第92話 森へ帰還
ダンジョン化した古代遺跡からはいろいろなアイテムを回収することができた。
人骨の類がないのはダンジョンだったからかもしれないけど、祭具やそのほかの道具などは普通に現存していた。
盗賊たちも最下層まではこれなかったようで、宝はそのまま残されていたので驚いた。
ちなみに、この遺跡はどうやら10階層まであったらしく、ボクたちは3階層目で教授に連れてこられたようだ。
古代遺跡をダンジョン化させていたダンジョンコアを失っても遺跡自体はそのまま残っていたし、何なら宝もそのままあったので、結果的には回収して戻るだけの美味しい探索となってしまった。
ちょっとずるいかもしれないけどボクたちは道具と資金源を手に入れられたので満足のいく探索となったのだった。
主なお宝は宝石類やコイン類、それと金属製の食器類や道具類だった。
武器防具は儀礼用と催事用、それから衛士か何かのものとみられる槍や剣などが入手できた。
特殊な効果は一部にしかなく、ほとんどは保護こそされているものの貴重な金属が使われた普通のものだということがわかった。
「出すところに出せば相応の資金になりそうですね」
いったん拠点に帰ることにしたボクたちは盗賊のアジトの前でそう話した。
「古代の品ですので保管しておくという手もあります。遺跡自体を調べたりしていないので、正確なこともわかりませんし」
ミリアムさんは長く生きているようだけど、人間たちの歴史についてはあまり詳しくなさそうだ。
でも確かに保管しておいてあとで纏めるという手はあるかもしれない。
となると、遺跡は保存が必要か?
「遺跡については私にもわかりませんわ。でも保存しておくことでこの世界の歩みを把握する手助けくらいにはなるかもしれませんわね」
今後のためにも使わずに保管しておくほうがいいのかもしれない。
新世界に保管場所を作ってそこで展示しておこうかな。
「拠点に帰ったら新世界に移動しましょう」
早速目標を決めて行動だ。
◇
地上に出ると周囲にはちょっとしたカフェのようなものが出来上がっていた。
どうやら千早さんたちは暇を持て余していたようだ。
「遥様! おかえりなさいませ!」
「遥様、よくぞご無事で」
千早さんとミレイさんがさっそくお出迎えしてくれた。
ほかの妖狐族は周囲で色々やっていたみたいで、少し遅れてこちらにやってくるのが見えた。
「主様、おかえりなさいませ」
元おじさんとは思えないくらいきれいな声で丁寧に話す新人妖狐族さんたち。
おじさんの時とどっちのほうがいいんだろうね?
「ただいま、です。これから拠点に帰ります。その後新世界へ向かい、色々やることをやって終わり次第、森の探索の続きをしますよ」
とりあえず拠点の建設状況を確認しつつ、遺物の保管場所を決めなきゃいけない。
あとはホムンクルスの話や新人妖狐族の教育の話、それから受肉した精霊の従者を増やさないといけない。
今後、街の警備などにも採用していきたいのでできるだけ人数がいたほうがいいしね。
「主様、質問があります」
妖狐族の少女になったおじさんの一人が手を挙げて話しかけてくる。
「どうぞ」
「ありがとうございます。新世界とは何なのでしょうか」
「あ、まだ教えてませんでしたね」
これはうっかりだった。
「新世界はボクとその眷属たちと妖狐族が住む、基本的な世界です。妖狐族に限らず妖種も増えていくので、徐々に妖力に満ちた世界になると思います」
「なるほど、わかりました。ありがとうございます」
納得してくれたのか、笑顔でお礼を言ってくれた。
そして他の子たちと話しながら、何やら嬉しそうにしている。
「じゃあいきますよ~」
手早く周辺を片付けると、森へと引き返していく。
途中、何やら武装した男女の集団を見かけたけど、こっちには気が付いていない様子だった。
アルテ村にもいた気がするので、おそらくハンターたちだろう。
「ハンターさん、ここにも来ているんですね」
ボクたちとは距離が離れている上に、気配を消しながらの移動している。
向こうが気が付かないのは当然かもしれないけど、彼らが何をしているのかが少し気になった。
「おそらく前の私たちを探しているのだと思います」
妖狐族の一人がそう話す。
ということは、盗賊討伐を請け負ったハンターということになるのかな?
「じゃあ死体を森の入り口に置いておきましょうか」
遺跡に関しては、入口を封印してあるのでもう見つけられることはないが、残っている盗賊の遺体を森の入り口に置いておくことで彼らは任務を果たせるだろう。
まぁ多少森の周囲を探索するかもしれないけど、あまり奥には入れないのですぐ打ち切りになると思われる。
これでボクも彼らもwin-winだろう。
「じゃあ森に入り次第、遺体の設置をお願いします」
そうして森の入り口まですばやく移動した後、空間収納から盗賊の遺体を取り出し、みんなに運んでもらった。
「瑞葉は疲れてないですか? 大丈夫ですか?」
仲間と合流してからというもの、瑞葉はずっと黙ったままだった。
「は、はい。だ、だいじょうぶ、です」
少し緊張した感じの返事が返ってきた。
どうやら人見知りのようだ。
「ん~。はい、瑞葉。ボクの手を掴んでください」
こういう時、知っている人と繋がっていたほうが安心できるだろう。
そう思ったボクは、瑞葉の前に手を差し出した。
「お、お母様。あ、ありがとう、ございます」
嬉しそうにしつつも、はにかみながらボクの手を取ってきゅっと自分の手と繋ぐ瑞葉。
なんだか可愛らしい妹分ができた感じだ。
瑞葉からしたらお母さんなんだろうけどね。




