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終末の歌姫と滅びの子  作者: キー太郎
第三章 前半

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第96話 頭がいい奴を一人は仲間に入れとけ

 明かりに照らされたブリーフィングルーム。幾つかある椅子のうち、モニターに程近い一つに腰掛けるクレアが、何かに気がついた様に顔を上げた。


 クレアが顔を上げて間もなく――静かに開いた扉に、微笑みながら「おかえりなさいませ」と彼女はサイラスを出迎えた。


「……こんな遅くまで仕事かね。あまり残業をしてほしくないのだが」


 サイラスは、そう言いながらも出迎えに嬉しそうに微笑んだ。


「閣下がお仕事をされているのに、私だけ休むなどとても――」


 クレアが困り顔で微笑めば、「では私は毎日サボらねばならないな」と苦笑いのサイラスがクレアの隣に腰掛けた。


「お休み頂くのは構いませんが、そうすると私は閣下の仕事も熟す必要がございますね」


 笑顔で立ち上がるクレアに「本末転倒じゃないか」とサイラスが両手を上げた。


 そんなサイラスに「フフッ」と笑ったクレアが、部屋の隅にあるコーヒーメーカーを起動してコーヒーを作り始める――部屋に広がる芳醇なコーヒー豆の香り――それを堪能するようにサイラスが大きく息を吸い込んだ。


 ガリガリと豆を挽く音を二人で楽しんだ後、クレアはサイラスと自身の分のカップにコーヒーを注ぎ、再びサイラスの下に戻ってきた。


 自分の前に当たり前の様に置かれたコーヒーに、「ありがとう」とサイラスが微笑んで、クレアと並んで二人コーヒーの香りと味へと意識を集中させていく――





「上の方はなんと――?」


 二口ほどコーヒーを飲んだクレアが、カップをソーサーに戻しつつサイラスを見た。


「……ダンジョンを見つけるのを手伝え……と」


 そう言いながら、サイラスがカップに口をつける。クレアが固まったままその様子を見ている事から、彼女をしても予想外の申し出だったのだろう。


 暫く固まったままのクレアだが、何とかショックから復帰したようでカップを両手に徐ろに二口――コーヒーを飲んだ彼女が口を開いた。


「正気でしょうか?」

「冗談なら助かるのだがね」


 折れるのでは? と言うほど傾げられたクレアの首と訝しげな視線。サイラスはそれから逃れるように、視線を正面に向けたまま「私が知る限り、冗談を言うタマではないが」と肩を竦めてカップに口をつけた。


「場所の目星等はついているのでしょうか?」


 クレアも正面を向きながら、残り少なくなったカップを傾けた。


「分からないらしい」


 サイラスが「馬鹿馬鹿しい」とばかりに盛大に溜息をついて、残ったコーヒーを全て呷る。


 一気にコーヒーを飲み干し、カップを置いたサイラスがもう一度溜息をついた。


「ただ――」

「ただ?」



 サイラスが呟いた言葉をクレアが無意識に反芻する――絶対的な信頼を寄せるサイラス相手に、発言を急かすような真似はこれが初めてだ。そのくらいこの話題が突拍子もないのである。


「ただ……噂が色々出ているらしい」


 サイラスが漏らした三度目の溜息に「噂……ですか」とクレアが考え込んだ。


 実際クレアもサイラスも、『東にダンジョンというモンスターを発生させている穴がある。』という噂は聞いた事がある。聞いた事はあるが、場所までは特定されていないはずだ。


「調べてみます」


 そう言いながらクレアが、タブレットを取り出した。


 タブレットを操作するクレアを見ながら、サイラスが腕を組んで口を開いた。


「調べるなら、イスタンブールより西の都市を中心にしてくれるかね?」


 サイラスの言葉に一瞬だけ眉を寄せたクレアだが、直ぐに「かしこまりました」と頷いてタブレットを操作し始めた。


「閣下……朗報です。【情報屋】さんが、丁度西側に出張中らしく、自ら調べてくれるとの事」


 クレアの言葉に「それはなによりだ。出張費が抑えられるな」とサイラスが小さく笑った。どうやら二人をしてもヒョウを動かすには、少なくない出費が必要なようだ。


「一先ずは【情報屋】さん待ち……でしょうか」


 クレアがタブレットを置き、既に微温ぬるくなってしまったカップの中身を一気に飲み干した。


「そうなるが……恐らく直ぐに集まるだろう」


 そう言い切ったサイラスに、「どうしてでしょう?」とクレアがカップを持ったまま再び固まる。


「我々が知らない『噂』などという不確かな情報……それを西側から来たあの男が持っていたのだ」

「西側ではある程度、広がっている、と?」

「恐らく。なぜ東の情報が西から伝播するかは定かではないがね」


 呆れた表情のサイラスに、クレアも頷いて同意を示した。とは言え可能性としては高いのは分かる。軍部総司令官が噂を知っていたとなれば、軍部だけに伝わる噂……と言う線も考えられるが、それであれば「場所を知らない。噂を追え」等と不確かな事を言うはずがない。


 西側から来た軍部総司令官が知っていて、ここではその噂がない――ならば西側では総司令官の耳に入る程には、口さがなく噂されているのだろう。


「何ともキナ臭い依頼だ」


 真剣な表情のサイラスが、小さく溜息をついた。


 サイラスの言う通り、かなりキナ臭いのは間違いない。

 未だこのイスタンブールでは噂を聞かない事から、【人文】による情報統制も疑える。……疑える中、その噂を【人文】の中心たる人物の一人から「追え」と言われる始末だ。


「連中の目的は分からんが、精々こちらも利用させてもらおう」


 そう笑うサイラスにクレアが頷いた。


「東へ足を伸ばしてもいいと言ってくれているからな。大手を振って行こうではないか」


 サイラスが机の上で、いつものように手を組んで眼鏡を光らせた。変わらぬ指揮官のその様子にクレアもいつものように笑顔を戻した。


「それでは情報が集まり次第、軍部も利用した東征計画を立案いたします」


 クレアはそう言いながら空になったカップを、コーヒーメーカーに据え付けられた自動洗浄機へ――変わらぬ右腕の優秀さに、サイラスが頷いて小さく笑った。


 不確かな事ばかりだが、お互いの信頼だけは確かである。それだけで暗く先の見えない道も歩けるというもの。


「さて、忙しくなるな」


 立ち上がったサイラスに続いてクレアも部屋を後にする――今はブリーフィングルームにも静かな時間が必要だろう、と。これから忙しい日が来るまでの暫しの静寂を――


 ☆☆☆




 時間は少しだけ戻り――ユーリが上層で猫を依頼主に返している頃……


 ヒョウは人類の生存権内にある、丘の上で固まっていた。


 風が吹き抜ける丘の上。そこに立てられているのは、墓に見立てた幾つかの石だ。巨大な石とその周りに立てられた幾つかの石。


 墓の前でヒョウが固まっている理由は――


「……花? 誰や……?」


 事故で亡くなった人々を弔う為、ユーリと二人痛む身体に鞭を打って運んだ石の前に、誰かが備えたであろう花が風に揺れているのだ。


 何人もの人が犠牲になったのだろう、気がついたヒョウとユーリの周りには、人と思えぬ程変形した死体から、黒焦げになった死体、そして――かつてユーリとヒョウの友であり仲間であった人々の死体。


 数が多く、全員分の墓石は準備できなかった。それでもせめて自分たちの仲間くらいは……と、小さな墓石を、仲間の人数分用意して弔ったのだ。特別扱いのようで少々心苦しかったが、それでも彼らはやはり二人にとって特別な存在だったのだ。


 ピクリとも動かないかつての仲間たち。誰しもがまだ若く、そして強く、事故などで死ぬなど未だに信じられない。それでも動かなくなった彼らの顔を、ヒョウもユーリも見間違える事などない。幼い頃から一緒に育った彼らは、友以上に兄妹に近しい関係でもあるのだ。


 そんなヒョウ達からしたら、特別な墓の前に揺れる花。


 リンコの能力を死体から引っ張った可能性……出来るかどうか定かではないが、可能性があるなら、そしてもしそんな事をしているなら、ヒョウもユーリも相手を許すことはしない。


 何とか違っていてくれ。その願いを胸に訪れた墓は、荒らされるどころか花を添えられ、弔われた跡があった。


 流石のヒョウも、真反対の状況に固まってしまうのも無理はないだろう。


「普通に考えたら事故にうた連中の遺族やろうけど……」


 呟くヒョウだが、ここが各都市から離れている場所だと言う事は承知している。いくら墓参りとは言え、こんな辺鄙な所へ、危険を冒して来る人間がいるのだろうか。


「……あんさんらは、どう思う?」


 振り返らずに尋ねるヒョウに、「気付いてたか。流石だな」と豪快な笑い声が背後から聞こえてきた。


 振り返ったヒョウの視線の先には、二人の男――「久しぶりだな」とゲラゲラ笑うガタイのいい男と、神経質そうに眉を寄せる細身の男。


 どちらもヒョウは見たことがない。見たことはないが、相手はヒョウの事を知っている風に話しかけてくる――いつもの事だ。能力の範囲に入った連中が、勝手に知り合いだと勘違いしてヒョウに親しげに絡んでくるのは。


「二人とも久々やな――こないな所に何しに来たん?」


 ヒョウはヘラリと笑って、相手の会話に合わせた……こういう手合の相手も慣れたものだ。


「何しにって、決まってんだろ……調査じゃねーか」


 笑っていた男が眉を寄せるが、「何や。君らも頼まれてたん?」とヒョウは動じる事なく切り替えした。


「まあな。つっても俺は殆ど分かんねーんだけどな」


 と言いながらゲラゲラ笑う男に、「チッ、使えへん肉達磨やな」とヒョウが小さく悪態をついた。


 この筋肉達磨が使えないなら、もう一人の神経質そうな男に賭けたい所だが、どうも先程からヒョウを訝しむような視線が気になる。


 そんな視線とヒョウの視線がかち合った――一応笑顔を見せるヒョウに、男もつられて一瞬笑顔を浮かべたが、直ぐにそれを引っ込め隣の男を見上げて叫んだ。


「マックス! テメェこいつを知ってるって言ってたな!」


 その声にマックスと呼ばれた筋肉達磨が「知ってるぞ」と眉を寄せながら男を見下ろした。


「……俺も知ってる。知っている気がする」


 男はそう言いながら、ヒョウを見据えて僅かに腰を落とした。


「イーサンも知ってんのか? そりゃすげー偶然だ」


 目を見開いたマックスが「世界が狭すぎるせいだな」とゲラゲラと笑った。


「馬鹿野郎! お前と俺ですら名前しか知らなかったほぼ初対面なんだぞ! その二人がこんな場所で共通の知人に会うかよ!」


 叫ぶイーサンが、疑惑の眼差しでヒョウを睨みつけた。


 そんなイーサンを前に、笑顔を崩さないヒョウだが、内心は「中々頭が回るな」と面倒臭い気持ちで一杯だ。


 とりあえず出来るだけ情報を吐いてもらいたい。先程言っていた調査も気になる。誰が、何の目的で、ここを調査するというのか。せめてそれくらいは引き出したい。


 そう考えたヒョウが「すんごい偶然もあるもんやな」、とヘラヘラ笑いながら両手を上げてみせた。


「確かにスゲー偶然――」

「な訳あるか! 敵だ……あの方も言ってただろ。俺等以外でここに居る奴は――」


 イーサンがゲートから二本の短刀を取り出しつつ「――敵だ」そう吐き捨てて構えた。


 季節外れの妙に冷たい風が、三人の間を吹き抜けた――

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