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貴族令嬢なんて、辞めてやりましたわ!  作者: 綾野 れん
蜃気楼の先に揺らめくもの
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第41話 遺跡に消えた女性


「ナディアという女性が調べている遺跡があるのはきっとこの辺りね」


 話によれば、遺跡周辺にはかつて大きな都市があり、その頃はまだこの一帯も砂漠ではなく、青々とした草原が広がっていたらしい。


 そして遺跡群の奥に見える峡谷状の地形になっている場所に、砂岩を刳り抜いて築かれた『ラムル・ワルド』という修道院のような外観を持つ、信仰に関わるものとされる遺構があり、ナディアはそこの調査にあたっていたと聞いている。

 

「それにしてもすごい建築技術ですね……とりあえず中に入って、彼女の安否を確かめなくては。私が先導を行いますので、レイラはその後ろに、そしてメルには最後尾について貰って、それぞれ慎重に進んで参りましょう」

「分かりました。ではメルとリゼに前後はお任せして、私は縄や着火剤などの道具を持っていきま……ひっ!」

「どうしたの、レイラ!」

「ご、ごめんなさい……ただのちっちゃなサソリでした。急に出てきたから思わず驚いちゃって」

「ただのって……小さくとも毒があると聞いているわ。気を付けて行きましょう」



 ***



「壁面の多くに絵や図形のような文字が描かれているわ。ここは信仰に纏わる遺跡だそうだけれど、かつては礼拝堂か何かだったのかしらね」

「そうですね。しかし中がここまで広い空間だとは……あっ、どうやらこの先は大広間になっているようですよ」

「これは……とても壮麗ね」


 調査のために設置されたと思われる、多くの魔光灯によって照らし出された広間の内部には、多くの破損箇所があるものの、その壁という壁に人物を中心とした精緻なフレスコ画が描かれており、それは天井と奥にある祭壇の近くまでの通路全体を美しく彩りながら、非常に厳かな雰囲気を今なお醸し出している。


「一体どのぐらい前のものなのかしら……色褪せているとは思えないほど鮮やかだけれど、破損部分がそのままだから修復されたわけでもないだろうし、おそらくは当時の高度な錬金術で作られた絵具が使われているのでしょうね」

「しかし……妙ですね、この魔光灯の照度、通路にあったそれと比べて妙に明るいです。これは、燃料がつい最近替えられたせいではないでしょうか?」


 魔光灯の点灯時間は、燃料となる発光物質によって大きく左右され、小さなものなら数時間から半日、ここに複数置かれている中くらいのもので一日から二日、大きなものであれば三日以上持つと言われているものの、その照度は急に失われるわけではなく、燃料の減少に伴って徐々に落ちていくもの。


「つまり調査員であるナディアによって、つい最近その燃料が再充填されたということかしら。となれば、彼女が今も無事である可能性はずっと高くなるわ。けど、この祭壇周りにも居ないとなると、彼女は一体何処に――」

「ん……あれ? メルにリゼ、ちょっとこっちを見てください。これって、奥の方に続く通路じゃないですか?」

「……本当だわ。祭壇の裏側にあったのね。良いわ、進んでみましょう。レイラは一番後ろから付いてきて頂戴」


 祭壇裏にある細い通路をしばらく歩いて行くと、やがて高い天井のある円筒状の空間に出た。しかしその床は砂に深く覆われており、近くに据えられた小さな魔光灯の輝きも酷くぼんやりとして、その寿命が間近に迫っていることを告げている。


「これで行き止まりですか……どう見ても砂しかありませんよ、全く」

「ここは……何をするための場所だったのかしら? 壁面は崩れているようだけれど、これはしっぽ? 何かの絵が描かれていたみたい」

「あの、二人共。何だか妙な音がしませんか?」

「ん? 妙な音?」


 ――レイラの聴覚は、私たちのそれとは比較にならない程優れている。このあいだも町に居た時も遠くで行われている会話を容易に聞き取ってみせたばかり。

 彼女がその耳を通じて何か異変を感じ取っているとすれば、それは――


「ちょっと待って……メルこの砂、何だか様子が変です!」

「これは……! 身体が沈み込んで……まさかこれが流砂、なの⁉ うあっ!」


 ――私としたことが、咄嗟に砂地から移動しようと試みたものの、沈み込んだ足元が枷となり、逆にその体勢を崩して倒れ込んでしまった。


「メル! リゼ!」

「レイラ、来てはだめ! リゼ! そっちはどう? 動ける?」

「駄目です! 身体がどんどん沈んでいって、止まりません!」


 リゼの言う通り、足場が沈んで安定しないために力任せに脱出することも叶わず、眼前に居るリゼも、既にその腰上の辺りまでが底なし沼に囚われたかのように没してしまい、今もなお刻々とその深みを増している。


 魔導を使おうにも、この砂相手ではどうにも相性が悪く、物質変化を用いて身体を固定するような時間は、現在の沈下速度を鑑みるに間に合わない。


「い、今この縄をそちらに投げます!」

「……くっ!」


 ――手が、届かない。仮に届いていたとしても、きっと彼女の力だけでは私たち二人をこの場から引き揚げるには足りず、逆に巻き込んでしまう恐れさえある。そしてそう考えている内に、もう首の辺りにまで砂が……。


「そんな……見えているのに、助けられないだなんて! 私はまた、何も……!」

「大丈夫……レイラ、これはあなたのせいでは、決してない……それに私は、私たちは最後まで絶対に諦めはしないわ!」


 何もかもが砂の沼に沈み込んで、もう口を満足に開くことすら叶わない。

 かつて私の剣の師匠は、死の瞬間まで諦めてはならないことを教えてくれた。

 だから私は、この内なる鼓動が止まらない限り、生き残るための道を探したい。


 ――リゼと共に、必ず。

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