表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
事実も小説も奇なり  作者: Guru
偽りの世界で
19/38

第19話 “自然”

 目指すなら何事も一番を目指すべき。俺はそう思う。

 一番よくないのは、中途半端になることだ。

 だから、もし失敗したとしても、全力で一生懸命やればいい。


 例えそれが……一番()であったとしても。



「あぁ~あ。つまらなかった」


 映画館を出たときに、初めて出た俺の言葉がこれである。


「よかった……」


 隣を歩く相澤さんから、まさかの言葉が飛び出ている。思わず俺は聞き返した。


「えっ!? よかったです? 面白かったです?」


「いえ、そっちの意味じゃなくて。私もつまらなかったので、作田さんも同じ気持ちでよかった……と」


 なるほど。そっちの意味か。

 あの内容で絶賛されたら、いくら相澤さんでも幻滅するくらいだ。

 普通の感性を持っているみたいで、一安心。


 俺の映画に対する愚痴は止まらなかった。


「特に、あのラストはないよなぁ……主人公が死んで終わりなんて」


「えぇ、キャッチコピーの“死ぬのは簡単だ”って、もっとカッコいい意味かと思ってて」


 確かにそうかも。『死ぬのは簡単だ。だから死ぬなんて言うな! 諦めるな!』みたいに、熱血的な言葉が後ろに続けば、また違って聞こえるけども……本当に死んでどうする。


「俺、バットエンドって嫌いなんですよね。やっぱ最後は幸せに終わらないと!」


「私もです! 後味が悪いですよね」


 もしかして、クソ映画にも“映画パワー”とやらは存在するのか?

 映画のダメなところを語り合う……これはこれで盛り上がるのかもしれない!


「相澤さん、ご飯でも食べに行きません? もっと映画談義したいです」


「ポップコーン食べただけですしね。お腹空きました。ぜひ、行きましょう」


 よっしゃ! 今のところいいぞ、ダイソフト。内容はクソだったけど、いい働きしてる!



 映画館の周りには、あまりお店が存在せず、移動する必要があった。

 駅前には飲食店が並んでいたため、まずはそこまで戻ろうか。

 

 それよりも、問題はどの店を選ぶかだ。

 初めて行く店だと、どんな店か分からない。危険度が高すぎる。

 俺的には、もう選択ミスは絶対したくないのだ。

 そのため、何度か利用したことのある、比較的安めの居酒屋を選んだ。個室が多くあることは知ってたし、ここなら合格だろう。


 相澤さんは俺の提案に全く否定せず、二つ返事をしてくれた。

 以前、高級焼肉店で食事したからな……実は金銭感覚がズレているのではないかとも考えたが、そんな心配もなさそうだ。



・・・



 居酒屋に入り、俺らは酒とつまみを適当に頼む。

 通常のデートなら、映画を観て、ご飯を食べて終了だろう。

 だが、俺のストーリーにはその続きがあるのだ。


 未だに信じられないストーリーだな……本当に俺の家に来るのか?

 うわっ、そう考えると緊張してきた………


 相澤さんと二人でいることも、だいぶ慣れた。我ながら凄まじい成長だと思う。

 ただ、自宅に女性を呼ぶとなると、話は別だ。俺のキャパシティを遥かに越えている。まだまだ経験値が足りない……

 これがRPGゲームなら、最初にたどり着く村のあとにラスボスに挑むようなもんだ。


 とにかく俺は自分を誤魔化そうと、ドーピングという名の酒を飲み、強く大きく見せるしかなかった。

 

「あの映画、俳優さんの演技ひどくなかったですか?」


「えぇ、下手でしたね……感動シーンのはずが、思わず笑いそうになりました」


 どんな素人でも、お金を払えば作品に文句をつけたくなる。気分は一流映画評論家だ。

 それが作品を世に出す、プロの仕事として必要な覚悟なのだろう。

 その代わり、良い作品を作れば、称賛される。富も名誉も手に入れられる。


 こんなストーリーがめちゃくちゃな妄想小説を書く俺だけには、言われたくないだろうな……

 悪いな、ダイソフト。今日だけは許してくれ。話のネタとして、おまえが必要なんだ。


「俳優さんが代わってれば、また違ったのかな……いや、そもそもストーリーがダメか……」


「あぁ~もう。映画観るの凄く楽しみにしてたのに! あの作品じゃ、全然物足りないです!」


──これって……もしかしたら行けるんじゃ……家に誘うチャンスなのでは!?


「ですよね! ですよね! だったら俺の家に来て、もう一本映画観ます? DVDレンタルでもして!」


 言えたーー! めちゃくちゃ自然な流れで言えたーー!!


「えっ? いいんですか? そんな、突然家に行くのなんてご迷惑じゃ……」


「いえいえ! 俺は全然平気ですよ! 相澤さんさえよければ」


「本当にご迷惑でなければ、行ってみたいです。作田さんのお家、どんな感じか気になりますし」


 うぉぉーーっ!! マジかーー!!

 相澤さんって、清楚な見た目して実は肉食系?

 肉食系女子、万歳!! 肉食系最高!!


 そうか、一見、ダメ映画を選択し、デート失敗かと思われたが、実はダメ映画でなければいけなかったんだ。

 仕切り直して、別の映画を観る展開になる……もしこれが良質な映画だったならば、内容に満足して成立しない!


 やはり見えていたストーリーに沿って進むべきだな! そうすれば間違いない。

 しかし、肝心の、家に来たあとのストーリーを思い出せないんだよな……


 それってやっぱり、その先は18禁だから!? 子供には見せられないやつ!?

 さぁさぁ、良い子はもう寝る時間ですよ! お引き取りください!!



 すでに時間も十時過ぎと遅いため、居酒屋は早々に出ることにした。

 電車に乗り、俺の家まで相澤さんと共に向かう。


 電車内はガラ空きで、俺達は並んで椅子に座ることができた。これが終電間近なら、もっと混雑したかもしれない。

 先程まで会話は弾んでいたはずなのに、電車の中ではお互いが静かとなり、沈黙が続いた。


 考えてみれば、相澤さんは本来、反対方面の電車に乗るはずだったんだよな。

 相澤さん、今どんな気持ちなんだろう……やっぱり俺みたいに、緊張してたりするのかな……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ