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6.確執


「シェーメ・オーロ殿。カケマ・ソラ殿。御勤めご苦労様です」


 連絡協議を終え、オーロと空宙の二人が門番に見送られながら王城を後にする。


 時は既に夕刻となり、朱を含んだ紫陽花色の夕空が王都の上に広がっていた。


「ソラさん、今日はお疲れ様でした」


 宿舎への帰路を進む中、オーロは空宙に向かって微笑みながら声を掛ける。


「いえいえ、オーロさんもお疲れ様でした。にしても……」

「あはは……。大変でしたね……」


 二人はお互いに顔を見合わせながら苦笑いをする。


 遡ること、数時間前。


* * *


「あたしは絶対に嫌だからなっ!!」


 会議場内で一人騒ぎ立てるはルーナ。

 井後が発言した内容に対し激しく抵抗する。


「ルーナ……そこまで邪険にせんでも」

「嫌なものは嫌だっ! ぜっっっっっったいに! あいつと組んで任務なんて行かねぇからな!!」


 レム王が宥めるも、ルーナの怒りは収まらず。

 目の前のテーブルに両足を置き、胸の前で両腕を組んでは踏ん反り返る。


「ケセフ殿。レム王を困らせないでください。我々王国軍はただでさえ怪我人も多く人手が不足している中、こうして井後殿が善意で手を差し伸べて協力してくださっているのです。多少ご不満はあれど、そのような態度は」

「うるせぇっ!! 誰がなんと言おうがあたしは今日からの三日間、見回り任務なんて死んでも行かないからなっ!」

「…………はぁ」


* * *


「ルーナさん、本当に岩上さんのことがお嫌いなんですね……」


 会議場での出来事を思い返すオーロ。


「護本人は決して悪い奴なんかじゃないんですけどね……。ただ、普段から気性が荒い人なのでどうしても他人とよくぶつかってしまうんです……」


 空宙も会議場での事を思い出しながら、オーロに向けて申し訳なさそうに話す。


「それは、まぁ……ルーナさんも少し似たような所はあるので……」

「えっと……まぁ、その……」


 沈黙。


「そっそれにしても、アリーさん。あの状況からよくルーナさんを説得できましたね」


 咄嗟の気まずい場面を繕う為、空宙は話題を護からアリーへと変える。

 会議中に酷く暴れていたルーナだったが、その後アリーの粘り強い説得によって、最終的には今夜からの見回り任務を渋々受け入れていた。


「そうですね……。私も話には聞いていたのですが、ルーナさん。実は過去に故郷を魔族に滅ぼされたんです……。当時幼かった彼女は、魔族の手から逃れようと一人火の海の中を走り回っていた所、救助に駆け付けた魔法士部隊の方々に保護されて……」


 話をするオーロの顔に憂愁の影が差す。


「その時の魔法士部隊部隊長がツェデック・アリーさんだったんです。彼女にとってアリーさんは命の恩人でもあり、第二の親でもあるのです。なので、アリーさんの言う事だけはどんなに機嫌が悪い時でも聞き入れるんです」

「そう……だったんですね」


 ルーナの中に想像以上の哀しい過去があったことを知り、空宙言葉を失う。


「おい、オーロ」


 その時。


「え? ひゃっ! ルーナさん!?」


 噂をすればなんとやら。

 二人の後ろから声を掛けてきたのは酷く不機嫌な顔をしたルーナだった。


「お前……勝手にペラペラとあたしの話してんじゃねぇよ」


 シルバー色の瞳が黄金の瞳を睨みつける。


「ご、ごめんなさい……」


 オーロは視線を地面へと下ろし、肩を(すぼ)める。


「……はぁ。まぁいい。それよりも……おい、ソラ、だったか? お前宛だとよ」

「……えっ? 俺?」


 深いため息を吐いたルーナが懐から一枚の封筒を取り出す。

 不意を突かれ反応が遅れた空宙は、慌ててルーナの手元から封筒を受け取る。


「ユスティの奴からだ。部屋に戻ってから開けろ、だとさ」

「あ、ありがとうございます……」


 心当たりが全くない空宙は、ルーナに礼を言うも封筒の中身をしきりに気にする。


「あともう一つ。これはザフィロの親父からの伝言だ。”今晩、娘の所へ行ってこい”、だと」

「ザフィロさんの……?」


 更に立て続く伝言に、空宙は顔をしかめ首を傾げる。


「あぁ。なんでもお前の身体を定期的に検査するのが目的らしい。詳しいことは知らねぇが……今はこっちの軍がお前を管理している以上、どうしても必要なことだとよ」


 ルーナは面倒くさそうな態度を取りながらも、空宙に説明を施す。


「は、はぁ……」

「そんなわけだ。じゃ、あたしはもう行くぜ」


 そして、ルーナは二人を追い越しその場を去ろうとした。


「あ、そうだ」


 その時。


「最後に、あたしから」


 振り返り空宙を見たルーナは。


「次、岩上ってやつに会ったら伝えとけ。”あたしと顔合わせた瞬間、絶対に殺してやる”ってな」


 憎悪に満ちた表情をしながら、ドスが利いた声で護への殺害予告を投げた。


「……じゃあな」

「「…………」」


 そして再び前へと歩き出したルーナは、籠手を着けた右手を振りながら、足早にその場を去っていった。


「……ソラさん」

「……なんでしょうか」

「……頑張ってください」

「……そんな無茶な」



 護とルーナの問題。


 アリーの説得により、何とか解決したと思っていた二人。

 だが、今目の当たりにした、ルーナの中での護に対する強い確執に頭を抱え、起こりうる多難を予見するのだった。


ここまで読んでくださりありがとうございます

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