表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末の歌姫と滅びの子  作者: キー太郎
第三章 前半

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/132

第89話 収まる所に収まりました

 ユーリの出した言葉に、ぞの場の全員が固まっている……。サイラスやエレナ、カノンだけではない、今まで笑顔を貼り付け無言を貫いていたクレアでさえ、その驚きを表情に隠せないでいた。


「亜人……だと?」

「ああ。噂だけどな」


 ようやく絞り出されたサイラスの言葉に、ユーリが頷いた。とは言えユーリの言う通り噂だ。情報の信憑性はかなり低い。だがバカバカしい事でも、火のない所に煙は立たない。恐らく何かしら似た物があるのかもしれない、とは考えているが。


「俺が住んでたところ。ああ、東にあるアンダーグラウンドで囁かれてる噂だ。東には亜人とか言う人間みたいな奴らがいるらしい」


 ユーリが知っているのはその程度だ。因みにヒョウですらそれ以上の情報を持っていない。とは言えモンスターが突如として現れたのだ。人に似た何かが生まれていてもおかしくはない、と思っている部分もある。


「人型のモンスターが集落を作っている……のか?」


 考え込むサイラスに「さあな」とユーリが肩を竦めながら続ける。


「モンスターかどうかは知らねぇけどよ……ゴブリン、オーガも集落は作るだろ?」


 その言葉にサイラスが更に考え込むように視線を下げた。


 ユーリの言う通り、ゴブリンなどの人型モンスターも集落を作るものがいる。だがそれらを『亜人』と呼ぶことはない。彼らは人の形をしてはいるが、人を見ると襲いかかってくる。つまりモンスターであることに間違いはないのだ。


 わざわざ『亜人』と、そう呼ぶのなら、モンスターとは違い、無闇矢鱈と襲ってこないのだろう。つまり人と同じようにコミニュケーションが取れる可能性があるとユーリは考えている。


「上の人達は、その亜人を隠したいのでしょうか?」


 カノンが発した疑問で、サイラスが思考の海から引き戻されたのだろう。押し上げられたサイラスの眼鏡が怪しく輝いた。


「一概には言えないが……【人文】が進みたくない方向に居る存在……会ってみる価値はあるな」


 そう笑うサイラスに「だから噂だぞ?」とユーリが溜息交じりで釘を刺した。実際ユーリも見たことがあるわけではないし、ヒョウも知らない事なのだ。噂ばかり追いかけて目的を見失って貰っても困る……そう考えたユーリだが、大事なことを思い出したと手を叩いた。


「ところでアンタらの革命の話はどうしたよ。ただ自分のレポートを拒否られたから、ってだけじゃねぇんだろ?」


 革命の目的やら何やらを、全くもって聞いていなかったのだ。ここに呼ばれた理由でもあるはずなのに、いつの間にか話が脱線してしまっていた事に気付いたユーリが、「それがメインだろ」と既に微温ぬるくなったコーヒーを一気に飲み干した。


「そうだな……『革命』とは言ったが、別に我々は【人文】相手に切った張ったの戦いを挑むつもりはないのだよ」


 同じようにコーヒーを飲み干したサイラスが更に続ける。


「我々の革命は、人々の意識へと働きかけるのも――」


 遠くを見るようなサイラスに、ユーリは良く分からないと言った具合に盛大に眉を寄せた。


「【人文】という組織への、盲目的信頼を揺るがす事が目的なのだ」


 そう言いながら執務机の上でサイラスが指を組んだ。


「そこまで目の敵にする理由は?」


 ユーリの言葉にサイラスが「フッ」と笑って眼鏡の奥の瞳を細めた。


「……これはね……復讐なのだよ。今まで生存圏の奪還を目的に、何百、何千、何万人の能力者が犠牲になってきたと思う?」


 サイラスの瞳に薄っすらと憤怒の炎が宿った。


「我々はそれを主上としているし、その道半ばで倒れることを厭わない。だがその目的がいびつに歪められているとしたら――我々は彼らを許すわけにはいかない」


 机の上で組まれたサイラスの指に力が入る――それを見たユーリは、「成程」と小さく呟いた。


 サイラスの考案した『神の目』システム。それを拒否して尚且つ中々広がらない、いや広げようとしない生存圏から、サイラスは【人文】が何かを隠していると睨んでいるのだろう。

 コストのかかる能力者達を使い潰してまで隠したいこと……その理由をサイラスが東に求めたのだろうが、ユーリの出した答えが果たして【人文】のお偉方の目的かどうかは定かではない。


 だが、状況証拠としては十分な気もしている。


 東へ及び腰な【人文】。

 東にあると噂される亜人の集落。


 その二つから見えてくるのは、【人文】が東に行かせたくなくて、ハンターを始めとした能力者達を使い潰している事だ。


 ハンターの生存率が上がれば、うっかり東の秘密に触れる可能性も出てくる。

 軍の作戦成功率が上がれば、うっかり東に生存圏が伸びる可能性が出てくる。


 故にサイラスは東に活路を求めていたのだろう。そこに東からユーリが現れた……成程、あれほどしつこく誘ってきた理由が今ハッキリと分かった。


 【人文】がひた隠す東の荒野の先――そこへ辿り着くのがサイラス達の目的なのだ。


 奴らが何故東を隠すのか、本当に噂どおり亜人の集落があるせいなのか。それは分からない。分からないが、彼らが東を隠すのならばと


「っつー事は、イスタンブール(ここ)を潰したかった理由もそれか?」


 ユーリは、つい最近起こったばかりの騒動を思い出しながらサイラスを見た。


「……それは恐らく違うだろう」


 首を振るサイラスに、「へぇ」とユーリが感心した声を漏らした。


「確かに知事への尋問内容を、軍がこちらに渡さない以上、背後に【人文】がいたことは間違いないだろう」


 サイラスの言葉にエレナとクレアが頷き、ユーリは「真っ黒じゃねぇか」と苦笑いを浮かべた。


「間違いはないが……本気でここを潰すなら、出来た頃に潰すべきだ。そもそも奪還作戦など組まねば良かった」


 溜息をついたサイラスに「状況が変わったとか?」とユーリが思いつく理由を上げてみた。


「可能性はなくはないが……それならば、我々の耳にも『噂』程度が入っていてもおかしくはない。それに――」

「本気で動いたにしちゃ、ショボすぎる……か」


 ユーリの言葉に「左様」とサイラスが頷いた。


 イスタンブールの巨大スラム地区で計画されていた武装蜂起であるが、これを【人文】が全面的にバックアップしていたら、もっと技術も人も投入されていた事だろう。


 あの程度で済み、更に別の勢力の介入を許したという事は、元々本気で潰す気は無かったか、若しくは本気を出せない状況にあったか……。


「【人文】も一枚岩ではない……って事か」

「恐らくは」


 納得しあう二人だが、対面のカノンはポカンと呆けた表情で二人を見比べている。今の会話の流れが分かっていないようなカノンが、


「何故、一枚岩ではないと分かるのでしょうか?」


 と素朴な疑問を投げかけた。


 その疑問にユーリとサイラス、エレナとクレアがそれぞれ目配せをして――


「奴らが本気じゃなかった……くらいは理解できてんな?」


 ユーリの言葉に「そこまで馬鹿ではありません!」とカノンが口を尖らせた。


「仮に奴らが遊び半分でここを潰すとして……そこに何のメリットがある?」


 ユーリの言葉に、「東に行かせたくないのでしょう?」とカノンが首を傾げた。


「あのな……東に行かせたくないのなら、奴ら本気でここを潰しにくるだろ」


 ユーリの溜息混じりの声に、「おお、そうですね」とカノンが手を叩いた。


「本気で来てねぇ……なら状況は変わらずイスタンブール(ここ)は奴らにとって安牌のままだ」


「ここからだと、彼らの秘密までは遠い……というわけですよね?」


 カノンの言葉に「そうだ」とユーリだけでなく、クレアやエレナも頷いた。


「そこに来て、あの騒動の裏に【人文】が居たって事は――」

「【人文】の誰かにとっては、イスタンブールが邪魔だったと……?」

「多分な」


 そう言ってユーリは、ソファの背もたれに身体を預けて天井を仰いだ。何とも面倒極まりない相手だと思う。悪いやつら同士結託して、一致団結してくれたら話が単純でいいのに。そう思えてならないのだ。


「理由はなんなのでしょうか?」

「俺が知るか。どうせ、『発展しすぎてムカつく』とか何とか言う、訳の分かんねぇ理由だろ」


 面倒すぎて、適当に理由を並び立てたユーリだが案外的を射ている事を本人は知らない。


「それはさすがに……」


 とは言え、何も知らないカノンからしたら、あまりにも酷い理由に納得など出来るはずもなく……ユーリに「もっと真面目にしろ」とでも言いたげな視線を送っている。


「いや、案外あり得るかもしれん」


 そう言って呆れた顔を浮かべたのはサイラスだ。


「奴ら、己の地位と権力の為に動く無能の集まりだからな」


 大きな溜息をつく彼は、恐らく【人文】と少なくない交流があったのだろう。


「とはいえ……それは表向きの理由だろうがね」


 そんな物が表向きでいいのか。そう言いたくなるユーリだが、真剣なサイラスを見る限り、そう言ったイカれた集団らしい事を理解した。


 ……成程。無能だが馬鹿ではない。その意味をユーリは理解した。サイラスが彼らに言う無能は、能力が無いのではない。己の能力を誰かのために使う気が無いのだ。上に立ち、その力を人々のために使わないのなら、それは正しく無能なのだろう。


 己の権力と地位を守る事を主上とする集団。澱み、腐りきったぬるま湯につかる彼らは、彼ら同士でも常に腹の探り合いをしているのかもしれない。


 そんな奴らの思考などユーリには到底理解が出来ない。理解が出来ないからこそ面倒だと思う。そして、そんな奴らだからこそ、サイラスは『革命』などと称して、人々の意識を変えようと様々な事を模索しているのだろう。


「東に行かせたくない……その理由も下らねぇのかもな」


 ポツリと呟いたユーリに「恐らく」サイラスも呟いた。


 ユーリとサイラス、二人して【人文】の目的は、彼らの地位を守る為の何かではないかと当たりをつけている。仮に亜人の集落が理由だとしたら、それが彼らの地位や権利にどう関わってくるかは分からないが。


 室内にしばし流れる沈黙。それを破るように「色々と話が脱線したが……」と口を開くサイラスが机の上で組んでいた指を解いた。


「我々は彼らの隠し事を暴き、世間にそれを知らしめたいだけなのだ」


 サイラスはそう言って立ち上り、ユーリの方へと歩きながら言葉を紡ぐ――


「彼らに対する裁きは世間が下してくれるだろう」


 ――ユーリの前まで来て、ソファにふんぞり返るユーリへ視線を向けた。


「もう一度言うが、我々の革命はいわば人々の意識に対する革命なのだ」


「そりゃ御大層なこった」


 サイラスの光る眼鏡にユーリの苦笑いが映っている。


「興味はないかね?」


 眼鏡の奥で光るサイラスの瞳。


「本音を言えば、興味ねぇよ。今の世の中でも飯は食える……が」


 ユーリはその瞳を真っ直ぐ見つめ返して大きく深呼吸をした。


「今回の騒動……あれにカラスが絡んでるなら、【人文】の奴らとカラスにも因縁があるんだろ」


 ユーリはそう吐き捨てて、背もたれの身体を預けた反動でソファから立ち上がった。


「だからよ……癪だけど協力してやるよ」


 ニヤリと笑うユーリに「協力させてやろうではないか」とサイラスもニヤリと笑って手を差し出した。


 出された手に一瞬だけ眉を寄せたユーリだが、「足引っ張んなよ」と笑ってサイラスの手を強く握りしめた。


「君こそな」


 そう言って強く握り返された手に、ユーリは「へぇ」と再び感心した声を上げながらも、その手を暫く強く握り続けるのであった。


 ユーリ・ナルカミ。今までの人生の中で、初めて己の意思で誰かの下についた瞬間であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ