「そりゃあ得意かもしれないが、考えてもみろ。お前、不正してる会社で働こうと思うか?」

「思わないね」

「だろ? そもそも、変な中小企業ならともかく、大手企業は法律ギリギリを攻めても、違法な事はしないんだよ」


「なんか、詳しいわね?」

 俺と花宮の話に、夕美が興味深げに入ってきた。

「まぁ、俺も就職を考えていたから、色々調べたんだよ。そんな事より、夕美は何か良い案がないか?」

「う~ん、私はないわね。龍こそなにかないの?」

「あるにはあるんだがな……」

「なんだ、有るんじゃない。その策って?」

「出来れば避けたい手ではあるんだが――紫之宮財閥ごと、楓先輩を奪う」


「「は?」」

 二人は信じられないといった顔で、こちらを見てくる。

「無理に決まってるでしょ? 相手は大手財閥よ?」

「クロヤン、後継者争いを解決したからって、調子にのっちゃった?」

「のってない。そんなに難しい事じゃないんだ」

「そりゃあ理論から言ったら簡単よ? 株主として、会社の過半数の株を手に入れればいいだけだもん。でも、その多額のお金が一体どこにあるの?」

 そう言って、俺を馬鹿にするように夕美がこちらを見てくる。

「流石にそんなお金は持っていない。しかも、株主は会長だ。例え株を過半数手に入れたとして、楓先輩のお父さんからとった事にはならない。そうじゃなくて、会社の人間をこちらに味方につける」

「前みたいに? そんな簡単にいくかな? だって、今度は会社自体の運命がかかってるんだもん」

「あぁ、普通ならそうだろう。だが、今俺達にとっての好材料が二つある。一つ目は、後継者三人ともがこちら側についている事。二つ目は、楓先輩のお父さんの体制に不満を持つ社員が、重役を含め多数いることだ」


「でも、だからって私達についてくれるの? 重役達も私達に会社を任せるよりは、今の社長の方が良いって思うんじゃない?」

「そこは愛さんに当分の間、グループをまとめてもらえばいい」

「それはだめじゃないかな? 愛さんが断る気がするよ?」

 そう言って、花宮が首を横にふる。


 確かに拘束を嫌う愛さんは、本当なら嫌がるだろう。

 だが、今回楓先輩のお父さんが、無理矢理楓先輩を軟禁したことにより、愛さんもとても怒っていた。

 俺が相談したら、二つ返事でOKが返ってきただけじゃなく、むしろそうしろと言われたぐらいだ。


「愛さんにはもう許可をとってある。だからそこについては問題ないが、会長の怒りを買う可能性がある。それにこれでは、俺が楓先輩のお父さんに認められたことにはならない」

「なるほどね……。まぁ、役員を丸め込む時間もないしね」

「いや、この策を使うなら時間は関係ないんだ」

「え、なんでよ?」

「今回の期限を決めたのは、向こうのお父さんだ。俺は楓先輩のお父さんに認められたいから向こうの指示に従っているが、その必要がなくなれば、わざわざ期限を守ってやる必要がない」

「でも紫之宮先輩が、無理矢理婚約させられたらどうすんの?」

「愛さんと協力して、阻止してやるさ」

 そう、楓先輩が望んでいるならまだしも、望まぬ婚約など絶対にさせない。


「――ねぇ、一つ疑問だったんだけど、なんでクロヤンって特進に入らなかったの?」

 そう言って、花宮が不思議そうに聞いてきた。

 特進といえば、特別進学コースの事か。

 頭が良い生徒ばかりが集まるコースだな。


「その話、今必要か?」

「だって、気になるじゃん。そこまで頭がキレるし、ずっと学年一位なんだもん。入学してからの事だから、流石の私にも調べようがないし」

「特進って一日の授業時間が一時間多いだろ? そうなると、バイト時間が減るんだよ」

「あぁ、なるほど。でも、それで入学以来ずっと学年一位って嫌味だよね~。特進のクラスって、毎回躍起になってるらしいよ?」

 そう言って、面白そうに花宮が笑っている。

「テスト範囲とかが違うんだから、毎回特進と競ってるわけじゃないんだし、関係ないだろ?」

「全クラス共通テストも毎回一番じゃん」


「確かにそうだが――まぁ、それも終わりかもしれないけどな」

 そう言って、俺は夕美を見る。

 俺はこの神童に、テストで一度も勝ったことがない。

「ねぇ、本当に水沢さんの方が頭良いの?」

「頭良いってレベルじゃないぞ。夕美は一度見たり聞いたりした事を忘れないんだよ。しかも、映像記憶能力を持っている」


「えぇ~!」

 その言葉に、花宮は盛大に驚いた。

 流石にその情報は入手していなかったか。

 まぁ、夕美も話したがらないしな。


「あんまりその話、してほしくないんだけど?」

 ほら、やっぱり不機嫌になった。

「めっちゃ凄いじゃん! 映像記憶能力何て、本当にあったんだ!」

 花宮が夕美に興味を示している。

「映像記憶能力自体は、誰もが持っていた能力なんだぞ? まぁ普通は、思春期を迎えるまでになくなるらしいがな」


 その言葉に、花宮の目がキラリと輝いた。

 あ、なんかよくないことを思いついたな?

「それってつまり、水沢さんっておこちゃまって事?」

「死にたい?」

 花宮の言葉に、最高に素敵な笑顔で夕美が返す。

 あ~この笑顔久しぶりに見たな……。

 夕美がブチ切れた時にする笑顔だ。


「なんでもないです! ごめんなさい!」

 花宮が即座に謝る。

 これは花宮なりのスキンシップなんだろうな。

 こいつが夕美にそういうノリが通じない事を、わかっていないはずがない。


「じゃあ、水沢さんはなんで特進にてんこ――いえ、なんでもないです。もうわかりました。だから、睨むのやめて下さい」

 花宮が夕美に特進に転校しなかった理由を聞こうとして、夕美に睨まれ、即座に謝っていた。


 ――はぁ……いつまでこいつは演技をしているのか。

 そんなに、夕美の事が信じられないのか?

 それとも、本当に仲良くなろうとしているのかな?

 

 まぁいい、早く話を進めてしまおう。

「おい、花宮。悪ふざけはやめて、話を進めたいんだが」

「は~い」

 花宮が素直に返事する。

 夕美も花宮が演技をしていた事に、気づいたのだろう。

 気に入らないって顔で、花宮の方を睨んでいた。


「あ、いい事考えた。前に愛さんから聞いた事なんだけど、紫之宮財閥グループは女子日本代表サッカー選手の春川咲選手を、イメージキャラとして起用したいと考えているらしいの。だけど、何度打診しても断られているらしくて――クロヤン、春川選手と毎日朝一緒にジョギングするくらい、仲が良いんでしょ? クロヤンが契約を結び付ければ、それが功績になるんじゃない?」

 それが本当なら、確かに功績になるだろうな……。


 ただ、そんなことよりも――。

「お前、そんなことまで知ってるのかよ……」

「あ~、ひかないで~。ひいちゃ、やだ~」

 半泣きで、花宮がすり寄ってくる。

「ひ、ひいてないから! ひいてないから、離れろ!」

 こいつ、気を抜けばすぐ演技をしやがるな!

 

 俺らがそんなやり取りをしていると、夕美がため息をつく。

「あなたたち、いつの間にそんなに仲良くなったのよ?」

「仲悪いよりいいだろ?」

 俺は未だひっついてくる花宮を引きはがしながら、夕美にそう言う。

「まぁそれはともかく、春川さんって前に龍がデートしてた子よね? だったら、断られるんじゃない?」

「そうだよな……。ずっと断ってるんだから、嫌なんだと思う」


 俺の言葉に夕美がため息をつく。

「あんたって、本当そうよね……」

「……? 何がだよ?」

「クロヤンって、そういうとこ疎いよね……」

 花宮も苦笑いして、こちらを見ている。


 どういうことだ……?


 結局その後も、二人が答えを教えてくれる事は無いのだった――。

 帰り支度をしていると、花宮が近づいてきた。


「どうした?」

「クロヤン、あのね……」

 花宮が俺の顔を見たまま、何か考え込んでいる。

「なんだ?」

「ううん、やっぱなんでもない。私の方で手を打っておくから、気にしないで」

 そう言って、花宮は笑顔で立ち去った。


 手を打っておくってなんだ?

 逆に気になるんだが……。

 俺は花宮の言葉に悶々とした気持ちを抱えて、帰宅するのだった――。


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