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貧乏学生の相手は大手企業!  作者: ネコクロ


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28話「除名宣告」

「――二年B組黒柳龍君、二年B組黒柳龍君、至急生徒会室に来てください」

 昼休みに入って10分くらいたった頃――教室に俺を呼び出す放送が流れた。

 声からして白川会長だろう。

 ……限界が来たって事だろうな……。


 俺が黙って席を立つと、加奈と夕美が近寄ってくる。

「また白川先輩に呼ばれたね。でも、放送で呼ばれたのは初めてかな?」

「随分頼りにされているようね」

 二人はそう笑顔で、話しかけてきた。

「いや、今回は多分違うだろうな」

「え? どういうこと?」

「まぁ、戻ったら話すよ」

 そう言って、俺は二人に背を向ける。

  




 生徒会室の前まで来ると――部屋の中から怒鳴り声が聞こえた。

「そんな勝手なこと、私は認めてない!」

「こうするしかないのよ……。分かってよ……楓……」

「だからって、これじゃあ利用するだけ利用して、見捨てるようなものじゃない!」

「副会長落ち着いてください!」

「あなたは黙ってて! 私は唯今と話をしているの!」

 どうやら、中では喧嘩みたいになっているようだ。

 俺はドアを三回ノックし、生徒会室に入る。


「失礼します」

 中に入ってみると、紫之宮先輩が白川会長に詰め寄っていて、それを抑えるように会計の女子が紫之宮先輩の腕を掴んでいた。

 書記と庶務の男子は困ったような表情を浮かべて、席に座っている。

 ドアが開いたことにより、全員の視線が俺の方に向き、白川会長が咳払いをする。

 すると、会計の女子は紫之宮先輩の腕を離し、紫之宮先輩も姿勢を正して席に着く。


「黒柳君ごめんね、昼休み中に呼び出しちゃって」

「いえ、大丈夫です。それで用件はなんでしょうか?」

「率直に言うわね――黒柳君には、悩み相談委員を辞めてもらいたいの」

「だから、そんな事私が認めないと言っているでしょう!」

 紫之宮先輩がガタっと、音を立てて立ち上がり怒鳴った。

 白川会長は紫之宮先輩の方を一瞬だけ見ると、口を開いた。

「それなら今ここで、生徒会役員で多数決を行います。この案に賛成の者、手をあげなさい」

 ――手を挙げなかったのは、紫之宮先輩だけだった。


「賛成四票……決定ね」

「そんなの卑怯よ!」

「意見が割れた時は多数決でしょ?」

「でも……唯今と私はともかく、他の三人は黒柳君の事をあまり知らない! 彼がどれだけ私達の為に頑張ってくれてたか、知らないじゃない! それを本人の事をあまり知らないからって、噂に流されて意見している様な事を認めろって言うの!?」

 紫之宮先輩の発言に白川会長以外の役員は、気まずそうにしている。

 図星だったのだろう。

 それにおそらくだが、白川会長と紫之宮先輩がこんな風に言い合いをするのは初めてなんじゃないだろうか?

 だからどうしたらいいかわからずに、他のメンバーは戸惑っているのだろう。


「――いい加減わかってよ! 私だってこんなことしたくないんだから!」

 とうとう白川先輩までキレてしまった。

 これは俺が止めないとラチがあかないな……。


「二人とも落ち着いてください。このままでは話が進みません。とりあえず、僕に悩み相談委員をやめてほしいって事ですね?」

 俺が二人の間に入ると、白川先輩が頷く。

「なんとなくはわかりますが、詳しく理由を説明して頂いてもよろしいですか?」

「今、学園中に流れている噂は理解しているかな?」

「僕が色んな女子に手を出している、という事ですか?」

「うん、それであってるよ。それでね『そんな人がいるから悩み事があっても、悩み相談委員に行く事が出来ない』って声や『そんな人に相談したくない』って声が多く出ているの」

 生徒会に来ている苦情を、白川先輩は残念そうに言う。


「今、悩み相談委員は君達のおかげで、学園生にとって目指していた以上の存在となっているわ。だからこそ、今回ここで信用を落とす事をしたくないの」

「だったら他に手を考えればいいじゃない!」

 俺と白川会長の会話に、紫之宮先輩がまた割り込んできた。

 俺はそれを手で制す。

 このままではさっきみたいに、話が進まないからだ。

「なるほど、確かに噂を消すよりも、噂の元になる人物を除名する方が手っ取り早いですもんね。僕はそれで構いませんよ」

 俺がそう言うと、紫之宮先輩が驚いた様に俺の顔を見る。


「何言ってるの? 途中でやめたら内申点がつかないのよ? 今まで頑張ってきた意味がなくなるのよ? しかも、委員を途中で辞めるなんて、なんか問題があったと判断される可能性が高いの……。だから、絶対にやめたら駄目よ!」

 紫之宮先輩は、俺の進路を気にして言ってくれているのだろう。

 だが、今の俺には関係ない。

 むしろこのタイミングでやめれるのなら、俺がいなくなった時に引継ぎ問題などで困る事は無くなる。

 ……まぁ、こんな事口が裂けても言えないが……。


「黒柳君が納得してくれてるのなら話が早いけど、本当にいいの?」

 俺がすんなり納得するとは思っていなかったのだろう、白川先輩がそう問いかけてきた。

「ええ、元々僕がこの委員を引き受けたのは、紫之宮先輩に恩を返すためでした。だから、内申点に響こうが響かまいが関係ないんですよ。それに、ここで僕が委員を退いたとしても、今の委員のメンバーならしっかりやってくれます。それでも何かあれば、周りにはバレないように陰から支えますので、いいんですよ」

 俺はそう言って笑う。

 俺の言葉に、生徒会のメンバーは全員呆気にとられていた。


「――ありがとう……こんなことになってごめんね」

 白川会長は泣きそうな表情を浮かべている。

 この人はとても優しい人だ。

 先ほどの白川会長と紫之宮先輩の言い合いの最中でも、白川会長の本音は所々漏れていた。

 だが、生徒のトップという立ち位置ゆえに、生徒達にとって何が一番かを考えて行動しなければならない。

 この人はそんなジレンマを常に抱えている。

 だから俺は、この人の考えを否定する気はない。


 白川会長は深呼吸すると、また真剣な表情に戻った。

「ただね……1つ聞かせてほしい事があるの。私は今回の噂がここまで広がる前に、君なら手を打つと思ってた。だから、私は静観していたの。でも、君は何もしなかった。少なくとも、あの噂をほっておけばこういう状況になる事はわかっていたよね?」

 白川会長がジッと俺の目を見る。

「そうですね、わかっていました」

 嘘をつくことに意味がないと思い、俺は正直に答える。


「なら、どうして噂をほっておいたの?」

「僕も会長と同じ考えだったという事ですよ。下手に噂を止めるように動くよりも、僕が退く方が楽だと考えたんです」

「その考えは君らしくないと思うんだけど? 少なくともそんな事になれば周りに迷惑をかける。それは君が最も嫌ってて、そうならない様に行動する人間だと私は思っていたんだけど?」


その問いかけに俺は首を横に振る。

「それは先輩の見込み違いだったって事ですよ。僕にそこまでする度量はありません。――話が終わりでしたら、僕はここで失礼します」

 そう言って俺は生徒会室から出たのだった――。





「――黒柳君って、何だか自分の事に興味なさそうですよね?」

 黒柳君が生徒会室を出た後、会計の大森みなが私に尋ねてきた。

「実際興味ないのよ」

 私は吐き捨てる様に、彼女の質問にそう答える。

「でも、彼は達観して物事を見れているし、先を見通す力ももっている。大森、俺達三年が引退した後は、彼を生徒会に勧誘した方がいいんじゃないか?」

 唯一の生徒会三年生男子である、書記の小林真君がみなにアドバイスをした。

「えぇ~、入ってくれますかね? 私隣のクラスなんですけど、話したことがないんですよ……」

「でも、次の生徒会長は大森先輩でしょうし、黒柳先輩が入ってくれたら仕事が楽になるんじゃないですか?」

 まだ一年生なのに優秀で仕事をテキパキとこなす、坂井大地君は目を輝かしているように、ウキウキと喋っていた。

 ……三人とも優秀だから、先ほどの短いやりとりで、黒柳君の優秀さに気づいたのでしょうね……。


 ……本当――随分と勝手な話ね。

 唯今とは違う、完全に心から彼の事を否定していたくせに、優秀だとわかった途端手の平返し。

 その彼らの言葉に、私は(はらわた)が煮えくり返る思いだった。


 私がイラついている事に気づいたのだろう――唯今がパンっと手を叩いた。

「今回の会議はこれで終わりだから、みんなお昼を取りましょう。早くしないと昼休みが終わっちゃうよ?」

 そう言って、唯今は弁当箱を取り出す。

 他のメンバーは生徒会室から出て、食堂に向かった。

 生徒会のメンバーで弁当を持参しているのは、私と唯今だけだった。

 他のメンバーが居なくなった事を確認すると、唯今が口を開く。

「さっきはごめんね? 楓の気持ちはわかるの……私だって同じ気持ちだから……」

 そう言って唯今は申し訳なさそうに、私の顔を見る。


「ううん、私の方こそごめんなさい。唯今がとった判断が正しかった。私情を持ち込んだ私が、間違っていたわ」

 そう言って私は頭を下げる。

「あの話を持ち出せば、楓がああなるって事はわかっていたの……。だって、黒柳君は楓にとって大切な人だもんね? だから、楓にこの決定を話すタイミングはギリギリにしたの」

 私は唯今の言葉に顔が熱くなるのを感じる。

 唯今には全て知られていたから、今更誤魔化しても無駄なのよね……。


「その判断は正しいと思うわ。もっと前に話されていたら、私はもっと強引な手段をとってたと思うから」

「ハハ、意志を固めた時の楓は容赦がないからね~」

 唯今は昔を思い出しているんでしょう、ちょっと遠い眼をしている。

 私が学園生に恐れられているのは、そういう容赦が無い部分が結構影響しているって聞く。

 でも、そんな事どうだっていい。

 私が演じる冷酷さに耐えられる人間しか、私は必要としていない。

 それくらい耐える事が出来ない人間は、紫之宮の名の前に恐れをなして逃げ出してしまうだろうから。


「――ねぇ、それよりもやっぱり黒柳君変じゃなかった?」

 さっきまで遠い眼をしていたはずなのに、急な真剣な目をして唯今は私を見てきた。

「うん、私もそれは思ってた。なんか、隠してると思う」


「だよね? 多分彼が今回すんなり委員の脱退を受け入れたのには、何かわけがあると思うの」

「多分、また色々と抱え込んでいるんだと思う。……ねぇ? 黒柳君が私に何も相談してくれないのって、私には話しても意味がないって思ってるのかな?」

 私はここ最近ずっと気になっていた事を、唯今に聞いてみた。

「それは違うと思うけど……どっちかというと、心配をかけたくないんじゃないかな?」

「それなら、心配かけてほしいよ……」

 そう言って私は、自分の手で顔を覆う。

 すると、唯今が私の頭を撫でてきた。

「そうだね……。やっぱり好きな人には相談してほしいよね……。でも、楓も後継者争いの事、黒柳君に相談してないんでしょう? まずは楓の方から相談してみた方が、良いと思うな~」

「うん、そうだね……」

 唯今の言う通りだと思った。

 私自身が悩み事を相談していないのに、彼には相談してほしいなって勝手な事だった。

 それに、本当は彼の悩みがなんなのかも知ってるの……。

 その話を聞いたとき、私は胸に風穴が開いた気がして、数日間ろくに眠ることも出来なかった……。

 ただ、大変な事だからこそ、私は彼の口からその言葉を聞きたかった……。

 でもそれを願うなら、私の方から歩み寄らないといけないのよね……。


 ――今日も多分、黒柳君は家に来てくれるはず……。

 その時に相談する事を、私は心に強く決めるのだった――。


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