第27話 “邪魔”
犯人が分かった気がする。いたんだ、この世界に。
厳密には、外の世界にいるのだが、きっと犯人は、外とも中とも繋がっている。
まずは犯人を誘きだそう。二人きりになる必要がある。
でも、また都合が悪くなったら時間を戻して逃げるかもしれないな……
いいさ。そしたら俺は、何度でも何度でも行ってやる。おまえが『犯人は自分』だと認めるまで! そこからは根比べだ!
・・・
俺は犯人を捕まえるために、作戦を立てた。
この世界のストーリーの軸は、俺と相澤さんだ。
申し訳ないが、ここは相澤さんにも協力してもらおう。もちろん、そのことを相澤さんに教えることはできないが。
相澤さんには、純粋に俺とデートをしてもらえばいい。
必ず犯人は俺達を監視しているのだから。デートの最中で、いずれ尻尾を出すはずだ。
──次の日曜日。
俺は相澤さんにデートの約束をつけていた。その日が、今日の日曜日だ。
やはりあれからも、俺が事前にストーリーを見ることはない。
常に受け身だった俺が、初めて仕掛けたのである。
「お待たせ! 作田さん!」
「こんにちは。相澤さん」
相澤さんとは駅で待ち合わせだ。
今回は待ち合わせ場所も、デートの場所も、俺がすべて指定している。
「待った?」
「いえ、全然。相澤さんのためならいくらでも待ちますよ」
「何それ! 行きましょ」
相澤さんは白い歯を溢している。
どうやら相澤さんは、今日のデートを楽しみにしてくれていたらしい。
「作田さん、全然連絡くれなくなっちゃったから、どうしたかと思ってた!」
「すみません、最近忙しかったもので」
「それにしても、恥ずかしいな……私の家に来るだなんて」
今日のデート先は、相澤さんの家だ。
野外でのデートになれば、周りに人がいるため、犯人も隠れやすくなる。特にデートスポットなどは、もってのほかだろう。人混みに紛れてしまう。
そのために家デートを選択した。断じて、俺が行きたいからという理由ではない。
恐らく犯人は、相澤さんの家であろうと、どこでも関係なく、常に俺達を見張っているはずなのだ。
「──着きました。ここが私の家です」
相澤さんの家は駅から徒歩五分の、比較的建築年数が若いアパートだった。
女性とだけあってか、決して俺の家のようなボロアパートではない。とても見栄えがいい。
「素敵なお家ですね。俺の家とは大違いだ」
「そうですかね? たいして変わりませんよ」
今日の目的は犯人を捕まえるためと言いつつも、形式としてはデートだ。
何があるか分からない……俺もしっかりと準備だけはしてきたつもりだ。
きっちり髭を剃り、新品のリップクリームも買って……
いや、いや! 違うぞ! そうじゃない。
今日の目的は別だからな! 今俺に必要な準備は……犯人逮捕に備える、心の準備だけで十分だ!
「お、お邪魔します」
「どうぞ」
さすがに、ここは自分の家ではないため、靴を脱いで後ろ向きに揃え、いざ中へと入る。
「結構、広いですね」
俺は玄関で一度、家の中をざっと見渡した。
部屋は全部で二部屋ある。間取りは1LDKといったところか。一人で暮らすには十分すぎる……いや、広すぎるくらいだ。
「散らかってますけど。こちらへ。ここが私の部屋です」
そのうちの一部屋に案内された。
俺の家とは違い、しっかりとドアもある。それが普通か。
「男の人に、部屋見られるの……なんだか恥ずかしいですね」
「どこが散らかってるんですか。すごくオシャレですよ」
イメージ通りの、ザ・女の子って感じの部屋だった。
テーブルや収納棚、ソファーの上に置かれたクッションなど、色々なところでピンク色の物が使われている。
小さな加湿器や、観葉植物も置かれており、ちょっとした癒し空間を味わえそうだ。
「あまりジロジロ見ないでくれます? 恥ずかしいので……」
「いや、相澤さんの部屋がどんなのか、気になっちゃって」
だめと言われても、気になるものは気になってしまう。
嫌がらせをするつもりはないが、俺は部屋の観察をやめようとはしなかった。
やはり俺が人の家に行くと、一番気になるのは本棚だ。
どんな本が好きなのかチェックすると、何となくその人の人柄が分かる気がするのだ。
小説は……ほとんどなさそうだな。あるのは少女漫画ばかりだ。
外のカバーからでも、少女漫画は他の漫画と色が違っていることが多いので、見た目からでも分かりやすい。
漫画好きの人のが多いからな。これが一般的な二十代の本棚……って感じだろう。
一通り、部屋の確認は終わった。
他にあるものと言えば、テレビだったりパソコンだったり、大きな鏡だったり……本当に、ごく普通のどの家庭にあるものばかりだ。
「あの……作田さん、立ってないでこちらに座ってください」
相澤さんはソファーへ俺を案内する。
三人掛けくらいだろうか。大人二人なら、余裕で座れそうだ。
「はい、ありがとうございます」
俺は相澤さんに言われた通り、ソファーに腰をかけた。
「私、コーヒー淹れて来ますね。作田さん、砂糖いります?」
「いえ、いりません」
「ブラックですか。分かりました」
相澤さんは俺に背を向け、キッチンの方へと向かおうとした。
俺は相澤さんを引き止める。
「いえ……コーヒー自体、いりません」
「えっ?」
予想外の返答だったのか、相澤さんは振り返り、俺の方を見た。
俺と相澤さんの目が合う。俺は相澤さんの目を、ずっと見つめた。
いや……“睨んだ”と表現した方が、正しいか。
「あの……作田さん?」
「今日は、そんな話をしに来たわけでないですから。二人きりなら、誰にも邪魔をされずに話せそうですからね……ねぇ、相澤さん」
※ここで、「偽りの世界で」の章が終わります。
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