episode3-1 夢か現か
暗闇の中に、ポツリと俺だけが、何をするでも無く、ただそこに存在している。
あぁ、俺は、死んだのか…。と、何となく納得した様な、ストンと府に落ちた様な気がする。
いやしかし、死んだら天国か地獄に行けると思っていたのだが、まさか、こんな何も無い所に連れてこられるとは…。
先程から俺は、プカプカと黒い波に身を任せるように浮かんでいる。
何だかこうしていると、ここから出たくないような、何もしたく無いような。このまま暗闇に溶けてしまいたい。そう思った。
「………………。」
不意に、誰かに呼ばれている気がして、辺りを見渡すものの、有るのは暗闇だけだった。
俺の勘違いだったのかと、そっと目を閉じ波に漂っていると、
「………ぇ。………て、……さん。」
やはり気のせいでは無く、知らない誰かの声が聞こえてくる。
耳を澄ませ、声の聞こえる方へとゆっくりと足を進める。
ぼそぼそとしか聞こえていなかった声が、だんだんと鮮明に聞こえ始め、「…ねぇ、起きて。」と、繰り返し言われている。
すると、先程から暗闇しか無かった先に、一点の光が差した。
その光が徐々に広がり、あまりの眩さに目を閉じた瞬間。
無理矢理意識を引き戻される感覚に陥り、バッと勢い良く目を見開いた。
ドドドドッと、心臓が早く鼓動し辺りをを見渡すと、先程まで居た暗闇はそこに無く、真っ白い世界が広がっていた。真っ白い空間に、1つ、大人が3人程ならんで座れるサイズの、背もたれの無いソファーが置いてあり、俺は、それに腰かけていた。
「何なんだ……さっきから…。」
意味の分からない状況に、思わず辺りをキョロキョロと窺っていると「おはよー!おじさん!」と、急に声をかけられ、思わず肩が跳び跳ねるくらい驚いた。
声が聞こえた方へと視線を向けると、俺の右隣に小さな女の子が一人座っていた。
肩まで伸びた黒く艶のある髪、そして白いワンピースを着た可愛らしい女の子だ。まだまだ身長が低いゆえに、ソファーから降ろした足をぶらぶらさせている。
「えっ……、あ、…の…、えっと………君は……誰?」恐る恐る、隣にいる女の子に名前を聞くと、にっこりと満面の笑みを浮かべ「えっと!なまえ!ちゃんといえるよっ!あっ!……でも、お母さんが、しらない人に、なまえを教えちゃダメだって…。」と、少しショボくれ肩を落としている。
「ははっ…、そっか、なら仕方ないね。お母さんの言う事、ちゃんと守れて偉いね。」と言い、ぽんぽんと頭を撫でると、心底嬉しそうに笑み「うんっ!えらいね~!って、たくさんいわれるよ。すごいでしょ?」と、ドヤ顔をしながら言った。
「それで……、君は、どうしてこんな所にいるの?お母さんは?」と、問いかけると、難しそうな顔をし、「う~ん……、わかんない!!」と、元気よく返された。
「うーん…分かんないかー……ははっ、どうしようね。」
「ね~っ!」
ここが何処なのか、この子が誰なのかも分からず、言い様の無い不安はあるけれど、誰かと一緒にいるだけで少しだけ安心することが出来た。
「ねぇねぇ。」と、ぎゅっと服を引っ張られたと思ったら、唐突に「そういえば、おじさんは、いつまで寝ているの?」と聞かれ、その言葉に違和感を抱く。
「え……?俺は、見ての通り起きてるよ…?ほら、さっきから君と会話してたじゃないか……。」可笑しな事を言う子供を怪訝に思い視線を向けると、真剣な眼差しに射止められ、思わず息を飲む。
「ううん。起きてないよ。おじさん。ずっとねむってる。」
「そ、それじゃあ、今こうして話している俺は、何なんだよ…。…っ。」
ジリジリと、頭が締め付けられるように痛み始める。
「はやくおきなきゃ…。」
「………起きる?」
「みんなまってるよ……。」
「う"っ…。」
突然激しい睡魔に襲われ、意識が朦朧としてくる。倒れそうになるのを必死に堪え、頭を抱える。
ドンッと、何かに押されるような衝撃が身体に響いた瞬間、俺はソファーから落ち、先程まであった床が無くなると、真っ逆さまに白い空間の中に吸い込まれるように落ちていった。
落ちていく最中チラリと見えた少女が「また、会えるといいね………。」と言い、ふふっと微笑んだ、最後に何か言った様な気がしたけれど、俺の元には届かなかった。
落ちていく最中、身体はピクリとも動かず、頭も働かなくなってきた。
「おきなきゃ………か。」先程少女に言われた言葉をポツリと口にすると、段々とそれが現実味を帯び、早く起きなければいけないと、そんな気がしてきた。
起きなければいけないのに睡魔には勝てず、いつの間にか意識を手放していた。
次話、本日18時投稿予定です。




