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15.姉弟


「……姉さん、入るよ?」


 それは、とある世界。


「……あらっ」


 とある国に住む。


「おはよう」


 ある、姉弟の。


「瀧」


 ものがたり。





 今より少し前。


「おはよう、姉さん」


 小さな一軒家に、二人の姉弟がおりました。


「今日は朝から瀧が来てくれるなんて」


「本当は毎日でも行きたいんだけど、なかなかね……」


 弟は姉をよく気に掛け。


「いいのいいの。瀧の顔が見れるだけでも、お姉ちゃん嬉しい」


 姉もまた、弟を慕っており。


「ねぇ、聞いてよ姉さんっ。俺、この前またコンクールで優勝したんだっ」


「えぇ。お姉ちゃんも、お母さんから聞いていたわ。ますます瀧が有名になっていって。本当に、自慢の弟よ」


「へへっ。ねぇっ、姉さん。久々にまた、姉さんに新しく練習した曲を聴かせたいんだけど、今日は……部屋から出られそう?」


「あらっ、ほんと? 嬉しい。そうね、今日はいつもより身体の調子も良いから……あとでお母さんにお願いして、瀧のピアノを聴かせてもらうね」


「いいのっ!? やったっ! それじゃ、今から準備してくるね!」


 かれこれ喧嘩もしたことなく。


「…………ふふっ。立派になっても、相変わらずね」


 それはそれは、とても仲の良い姉弟でした。


* * *


「……じゃあ、始めるよ。姉さん」


「えぇ、いつでも」


 弟のほうには昔から、ピアノの才がありました。


「……すぅー。ふっ」


 初めは家にあった小さなピアノを見て、興味本位で始めた程度でしたが、その才能を見出されて以降は、みるみるうちに上達し、あっという間に国内のコンクールで数々の賞を受賞するまでに成長しました。


「(あぁ…………)」

 

 弟が弾くその演奏。


 奏でられる音は美しく、そして、柔らかで暖かく。

 家から漏れる音は、外を歩く人、犬、小鳥たちでさえも虜にし。


「(本当に、貴方の演奏はいつ聴いても……)」


 癒し、聴く人の心全てを穏やかにさせました。




「……ふぅ。姉さん、どうだった?」


「えぇ。とっても素敵だったよ」


「ほんとっ!」


「えぇ、本当に。また、上手になったね」


「ねぇねぇっ! 次はねっ! この曲をねっ!」


「ふふっ。はいはい、そう慌てないで」


 弟はいつも姉の為にと演奏し、それを聴く姉も、弟の演奏に心から感動しては、満面の笑みを咲かせ、とても喜んでいました。


「あらあら瀧ったら。また(れん)の周りではしゃいじゃって」


 そんな様子を遠くから見つめる母親も、二人の仲が微笑ましく映り。


「大きくなっても相変わらずだな、瀧は」


 半ば呆れながら、けど嬉しそうに。母親の傍で一緒に見つめる父親も、姉弟の楽しそうな光景に目を細ばせて。


 本当に、幸せそうな家族でした。


「さっ、二人とも。そろそろ朝ごはんの時間に」


 ですが。


「……ゴホッ! カハッ!」


「っ!? 姉さんっ!」


 姉のほうは。


「大丈夫かっ!?」


「いけないっ! また発作がっ……すぐに部屋に戻って看病をっ!」


「姉さんっ!? 姉さんっ!!」


 寝たきりの生活を強いられるほど。


「だい、じょう……ぶ、カハッ! ゴホッ!」


 生まれた時からとても病弱な体質だったのです。


* * *


「姉さん……」


 その夜。


 姉の病状を心配する弟は、ベッドで横になる姉の手を握っては一人、傍に寄り添いずっと看病を続けていました。


「ごめん、姉さん……」


 薄暗い部屋の中、灯り一つにぼんやりと照らされる姉の寝顔。


「俺が姉さんの身体のことを考えずに……」


 姉の容態は落ち着き、いまはベッドの上で静かに寝息を立てているとはいえ、弟は姉を振り回してしまったことを後悔し、項垂れ気に病んでいると。


「…………瀧?」


「っ! 姉さ、ん……」


 弟の声に気付いた姉が、ゆっくりと目を開けました。


「……どうしたの? そんな悲しそうな顔をして」


 目を覚ました姉は、目の前にいる弟が暗い顔をしていたことが気になり、思わず尋ねます。


「俺……姉さんのこと考えずに、無理させて……」


「あら。そんなことを……」


 弟からの返事を聞いた姉は、小さく微笑むと弟に握られた手を解き。


「……姉さん?」


 心配そうな顔を向ける弟の頬に、その手を当て。


「ほんとうに、貴方は優しい弟ね……」


 優しく撫でては大丈夫だよと、弟の心を労わります。


「……ねぇ、瀧」



 暫くして。



「ねぇ、瀧」


「……? どうしたの、姉さん」


 突然、姉は弟の名を呼びます。


「あのね、姉さんね」


 すると、姉は。


「一つ、大きな夢があるの」


 弟に向かい。


「…………夢?」


「そう、お姉ちゃんの、夢」


 夢を、語り始めます。


「それはね……」



 姉が弟に語った夢。

 それは、とても煌びやかで、ロマンチックな夢でした。


 頬を少し赤らめながらも、姉は目を輝かせ、楽しそうに話し、それを弟は静かに聴いていました。


 そして。


「姉さん」


 姉が夢を語り終わった後。


「俺、絶対その夢叶えるから」


 弟は、再び姉の手を握ると。


「ふふっ、ほんと?」


「うん、絶対に」


 真っすぐ目を見て約束するのです。


「それじゃ、お姉ちゃんも頑張らないとね」


 そんな真剣な弟の顔を見て喜ぶ姉は、そっと弟を抱き寄せ。


「ありがとう、瀧」


 精一杯の感謝を伝えるのでした。


ここまで読んでくださりありがとうございます

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