最終話 “事実も小説も奇なり”
──あれから三年後。
「ただいまーー」
私は三泊四日の修学旅行の引率から帰ってきた。
「あれっ……久しぶりの帰宅なのに、お出迎えなし?」
玄関を開けるも、彼の姿はない。
靴を脱いで家に入り、彼を探す。すると、部屋の奥底に一人しゃがみ込み、一生懸命何かを読んでいるところを発見する。
「──なんだ、いるんじゃない。お土産買ってきたよ!」
「うわぁっっ!! びっくりさせないでよ!!」
背後から声をかけたせいか、彼はとても驚いている。臆病なところは……相変わらずだ。
「びっくりって……前もって帰ること連絡しといたでしょ──“恵太”」
恵太……彼は一年前に出会い、最近交際を始めた、私の彼氏だ。
「これ、すごい面白いね!」
恵太はずっと読んでいたと思われる本を両手に掲げ、私に見せた。
「あっ……その本、読んだの?」
「あぁ、引っ越しの準備してたらさ、すごい分厚い本見つけてね。何だろうと読み始めたら、ハマっちゃってさ」
恵太が手にする本は、通常サイズの何倍もの大きさがある本だ。国語辞典くらいの厚さはある。
「これさ、美幸の名前とか出てくるけど……どういうこと? 名字まで同じだし。もしかして、実際にあったこと? 美幸が書いたの?」
「うーん……内緒」
「何それ! 怪しいな」
──三年前、私達は奇跡を起こした。
その奇跡は、今でも私の大切な思い出になっている。
あなたは、“あのとき”「もう小説の続きは書くな」と言った。
だから、私はその言いつけを守った。あなたに会いたい想いをじっと我慢して。
だけど、せっかくの私達の思い出……一緒に作り上げた小説だもの。
せめて形に残そうと、私は原稿を一冊の本にまとめた。
それくらいなら、いいよね? 私は約束を破ってはないし。
そしたらね……どうなったと思う?
また奇跡が起きたの! あの奇跡には、ちゃんと続きがあったんだよ!
本当にすごいね、あなた。いえ、あなた達は!
いつかの時のように、またひとりでに動き出したんだよ! 物語が!!
自ら「お別れだ」なんて言ってたけど……あなたは消えはしなかった。
だって……“キャラクターは生きている”──だもんね。
「なぁ、美幸。この作品のことなんだけど、えっと、タイトルは……何だっけかな」
恵太は本のタイトルを見るために、一度本を閉じて、表紙を確認した。
「──そうそう! 『事実も小説も奇なり』だ!」
“事実は小説よりも奇なり”と言う言葉があるけど……私達が体験した出来事は、現実でも小説の世界でも、不思議なことだらけだった。
だから、私はそうタイトルを、この本に付けた。でも、私達の場合の“奇”の意味は──奇跡の“奇”……なんだけどね!
「それでさ、この本、途中で終わってるんだけど、続きはどうなるんだ? この続き知ってるなら教えてくれよ」
「さぁ、私にもそれは分からない」
「えっ? やっぱり美幸が作者じゃないのか? それにしてもさ……」
恵太は、本のページを勢いよく捲り始める。
「なんで、後半は全部“白紙”なんだ? これ、本の半分は白紙だよ? 終わりなら終わりで、そこで本をまとめればいいのに」
「だって、紙がなくなったら、そこで物語が終わっちゃうじゃない」
「えっ……どういうこと?」
「ううん、こっちの話。それで、読んだ感想はどうだった?」
「うーん……途中、一回すごく面白くなったんだよね! 外の世界から、美幸が入ってくるところ! あの場面なんて、まるで本当にあったんじゃないかってくらいリアルでさ!」
「うんうん、それでそれで」
「そのあとは……何ていうか、普通の話なんだよ。何の事件も起きない。作田と相澤の、幸せな物語って感じなんだ」
「へぇー。面白そうじゃない」
「そうかな? 俺はあのリアルな部分がまた読みたいんだよな……婚約とか、結婚とか、別に恋愛部分はどうでもいいんだ」
「──け、結婚!!?? そう書いてあったの?」
「あったけど……なんで美幸が、そんなに嬉しそうにしてるんだ?」
「ううん、何でもない。最近、私その本読めてなかったから、先の展開を知らなくて!」
「あぁ、ごめん。もしかしてネタバレさせちゃった? ごめんね、楽しみにしてたら」
「ううん、大丈夫! 嬉しいネタバレだから!」
「えっ? どういうこと? やっぱ変なの……」
よかった。順調そうだね、二人とも。
私の方も……順調です。
けど、先越されちゃったな。
結婚か……私も負けないよ!
作田明と相澤美幸みたいに、理想のカップルに近づけるよう、私も頑張らなきゃ!
いつか来る、ハッピーエンドを目指して。
※これにて、完結となります。
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最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。




