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13.葛藤


「はぁ……はぁ」


 今の私は。


「……次、お願いします」


 父上のように、左雲家の人間として立派に務めを果たせているのだろうか。


* * *


-エレマ隊本部基地内 訓練場-


「-フェーズ4、終了。これより、フェーズ5へと移ります―」


 一辺五十メートルの立方体で構成された場内に響き渡るアナウンス音。

 地面中央には訓練用のエレマ体を装着した彩楓の姿があった。


「-フェーズ5、開始まで……5、4、3、2、1」

「……すぅー」


 カウントに合わせ、呼吸を取る。


「-フェーズ5,開始」

「っ!」


 合図とともに四方から大量の人型ロボットが現れると、それらは一斉に彩楓へと襲い掛かる。


「はぁぁ!」


 彩楓は両手を構え魔法を放ち始め、自身に向かってくるロボットの頭部、胸部へと、正確に急所を撃ち抜いていき、次々と残骸の山を築いていく。


「これで……最後」


 残り一体となった標的。

 彩楓の初撃を躱したロボットは死角に回るが。


「――全ターゲットの破壊を確認。フェーズ5終了。これにて全ての訓練プログラムを終了いたします。お疲れさまでした―」


 即座に反応した彩楓は難なくと、最後の一体の頭部目掛けて魔法を放ち、破壊。

 人体ロボットはそのまま木端微塵となり、空中で姿を消していった。



「……ふぅ」


 訓練を終えた彩楓。

 足早に訓練室を去り、サブのエレマ体を脱着すると、コアの形へと戻ったエレマ体を施設の係員へと渡しに向かう。


「左雲様、お疲れ様でした」

「いえ、こちらこそ」


 コアを受け取った係員からの挨拶に彩楓は礼儀良く返事をし、自室へ戻ろうと歩き始めた。


 その時。


「彩楓」

「っ!」


 突然、低く芯のある声が彩楓を呼ぶ。

 彩楓はその声の主が誰のものかすぐに気づき、後ろを振り返ると。


「父上……」


 そこには自身の父である蒔絃が静かに立っていた。

 蒔絃は彩楓が自身の気配に気づいたのを確認すると、ゆっくりと近づき始める。


「…………」


 一瞬、彩楓は蒔絃から目を逸らしそうになったが、すぐに表情を引き締め直し、近付いてくる父親の顔をしかと見る。


 そして。


「「…………」」


 手を伸ばせば簡単に届くほどまで両者の距離が縮まった辺り。


「彩楓」


 立ち止まった蒔絃は。


「次は、頼むぞ」

「っ!」


 たった一言だけを告げ、それ以上は何も言わずに後ろを振り返り、来た道を戻っていった。


「……承知いたしました」


 彩楓はそんな父の背中を見つめては頭を下げると、誰にも見られないよう、気付かれないよう。

 ひっそりと、両袖を強く握った。


* * *



 ――私は、貴方のような不実な人は嫌いです



 同じく、エレマ隊本部基地内訓練場にて。


「天下様っ! これ以上の訓練は規定違反になります! 本日はもう御止めになされてくださいっ!」


 慌てて訓練場の中へと入り、大声を上げて制止を試みる係員。

 係員が駆け付けた先には、地面に片膝をつき、肩で息をする烈志が。


「まだ……まだだ。こんなんじゃ」


 彩楓が使用していた所とは別の部屋で訓練を行っていた烈志。

 係員の警告に構わず立ち上がると、目の前の標的に剣を構える。


「天下様っ! 本当にこれ以上は御身体に支障をきたします!」


 係員は烈志の右腕にしがみ付いてまで止めようとする。


 隊の規定では、一日の訓練時間は最大でも四時間。

 だが、係員が部屋に入ってきた時、烈志が行っていた訓練時間は。


「うるせぇっ! こんなんじゃ、いつまでたっても強くなんかなれねぇ!」


 十時間。

 既に規定の倍以上もの時間を休憩なしでぶっ通し続けていた烈志の整った顔は、誰が見ても分かるほど疲弊の様子が色濃く出ていた。


「あいつに……あいつに勝てるようになるまではっ……!」


 自身の腕にしがみ付く係員を無理やり振り解く烈志。

 部屋中に警告音が鳴り響く中、再び剣を構え、自身を待つ標的に向かって駆けだしていく。


* * *


-レグノ王国王都 王国軍訓練場-


Flame(フレイム) Lance(ランス)!」


 五十平方メートル以上の広い荒野に降り注がれる火炎の槍。

 幾つも打ち立てられた的は燃え盛り、あっという間に燃え殻となっては消え去っていく。


「ソラさん凄いですっ! もう中級魔法まで使えるようになるなんて!」


 全身に汗をかきながら、的に両手を翳す空宙に、一人の魔法士が賞賛の声を上げながら嬉々として近寄る。


「い、いえ。皆さんの教え方がとても分かりやすいからですよ」


 謙遜しながらも自身の成長を実感する空宙。

 目の前に広がる焼け跡を見ながら、自身が放った魔法の発動手順をすぐに頭の中で振り返る。


 レグノ王国軍に保護され居住を王都へと移した空宙はその後、毎日こうして朝から訓練場へと足を運び、レグノ王国軍の兵士達から魔法の教示を受けていた。

 シュクルを倒したとはいえ、白金のエレマ体から少年の姿へと戻ってしまい、再び魔族への対抗手段が取れない状況となったことを考えた結果、空宙はオーロを介して王国軍に相談し、魔法の習得を試みることで少しでも自分に出来ることを増やそうと勤しむことにしたのだ。


「(白金のエレマ体を発現した影響なのか、前よりも確実に、強い魔法を撃てるようになってきてる……!) よしっ、もう一度!」


 先ほどの魔法発動から間を空け呼吸を整えた空宙は、魔法によって既に元通りとなった的に向かって次の魔法を放とうと構え直す。


 すると。


「精が出ますね、ソラ殿」

「っ!」


 背後から、些か張った声が空宙を呼ぶ。


「ユスティさんっ!」


 すぐに後ろを振り返った空宙は、両腕を後ろに組み真っ直ぐに立つユスティを見ては、急いで駆け付ける。


「ゆ、ユスティ様っ!?」


 空宙に指導を施していた魔法士も慌ててユスティの下へと駆け付けるが。


「すみません、人払いをお願いできますか?」

「っ! か、畏まりました!」


 すぐにユスティは魔法士に向け、周りに自身と空宙以外の人が近づかないように指示を出す。


「ユスティさん、こんな所まで急にどうしたんですか?」

「いえ、公務で近くを通っていたもので、少し様子を見ようと思いまして」


 駆け付けた空宙に笑顔で話しかけるユスティ。

 だが、その表情はすぐに真剣なものへと変わり。


「ソラ殿。昨晩は井後殿とお話はされましたか?」

「っ!」


 緊張を強いられる空宙。

 空宙は周りを見渡し様子を確認すると、再び視線をユスティへと戻す。


「……はい。その、ユスティさんは……全て事情を?」

「えぇ。魔族侵攻に勝利した後、井後殿から全てお話を伺いました」


 毅然とした表情をしたユスティの顔。

 だが、その顔には僅かな影が差す。


「そう、ですか……。あの、俺の世界にいる偉い人達が、その「気にしないでください」っ!」


 ユスティの反応に、空宙は昨晩井後から伝えられた事実について謝ろうとするが、ユスティがそれを止める。


「私も井後殿の話を聞いたときは、色々なことを考えました。憤る気持ちも、哀しい気持ちも……。様々な感情が私の中で渦巻き、溢れました」

「…………」

「ですが」


 空宙は右肩に優しく手を置くユスティは。


「私は思ったのです。レグノ王国軍とエレマ体が協力し、そして、貴方のお陰で魔族を退け……今こうして生きて、再び己の使命を果たそうと努めることが出来ている。まずはこの事実に目を向けようと」


 空宙を安心させるよう、朗らかな表情を向ける。


「井後殿は今、貴方にこれ以上の危険が及ばないよう、必死になって火の粉を振り払っています。貴方を大事にすることが、我々レグノ王国、そしてこの世界の人類を魔族の手から救うことに繋がる。そして、その貴方を大事にしようと勤められる井後殿だけを、まずは信じようと」

「ユスティさん……」


 空宙は、己の肩に置かれた手をそっと掴む。


「ソラ殿。説明が及ばない点が多く申し訳ありませんが、この世界にいるうちは、私を信じて、頼ってください。貴方の身体を究明することこそが、魔族に打ち勝つ鍵になりますから」

「……ありがとうございます」


 時は夕刻。

 水平線に沈む夕日が映し出す二つの影が刻々と、細長く伸びていく。


「おっと、もうこんな時間ですか。私はそろそろ王城へと戻らねば。ではソラ殿、また明日」

「はい。ありがとうございました」


 ユスティは右手を自身の胸に充て軽くお辞儀をすると、王城へ向かって歩いていく。


「…………よし」


 そして、空宙も的が立つ方へと振り返ると、今自分が出来ることを見つめ直しながら、再び魔法を撃ち込んでいくのだった。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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