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貴族令嬢なんて、辞めてやりましたわ!  作者: 綾野 れん
熱砂の都 アル・ラフィージャ
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第34話 叶わなかった願いと叶えたい想い


「お母さん……どう、して……」

「レイラ……」


 レイラが近くの住民に話を聞いて回った結果、彼女の母はレイラの失踪を知らされてからさらにその衰弱が酷くなっていき、今から三週間ほど前に、独り静かにその息を引き取ったのだという。そしてその遺体は貧民街の外れにて埋葬され、その場所には墓石代わりとして置いたのか、不揃いな石が幾つも積まれていた。


「私が居たところで、何かが出来たわけじゃ、ないけど……せめて最期まで、私がお母さんの傍に居てあげたかった……う、ううっ!」

「……メル、今は少しそっとしておいてあげましょうか」

「ええ……そうね、リゼ」


 ――レイラは自身の母が今際を迎えた時に、一緒に居てあげることが叶わなかった。私は、自分の眼前で母が冷たくなっていく様を目の当たりにしたものの、その最期の瞬間までを共に過ごせた分、彼女よりはまだ恵まれていたのかもしれない。


 尤も私はずっと幼く、お母様も普通の死に方では無かったけれど……。



 ***



「ごめんなさい、メルさん……」

「構いやしないわ、レイラ。お母様の死を悼んで、涙が止めどなく溢れてくるのは当然のこと。ましてやあなたは、最期まで傍に居たいという願いを心無いものたちによって阻まれたのだから、その無念さたるや、推して量るにも余りがあるのだわ」

「メルの言う通りですよ、レイラ。誰の目を憚ることなく、気が済むまで泣いたって良いんです。お母様の最期にあなたが一緒に居られなかったのは決してレイラのせいじゃありません。そしてそんなあなたを責める資格は、誰にも無いのですから」

「お二人共……本当に、ありがとうございます。私ならもう、大丈夫ですから」

「お母様のことは、本当に残念だった。けれど、これでこの地にあなたが留まる理由もまた無くなったはず。レイラ、前に私が話したことは憶えていると思うけれど、彼女――ディートリンデならきっとあなたの力になってくれるわ」


 ここから彼女が居るであろうロイゲンベルクにあるキルヒェンシュヴァイクの町まではまだそこまで遠くはない。それに彼女一人で向かうのなら、私たちがここに来るまでに掛けてきた時間よりもずっと早く目的地へと到達することが出来るはず。


「そのこと、なんですが……メルさん、私がこれからもメルさんたちとご一緒させていただくことって、やはり無理なのでしょうか……?」

「えっ……?」

「母が生前、私に常々言っていた言葉があるのです。あなたのその力は神様から授かった奇跡の力だって。そして、その力を必要とする誰かの助けになれるのなら、あなたは私を置いてでも、その偉大な力を活かせる道に進みなさいって……」


 ――レイラの治癒術は、はっきり言って非常に心強いもの。使用後の消耗具合からして、その力の制御はまだ完全ではないようだけれど、もし彼女に今後も同行して貰えば、有事の際に救える命の数が増えるかもしれない。


 また行く先々で三人組として行動すれば、二人組として追われている私たちに対して、他者が抱くであろう表象も変わってくる。


 しかしそれは私たちの……いいえ、私自身の勝手な都合に過ぎない。

 そんな彼女を利用する形で、これ以上の危険に巻き込むわけにはいかない。

 ましてや彼女は私たちのような戦闘能力を有していないのだから、尚のこと。


「そう……だけどレイラ、何も常に危険と隣合わせの私たちに付いて来なくても、あなたの力を活かす道はきっといくらだってあるわ。それこそディートリンデに会えば、そんなあなたのために必ずや尽力してくれるはずよ」

「私のことは、良いんです……メルさん自身がもし私の力を必要としてくれているなら、私は私の想いに従って、メルさんたちと行動を共にしたいのです。私にはお二人にはこの命を救っていただいた恩義だってあるのです。そして私はまだ、そのお礼もちゃんとは出来ていませんから……お役に、立ちたいのです」


 レイラの双眸からは他意や恩義から来る責務のようなものではなく、ただひたすらに純粋な彼女の想いだけが、こちらに流れ伝わってくるのをひしひしと感じる。


「……レイラ、とても嬉しい言葉だけれど、正直に言って、あなたが思っているよりもずっと、私とリゼのこれからは危険に満ちている。いざというとき、降りかかる脅威に正面から対抗する力を持たないあなたは、真っ先に命を落とす恐れだってある。それでもあなたは、私たち二人と行動を共にする意志がある?」

「あります。私はメルさんたちと一緒にこの先に進んで、私に与えられたこの力を活かしたい。私の願いは叶わなかったけれど、母が私にくれた想いだけは絶対に叶えたいから。他にも弓術ぐらいなら心得があります……役に立つかは分かりませんが」

「そう……あなたの気持ちは、よく分かった。いいわ、レイラ。私たちと共に、行きましょう。リゼも、それで良いわね?」

「はい。私も異論はありません。これからよろしくお願いしますね、レイラ!」

「ありがとうございます……これからご迷惑をおかけすることがあるかもしれませんが、少しでもお役に立てるように頑張りますから! メルさん、リゼさん……どうかよろしくお願いいたします」

「ええ、レイラ。私からもよろしくお願いするわね。でも私たちと同行するにあたってあなたに一つだけ、お願いがあるわ」

「お願い……ですか? それは一体、どんなものでしょう?」

「私たちは皆が対等よ。だから私とリゼに、さん付けは要らないわ」

「あ……はい! メル!」


 ――自身の翼と母とを失くした半妖の少女、レイラ。

 彼女には天から授かった、奇跡にも等しき癒しの力がある。

 それでも治せないその心のひびは、私たち二人が埋めていこう。


 ここから始まる新たな絆を、三人で感じ合いながら。

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