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episode1-8 ワイバーン…美味い……。

「おまちどおさま~!」というティーナさんの声と共に、スパイシーかつ、香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。匂いを嗅いだ瞬間、お腹がぐるるると鳴り響き、俺は今、腹が減っているんだと思い知らされる。


思えば、今日は朝からろくな食べ物を食べていなかった。朝飯は食べ損ね、昼はポーションしか飲んでいない。そりゃ腹も空く筈だと、1人納得していると、目の前には大きな肉の塊が入ったグリーンカレーのような料理と、拳二つ分くらいの大きさの木製ボールに入った色とりどりの野菜。それとライ麦パンのような茶色いパンが人数分食卓に並んだ。


異世界飯というくらいだ、とんでもないゲテモノでも出てきたらどうしようかと考えていたのも杞憂だったようだ。



全員が席に着くと、ガストさん達は皆で手を繋ぎ始めた。


「ほら、シゲも一緒に!」と言われ、食卓を囲むように皆で手を繋いだ。


今から何の儀式が始まるのだろうかと、1人ソワソワしていると、皆が目を閉じ、頭を下げていることに気づき、俺もすぐさま同じ様に動く。


静かな食卓にガストさんの声だけが響く。


「我らの偉大なる神よ、神の創造せし尊い命を頂けることに感謝を。全ての生命に感謝を。」


ガストさんの言葉が終わると同時に手が離れ、目を開けると、みんな手元の透明な水のようなものに白くきめ細やかな泡が乗ったグラスを手に持って俺の方を見ている。


急いでグラスを手に持つと「我らの偉大なる神とフロンティーネ王国に永遠に幸あれ!」と言うガストさんの掛け声と共にグラスを掲げた後、グラスに入ったものを口に含むと、やっと食事が始まるようだった。


俺もみんなの後を追うようにしてグラスに入った飲み物を口にする。


(!!!こ、これは!何て良い喉ごしなんだ!ビールサーバーで淹れたかのようなキメの細かい繊細な泡!それを追うように喉をかけめぐる爽やかな爽快感。しかし、これは絶対にビールではない…。何故ならあの、ビールの唯一の欠点ともいえる独特な苦味が一切無いのだ。苦味の代わりに、バターのような、まろやかなコクが加わり、ここに今、ビールの完全体が生まれた。)


「あ、あの。ティーナさん。この飲み物って何ですか?」


「ああ、これはね、"シューテ"といって、"ウル"という穀物から作られているお酒なのよ。」


「もしかして、ウルって主食になったりします?」


「いいえ?ウルは、シューテを作る以外にはあんまり使わないのよ…。」




それを聞いた俺は、少しだけ落胆する。

シューテを見た瞬間、日本酒のような透明度に既視感を覚えた。

案の定穀物で作られているシューテはおそらく、原材料は米に限りなく近い穀物の筈だ。

と言うことは、この異世界でも米が食べられる可能性もあるということだ。

主食はパンより米派の俺は、既に米が食べた過ぎて禁断症状が出てきそうだ。


聞いたところによると、この国の人達は、主食はこのライ麦パンに似ている"ザルート"という穀物を使用して作られた、モンロックというパンが一般的な家庭の主食らしい。


(この、モンロックという食べ物も、見た目は固そうなのに外はさくさくで中はモチモチとしていて美味しいけれど、やっぱり米には敵わないなぁ。)


米に未練を感じながらも、グリーンカレーのような料理を口に運び入れる。


(うわぁ~!この緑色のルーがとてつもなく濃厚でコクもあり美味しい。口に入れた瞬間濃厚かつ赤ワインのように芳醇で、それを損なわない少し甘めのスパイスの香りが鼻を抜ける。グリーンカレーのような見た目をしているのに、味はビーフシチューの方が近いな。)


ルーの中央に乗せられた巨大な肉の塊に、思わずゴクリと喉をならす。


異世界に来る前ですら、こんなに大きな肉の塊を食べたことが無かったため、何て贅沢な料理なのだろうと、思わず見惚れてしまった。


フォークとナイフを使い、巨大な肉を一口大にするため、ナイフの刃を入れた瞬間スッと、まるで、俺は今肉ではなく豆腐を切ったのかと思うほどノンストレスで肉が切れた。


これは、肉が豆腐位柔らかいのか、それともこのナイフの切れ味が良すぎるのか…。


一口大にした肉の断面を見ると、レアのように肉の中心部が色鮮やかな赤色をしていた。

こんなにも美味しそうな肉を食べられる幸せを噛み締めながらそっと口へと運ぶ。


(な、なんだ…この、肉は……。口に入れた瞬間無くなった…だと…?い、いや…そんな筈はない。確かに俺は今、一口大にカットした肉を確実に口に入れた。)


もう一度肉を一口大に切り口へと運ぶ。


(なるほど……。テレビのグルメ番組で、芸能人が高級肉を食べた時「うわぁ~!口の中でとろけちゃいましたぁ~!」とかわざとらしく言っていたのは、こういう事だったのか…。あの時は、正直そんなとろけるほど柔らかい肉なんてこの世にある筈がないと馬鹿にしていたのだが…。あった…。今目の前に、その、口に入れた瞬間とろける肉が…。)


見た目の肉質は牛フィレ肉のようだが、口に入れた瞬間、その圧倒的な違いに愕然とした。


どう言えば、この肉の柔らかさを説明出きるのだろうか。


しかし確実なことは、牛フィレ肉の細かい肉質よりも、更に更に細かく繊細な肉質ということだ。


口に入れた肉は、口内に溶け出すようにとろけ、その後じゅわーっと肉汁が口へと広がる。

その肉汁も油濃くなく、色んな旨味が凝縮されたスープのような深くコクのある味わいだ。


「ティーナさん、俺、この料理を食べることが出来て幸せです…。」と、感謝を伝えると、彼女は嬉しそうに微笑み「あら、私達の村の郷土料理を気に入ってもらえるのは、何だか嬉しいわね~。ワイバーンの肉は、好みが別れるから口に合ったならよかったわ。」と言った。


ん……?

今、何か聞いてはいけない言葉が聞こえた気がするのだが…。

いや、いやいやいや…。

多分これは幻聴とかの類いで、おそらく俺は知らず知らずのうちにワイバーンの毒をくらっていたため、幻聴が聞こえるに違いない……うん。


「やっぱりティーナが作るワイバーンのポルネージュが一番美味いな!!!」


(やっぱり聞き間違えじゃなかったぁ"あ"あ"あ"!!!)


「え、あ、あの…ワイバーンって毒があるんですよね…?食べても大丈夫なんですか…?」


「それなら安心して!ワイバーン専門の解体師がいるから、完璧に毒が含まれる部位を取り除いてくれるの!」と、フローラさんが説明してくれた。


もしかしたらワイバーンは、日本で言うところのフグと同等の扱いなのかもしれない。それなら安心して食べらr「まぁ、時々ワイバーン毒にあたって薬師の所に運び込まれる奴もいるけどな!ガッハッハッ!!!」


(オッサンのせいで全く安心して食べられないのだが………。)


「でも、ワイバーンの肉質ってこんなにも柔らかいんですね…。臭みも全く無いし。こんなに美味い肉食べたの初めてですよ。」


「シゲさん、このワイバーンのお肉がこんなにも柔らかくて、臭みがないのは、お母さんが、手間ひまかけて作ったからですよ!普通に焼いたり煮込んだりしただけのワイバーンなんて獣臭くて食べれたもんじゃないんだから!」


「え!?そうなんですか?じゃあ、どうやってここまで臭いを消しているんですか?」とティーナさんの方へ視線を向けると、彼女はふふっと笑い「フローラは、少し大袈裟に言いすぎよ。ワイバーンの独特な獣臭さは、ルコリーの葉と一緒に調理すれば、すぐに無くなるんだから。」


ティーナさんによると、ルコリーの葉はとても万能らしく、獣臭さのある肉と一緒に調理すると、ルコリーの葉に獣臭が吸収されるだけではなく、肉本来の旨味がぎゅっと凝縮され、肉質も柔らかくなるそうだ。


ちなみに、消臭剤のような効果もあるらしく、麻袋にルコリーの葉を詰めて、トイレや、靴の中など臭いの気になるところへ置いておくだけで臭いが消えるらしい。



次話、本日18時投稿予定です。

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