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第46話「3人パーティ」

 目黒駅の改札を通ると人の多さに辟易した。休日であり昼時ということもあるのだろう。

 狭山とは初顔合わせの人が来るから昼食を一緒にして友好を深めよう、と言い出したのは鹿島だった。まるで会社員のような提案に狭山は苦笑いしか返せなかった。

 しかも聞くところによると女性らしい。女性が苦手というわけではないが、友達も少ない自分が女性と話して大丈夫か、気持ち悪がられないかという、漠然とした不安が狭山の胸中を渦巻く。


「狭山くん」


 鹿島の呼ぶ声が聞こえた。それほど声量が大きいわけではないがよく通る声をしている。リーダー気質の声だと教師は言っていたのを思い出す。

 手を振る相手に近づく。ネイビーのマウンテンパーカーにテラコッタのセーターを下に着ている。ズボンは足の長さがよくわかるスキニーだった。


「やっぱイケメンだよなぁ」

「何ですか突然」

「服のモデルとか言われても疑わねぇわ」

「ああ。さっき雑誌の撮影中ですかって女性に聞かれました。二人組の」

「それ逆ナンされてない?」

「あ~、そうだったんですかね。お茶にも誘われましたけど」

「腹立つわ~。死ねばいいのに」


 鹿島は小さく笑って視線を斜めに向けた。わかって言っているのだ。コイツはそれほど性格がいい人間ではない。敬語でいい人風に見せているだけなのだ。それを世の女性にわかって欲しい。


「で、もう一人はいつ来んの?」


 鹿島はスマートフォンを取り出し画面を見る。


「今着いたらしいです。改札上手く行けるか不安とのことです」

「んでだよ。上の標識見れば余裕だろ」

「まぁまぁ。東京の駅はわかりづらいですからねぇ」


 こういうところをフォローできるのがモテる秘訣なんだろうなと思っていると、鹿島が声をあげて手を振った。目の前から女性が歩いて来るのが見える。

 チェック柄のニットコートにケーブルニットを着て、デニムパンツという出で立ちだった。

 狭山は下から上に視線を動かして相手の顔を見る。

 そして特徴的な三白眼を見た瞬間、口をあんぐりと開けてしまった。


「いやぁ、ごめんね! やっぱりどうしても駅って苦手でさ」

「沙希先輩。本当遅刻しがちですよね」

「な、馬鹿にすんなよ。これでも昔より遅刻の数は減ったんだから」

「遅刻しないようにしましょうよ。相方に謝ってください」

「ああ、そうだね。ごめ……」


 狭山の姿を捉える。沙希が目を丸くし、狭山も口許を歪めて耐える。

 一瞬の沈黙。そして沙希がゆっくりと口を開けた。


「……なにしてんの」

「……服買いたいんっす」




★★★




「まさかの。バイト先で知り合いだったんですね」


 注文を終えてメニュー表を戻しながら鹿島は感心するように言った。

 ファミリーレストランにて昼食を取る話になった。鹿島の隣には沙希がおり、狭山と視線を合わせようとしない。狭山は若干気まずかった。


「いやぁ世界は狭いですねぇ。あ、お水取ってきますよ。沙希先輩ドリンクバー頼まなくてよかったんですか?」

「ん、ああ。いいよ水で」


 鹿島は立ち上がって水を取りに行った。

 瞬間、沙希がバッと顔を向ける。


「一応聞くけど狭山くん?」

「はい……狭山です」

「バイトのことどこまで喋ったの?」

「まだ神白さんに仕えていることは喋ってないっす」

「なるほどね、私と同じか」


 うーんと唸り、頷いた。


「メイド執事カフェでバイトしている設定だから合わせてね」

「いや無理無理無理!!! 俺の顔じゃ無理ですって!」

「大丈夫よ! まぁ、その、斜め45度くらいの角度から見ればこう、イケそうな感じがするし」

「そんな限定的な時点で駄目ですよ……」

「とりあえず話合わせなさい」


 そのタイミングで鹿島が戻ってきた。目の前に置かれたコップを見ながら狭山は肩を落とす。


「狭山くんのこといじめてないっすよね? 沙希先輩」

「あのね。私がそんないじめっ子に見えるかよ」

「はい」

「はいじゃねぇよ。でも後輩君の服をコーディネートすることになるとは」


 沙希はパンと手を叩いた。


「安心しなさいよ狭山くん。パッとイケてる男にしてあげるから」


 沙希はニッと笑った。なんやかんやいい先輩だと狭山は思った。


「ところで執事バイトなのに、どうして先輩とお知り合いなんですか? 先輩、メイドカフェだったんじゃ」

「最近近所の執事カフェと吸収合併してね。メイド執事カフェになったのよ。結構楽しいわ。で、そこに優秀な執事としてやってきたのが狭山くん」


 ハードルを上げやがった。いい先輩という発言は撤回しよう。狭山は沙希を睨む。


「へ~。面白そうですね。今度自分も友達と一緒に行きましょうか?」

「「いやダメだ!! 来んな来んな!!!」」


 2人が立ち上がり全力で否定した。周りの視線が注がれる。


「わ、わかりましたよぉ」


 全否定された鹿島はしょんぼりとした顔で肩を落とした。

 すまん、鹿島。心の中で大親友に謝罪していると、目の前にタラコソースがかかったパスタが運ばれてきた。




★★★




 3人は一般的に親しまれている、日本全国で有名な服屋に足を運んでいた。

 安値で買え、国民服とまで称される服屋であるため品揃えは申し分ない。


「あ~ステテコセールス中で安いなぁ。買おうかなぁ」


 鹿島は和柄のステテコを取りながらチラと隣を見る。


「いやだからさ。君それほど身長高くないんだから。あと足が長いわけでもないし。ダボっとした服着てたら短足に見られるよ。イキった中学生みたい」

「な! 言い過ぎですよそれ!」

「気になる子のためにカッコよくなるんでしょ? 同系色で足長く見せることから始めないと」

「低身長とかって気にする必要ありますか?」


 沙希が目を見開いた。信じられないと言わんばかりの目だ。


「あのね。高身長って本当大事よ。しかも学生でしょ? 顔がいい低身長と高身長なら後者でしょうよ」

「そんなもんすかぁ?」

「あと狭山くんは言うほど顔も悪くないんだから。余計にそういう部分に気をつかわないと。鼻筋通ってるしいい顔してると思うよ」


 狭山は面食らったように口を噤み、視線を切った。


「……照れてる~!」

「てれ、照れてないっすよ!」

「やぁ、気持ち悪! 顔赤くしないでよ! あんた将来浮気するわ絶対!」

「好きかって言わないでくださいって!」


 楽しげな2人を、鹿島と近くにいた店員がほっこりとした視線で見る。

 中々にいいコンビだなと思い、鹿島も合流する。


「ストリートは似合わないので、安定のジャケットかデニムコーデとかでどうでしょう」

「デニムやだ。生地がなんかやだ」

「あんたえり好みしている場合? いいから試着しなさい。いい? 自分では微妙と思っている服でも他人から見たらいいと思う服もあるんだから」

「でもファッションで自分が納得しないと着ませんよね」


 狭山がそう言うと、沙希がグッと押し黙った。

 直後拳を振り被り、狭山の肩にグーパンを叩き込んだ


「いったぁ!?」

「まともなこと言ってんじゃねぇよ。武彦。シューズ見に行くよ。シークレットインソール大事だから」


 鹿島はケラケラと笑いながら狭山のフォローをした。

 狭山は肩を摩りながら、いずれ見返してやると思いつつ試着室へ向かった。

 楽しげな買い物は、まだ折り返し地点に来たばかりである。


お読みいただきありがとうございます!

次回もよろしくお願いします~!

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