第51話 料理上手なフェアリーノームのアキさん
そろそろやることを明確にしないといけませんね!
新たに加わった10人の妖狐族の少女たちの部屋割りを早々に終え、みんなで夕食を食べる。
今回の調理担当は【アキ】と名付けたこげ茶色の髪のフェアリーノームだ。
実はボクの家にいるフェアリーノームの中でも、【アキ】は一番料理が得意らしくお菓子作りにも精通しているのだという。
とはいえ、うちではボクも含めてみんなでローテーションしているので毎日【アキ】が作るわけではないのだけど……。
ちなみに料理が苦手なのはマルムさんとセリアさんの人狼チームだ。
得意料理はなんと焼肉と茹で肉という悪夢が蘇るような組み合わせだった。
茹でた後にしっかり味付けしてくれればまだいいものの、茹で肉と塩のみという大雑把な味付けには大変困惑したものだ。
「アキさん、料理上手ですね」
アキが作ったローストビーフを食べながらマルムさんはそう語る。
「ごめんなさい。私がしっかりしていれば茹で肉なんて作らせなかったものを~……」
セリアさんは涙ながらにそう言う。
でも、そんなセリアさんの手料理がまさか焼いた肉に塩だけをかけたものだとは誰も思うまい。
二人ともどっちもどっちだと思います。
美人さんなのにとっても残念です……。
そんな人狼二人組だが、二人にはこんな違いがある。
まずマルムさんは一人称が【あたし】できっちりしたしゃべり方をする。
粗暴に感じる時もあれば堅苦しめに感じるときがあるものの、結構まじめな女性だ。
それに対してセリアさんは一人称が【私】で少し女性的な話し方をしたり語尾を伸ばすこともある。
時々ふわふわしたように感じることもあるけど、マルムさんと同じく真面目で頼れる女性だ。
相性のいいコンビなようで、それなりに長く二人でやってきたのだとか。
ちょっと羨ましい。
「あたしはセリアの塩焼肉もどうかと思うけど……」
塩茹で肉のマルムさんでも塩焼肉には耐えられなかったようだ。
「え? そうかしら? 塩だってしっかりかけているでしょ?」
すかさずセリアさんが反論するものの、ボクにはどっちもどっちにしか思えない。
「塩かけてるっていったって、少しだけをぱらぱら~っとでしょ?」
負けじと言い返すマルムさん。
だが当然セリアさんも負けていない。
「しょうがないじゃない。塩だって高いのよ? 最低限の塩味をつけて節約していかないと……」
そう言いながらセリアさんは身に着けているポーチから塩の塊を1つ取り出す。
見た感じ岩塩のかけらのように見える。大きさは大体拳の1/3くらいだろうか。
「これ1つで5000クレムもしたんですからね」
ボクには塩の相場はわからないけど、それほど大きくない割に宿代より高いということだけはわかった。
「そういえばこの家には香辛料多い気がするわね。遥様、どこで仕入れたんですか?」
「あー。この家の香辛料関係はミレたちが揃えてるんです。ミレたちの世界で採れるものなので、ボクには値段はわかりません」
ちなみに、食材関係もミレたちが揃えている。
お肉類はボクも協力して集めているけど、野菜類はまだ収穫できていないのだ。
一応簡単な畑はこの近辺にも作っているようだけど、定住するかは決めていないので耕作範囲を広げるのも変な気がする……。
「そうなんですか? 意外と香辛料の種類はどこの世界も変わらないのかもしれませんね~」
自分の知らない話を聞けてセリアさんはとても嬉しそうだった。
「私たちの妖都も同じような香辛料はありますね。特に多いのは塩ですけど」
「妖都は国いくつかあるんですか?」
ボクは武蔵国のことは妖都伏見しか知らないので少し興味がある。
「国自体は武蔵しかありません。ですがそれぞれの地方を国主たちが治めているので、大きな国の中に小さな国がいくつもある形になります」
「へぇ~。すごいですね」
まるで日本の戦国時代のようだ。
「大きな国の主権をめぐって全国で争いになったりはしないのですか?」
マルムさんが興味深そうに話に参加してきた。
もしかするとマルムさんたちの故郷にも似たようなものがあるのかもしれない。
「国家元首は状況に応じて変わりますが奉戴する神は変わりません。例えばですが、それぞれの地方を平定した後、その連合軍と中央の国家元首軍が対決した結果、国家元首を打倒したとすると国家元首が変わります」
「それはなんというか、すごいですね」
いわゆる天下統一といった感じになるようだ。
「なかなか面白いですね。この国にも領地制度はありますけど、国家元首? のようなものはありませんから」
「全部王室で事足りてますからね~」
「ちなみに、フェアリーノームの場合は取り纏める女王と各氏族の代表で運営されているそうです」
これはミレから聞いた情報なので間違いない。
「えっ。フェアリーノームってそういう生態なんですか?」
「誰も研究できないから知らないって言われていたのに、こんなところで判明するなんて……」
「ミレさんたちは遥様にしか話しませんからね」
驚くマルムさんたちと補足する千早さん、それに肯定して頷くミレという構図が出来上がっていた。
ちなみに、ほかの妖狐族の子たちはアキたちと一緒に楽しそうに食べていたので、ボクも食べ終わってから彼女たちに合流した。
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