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貴族令嬢なんて、辞めてやりましたわ!  作者: 綾野 れん
夢幻の随に漂えば
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第54話 明日へと架かる橋


「……フィルモワールかぁ。 送ってあげたいのはやまやまだけれど、フィルモワールからその近くにかけて、とても大きな空間結界がはってあるんだよね」

「結界、ですって?」

「そう。何でも、ぼうえいじょうのもんだい? とかで、特定の法具を持っていないと飛んでも弾かれちゃうの。目には見えないけど、この先にあるフランベネルから先はそれがずうっとはってあって、ここから飛ぶのはちょっと無理かなぁ」


 ――やはり、そう簡単に行く話では無いわよね。

 ここまで来るだけでも本当に大変だったのだから。

 もしエセルが居なかったら、と考えれば背筋が寒くなる。


「なるほど……ありがとう、エセル。とろこであなたはこれからまた、その……エフェス、だったかしら。その子を探しに行くの?」

「もちろん。ボク、エフェスを絶対に見つけなくちゃいけなくってさ。あともう少しだけここに留まって、それっぽい反応が無いかどうか、探してみるよ。お姉さんたちはこれからその、フランベネルに行くんでしょ?」

「ええ。確かここから南西にある谷に架けられた橋を渡ればすぐ、なのよね?」

「うん。ボク、ここへはその橋を通って来たから間違いないよ」


 ――エセルを味方に出来ればこれまでにない、とても大きな戦力を得られる……心の何処かでそう打算的に考えてしまう自分が、時々本当に嫌になる。

 しかしエセルにはエセルの事情があって、私たちと同行する理由が特にないことに加え、これから向かうフランベネルの方向からここにやって来ている以上、そちらの方面ではそのエフェスが見当たらなかったことが窺える。


 以前にも思いを巡らせたことがあるけれど、フランベネルにまで渡ってしまえば、もうフィルモワールの勢力圏内。時に言い間違えそうになる偽名を使うでもなく、堂々と立ち振る舞うことも出来るし、ロイゲンベルクからの追手もおいそれと手が出せない地域であることから、精神的なゆとりを得ることも叶う。


「それでは、私たちはもういくわね。本当に色々とありがとう、エセル。いつかフィルモワールに用があれば、きっと首都オーベルレイユの何処かにいるだろうから、私たちを探してみて頂戴。その時にはきっと何かお礼も出来ると思うから」

「ふぅん、じゃあその時には何か甘くておいしいものを用意しておいてよ。ボクそういうの大好きだから」

「ふふ、分かったわ。ではまた、いずれ。あなたがエフェスと早く会えるように心から願っているわ」

「お姉さん、ありがと。後ろのお姉さんたちも気を付けてね!」



 ***



 エセルと別れ、ポルカーナにあった店で軽食をとった後、休憩もそこそこに町を出て、南西方向に数十分ほど歩いた。このまま道なりに進めば、今日中にフランベネルへと辿り着けるはず。


 私たち以外には誰も居ない、ほんの少しだけ赤みを帯びた砂色の道には、微かな湿気が混じった軟風が流れ、疎らに見える緑を俄かにそよがせていた。


「何だか、とっても人当たりが良い感じの子でしたね」

「レイラもそう思いました? それにあの子、絵本に出てくる魔法使いみたいな恰好をしていて、とっても可愛らしかったですよね、メル?」

「ええ、そうね。それにしてもあのエセルって子、私たちよりずっと年下であるように見えたけれど、あそこまで高度な魔現を操るだなんて、本当に驚きだわ」

「それにしてもあんな術、一体何処で身に付けたんでしょうね……? たとえ類まれな才能があったとしても、それを教えてくれる人の存在や魔術学院のような場所がなければ無理ですよね。でも転移法テレポートなんて教えているところあるのでしょうか?」


 リゼの言う通り、いかに才能に恵まれていようと、やはりそれ相応の場所で然るべき教導が無ければ、あれほどの魔現を身に付けることは不可能であるはず。一体何処で転移法といった神理アルケーの領域にある術を学んだのかも、後学のために訊いておけばよかったかもしれない。


「しかし、いくら幼く見えるとはいえ、初対面の人間にあれこれ聞くのはちょっと無粋よね。恩人ともなれば尚更よ」

「はは、そうですね。しかし、もしあんな子が私たちの通っていた学院に居たら、他の誰よりも一番注目されてたんじゃないでしょうか」

「本当、あのイングリートも彼女を見たらさぞや驚いたでしょうね。そういえばあの子、今頃は何処で、何をしているのかしら……」

「……あっ、二人共見てください。橋が見えてきましたよ」


 レイラが示した先に現れたのは、ルーネの谷と呼ばれる峡谷に架かる橋。


 今居る地とフランベネルがある地とを空間的に隔てている深い渓谷で、多くの木材と太い縄のように編みこまれた蔦葛つたかずらとを利用して造られたと思われる、たった一本の吊り橋が、その渡し役を担っていた。


「それにしてもすごい橋ですね。全部蔦のようなもので作られているようです」

「えっ……あの橋、大丈夫なんでしょうか? 何だか揺れているような……?」

「ひょっとしたら受ける力を分散させるとか何かで、わざと揺れるようにしてあるのかもしれないけれど……距離が距離なだけに、ちょっと足踏みしたくなるわね」


 レイラが言う通り、この渓壑けいがくを渡るために架けられた橋にしては、風を受けて僅かに揺れているように見え、少し頼りなくも感じられる。万に一つも無いとはいえ、渡っている途中に橋が崩落するようなことがあれば、当然谷底への落下は免れ得そうにもない。


「しかも結構長い橋ですよね。どうやって対岸まで繋げたんでしょう?」

「さぁ……よくは知らないけれど、おそらくは凧を利用したり、向こう側に編んだ蔦葛を射出する法具を用いたり、かしらね。けど、あの子も渡ったんだもの。私たちもさっさと渡ってしまいましょう。その、下だけは見ずに……ね」


 あの橋は、いわば私たちの明日へと繋がる想いの架け橋でもある。

 ここを渡ってしまえば、次の目的地――フランベネルは目と鼻の先。

 これまで本当に色々なことが起きたものの、光ある場所はもう、近い。

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