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終末の歌姫と滅びの子  作者: キー太郎
第二章

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第59話 過去の話って入れるタイミングとボリューム難しくない?

 謹慎になって既に二日――リンファは一人ベッドから起き上がれないでいた。


 別に謹慎になったことがショックなのではない。そんな事よりショッキングな出来事が降り掛かったのだ。

 謹慎になったその夜、リンファはかつての友人たちに事の真意を問いただそう、とクーロンへと一人赴いたのだが――


「何なんだよ……あの不気味な奴は」


 ――何の成果も得られないどころか、残酷な現実を突きつけられたのだ。未だかつて見たことのない不気味な男が、クーロンを事実上支配していると言う残酷な現実を。


 加えてクーロンの皆が企んでいたと言う馬鹿げた計画が、実行可能な所まで進んでいたのだ。


「……一体何処で間違えたんだろうな」


 呟く声に応えてくれる人はいない。


「誰か……教えてくれよ」


 天井を見ていても溢れてきそうな感情を、両手で抑え込みながらリンファは自身の行動を省みた――





 リンファを育てたのは、クーロン地区そのものだった。


 父親とともに、物心つく前より流れ着いたイスタンブール。まだ奪還して十年程のイスタンブールに職を求めて、親子二人長い旅路の果に辿り着いたのだ。


 父親はリンファにとって、いやクーロン地区全体にとっての英雄だった。


 奪還したとはいえ、まだ心許ない防護壁。


 特に北東の荒野に面していたクーロン地区は、頻繁にモンスターの襲撃を受けていた。そんなモンスターからクーロン地区を守っていたのが、リンファの父親だった。


 もちろん当時の衛士隊や軍、ハンターによる活躍もあった。


 それでも防衛ラインを抜けてくるモンスターが後を絶たない状況で、皆を守るリンファの父親はクーロンにとっても、そしてリンファにとっても紛うことなき英雄だったのだ。


 そんな父親が亡くなったのはリンファが十二の時。


 防護壁の強化が終わり、モンスターに脅かされる日常が終わりを告げた頃、リンファの父親は還らぬ人となった。


 何という事はない。リンファの父親が真面目だったというだけだ。


 壁を超えて侵入してくるモンスターがいなくなれば、壁の外にそれらを求めなければならない。


 それがモグリと言えど、ハンターと言う者達の宿命。


 モグリだの正規だの関係なしに、モンスターを日々の糧とする真面目なハンターであれば、危険を承知でそこに行かねばならぬのだ。


 壁の内側の頃は良かった。脇を抜けてくるモンスターは少数かつ弱っていることの方が多かったのだ。


 そうでない場合でも、衛士隊や他のハンターと共闘することが出来た。


 だが一歩外の世界へ出たら、そうはいかなかった。


 どんなモンスターにやられたのかすら定かではない。とにかく、モンスターに負わされた傷が元で、リンファの父親は還らぬ人となった。


 父親を失ったリンファを救ったのは、クーロン地区の住民たちだった。かつてリンファの父親に救われたクーロンの住民たちは、英雄の娘を皆で育て上げたのだ。


 様々な人が、様々な理由で流れ着くクーロン地区。


 やたらと賢い老人がいた。

 武術に秀でた老婆がいた。

 交渉術に長けた青年がいた。

 銃器の扱いに詳しい男がいた。

 ハッキングの上手い女性がいた。


 皆が皆、リンファを可愛がりリンファにその持てる全てを教えていった。


 そうして育ったのが、最年少で衛士隊入りを果たしたエリート、リー・リンファという女だ。


 クーロン地区の結晶、クーロンそのものと言えるリンファの出世を喜んだのは他でもないクーロンの住民たちだった。衛士隊に入るにあたり、リンファは街へと移住したがそれでも片時もクーロンの事を忘れることはなかった。


 それは父親が今際の際に残した言葉


 ――受けた恩は恩で返せ。返し切るまでは死ぬんじゃないぞ。


 それが胸に深く刻まれていたから。というのもあるだろう。実際にクーロンの皆は、リンファの父親から受けた恩を恩で返してくれたのだ。


 だからリンファもまた恩で報いようと思っていた。


 クーロンの皆が困ったら助けてあげようと。


 衛士隊になって、クーロンを見回るのは楽しかった。


 皆は声を掛けてはこないが、皆のお陰でこうして立派になった姿を皆に見せてあげられることが何より嬉しかった。


 違法な武器が見つかることなど、しょっちゅうあった。


 仕方がない。それがクーロン地区なのだ。防護壁が強化されたと言っても、壁一枚隔てた向こうは、モンスターのテリトリーだ。


 元々大きかったクーロンが、更に人を吸収しより大きくなったことで防護壁とビルとの境はなくなり、思わぬところに侵入経路が出来ていたりするのも大きな原因だ。そんな危険な地である以上、住民が己の身を守るための武器を隠し持つことは。クーロンでは日常だったのだ。


 だから見逃したし、こっそり返した。


 その度にバツが悪そうに「すまねぇな」と頭をかく皆の顔が好きだったのだ。


 おかしくなったのは何時からだったのか。


 ある日、今まででは考えられない程の大量な武器が発見されたのだ。


 どう見ても護身用には過ぎた量の武器。リンファは唖然とした。こんなに大量の武器を何に使うのか……と。


 当然没収の後、罰金という事になった。


 その夜リンファはクーロンへと呼び出された。かつて友として同じ時間を過ごした男に。ちょうど良かった。リンファもその男に用があったからだ。大量の武器、その使い道について。


 夜とは言え、人通りはある。念の為軽く変装したリンファがクーロンの入口に辿り着くと、中から出てきたのはよく知る友人たち。


「お前ら、あんな大量の――」

「すまえねぇリンファ。その事なんだけどよ……罰金がデカすぎてアイツらじゃ払えねぇんだ……」


 問い詰めるより前に聞かされた、友人たちの叫び。


「……どうすんだよ」

「……どうしよう……罰金が払えねぇと、アイツら強制労働になるんだろ?」


 ガタガタと震える友人達。


 強制労働とは、この時代で罰金刑に処されたものの、それを払えない者に課される刑罰の一つだ。

 通常は各街の周囲にある【ファーム】と呼ばれる施設で働かされることとなる。ファームとはその名の通り農村のように食肉や野菜等を育てる施設だ。


 イスタンブールは街の中に牧場と最新の食肉、野菜工場を持っているため近郊に【ファーム】はない。


 そうなると大抵は別の街の【ファーム】で奉仕活動を行わなければならない。つまりイスタンブールに帰ってこれる保証はないのだ。


 ガタガタと震える友人を前に、リンファの頭には父親の残した言葉が響いていた。


「……分かった。アタシが何とかしてやる」


 その日、リンファは初めて大量の武器をブラックマーケットに持ち込んだ。


「大丈夫……これは処分みたいなもの……父さんみたいな人が買って、誰かを守るために使ってくれるはず」


 何度も何度もそう言い聞かせて、ブラックマーケットを後にした。


 流した武器の買取代金で、友人たちは【ファーム】に送られること無く、クーロンで生活出来る日々を手放さずにすんだ。


 リンファは胸をなでおろした。それは友人たちが助かったからなのか、それとも自分の悪事がバレなかったからなのかは今はもう分からない。


 そんな事があってから暫く、リンファの日々は再び穏やかさを取り戻していた。数日前に見つかった大量な武器。あれらは何かの間違いだったのだ、と思える程に。


 だがそんな穏やかな日々は仮初めだった。


 東門の防衛に当たる日、その交替に向かう途中で一人の犯罪者を捕まえたのだ。そいつ自体は大したことのない小物だ。ただ偶然が重なって、リンファがそいつを連行する事になったのだが――


 ――衛士さんよ、俺みたいな小物じゃなくてクーロンを取り締まれよ。


 連行途中に男が口走った言葉に、リンファが思わず「なんでだよ?」と反応してしまった。普段なら犯罪者の戯言など「あー分かった分かった」と適当に流すのに。


 呆けるリンファに男がニヤリと笑った。


 ――アイツら『革命するんだ』とかなんとか言って武器を大量に持ってるぜ?


 その言葉に身体中から力が抜けそうになったリンファは、「なあ情報やったんだし見逃してくれよ」と男が放つ言葉がやけに遠くに聞こえた事を覚えている。


 革命?

 何を?

 どうやって?


 ぐるぐると回る思考がリンファを追い詰める。そんな矢先――自分の分隊がたった一人の男によって病院送りにされたという、ぶっ飛んだニュースが飛び込んできたのだ。


 正直頭が痛かった。ただでさえクーロンのせいで押しつぶされそうなのに、これ以上問題を増やさないで欲しかった。


 だから非番なのに仕事へ出かけた。その男をボコボコにするチャンスがあるらしいと聞いて。

 それと同じくらい、その男に興味があった。コソコソと悪事を企むかつての友人たちと違い、真正面から悪事を働くという正反対の人間に。


 初めて見た印象は、「考えなしの馬鹿」だった。


 大人数相手に目隠しはするし、それでいて相手を煽り倒す姿勢は崩さない。


(これは出番がねーな)


 そう思い壁にもたれて男がボコボコにされる様でも見て溜飲を下げようと思っていた。


 異変に気がついたのは直ぐだった。目隠しをしているはずの男が防衛隊の面々を手玉に取っているのだ。……かと思えば急に殴られ、蹴られ、ボロ雑巾のように地面に転がっていた。


 印象は「考えなしの馬鹿」から「何を考えているのかわからない馬鹿」に変わっていた。


(変なヤローだ)


 抱えきれない秘密と変わっていくかつての友人。そんな頭痛がその時だけは消えていた事を覚えている。だがそんな男が再び問題を引き寄せた事で、リンファの頭痛は更に酷くなったのだが……。



 そう…男が暴れたことで、新たな武器がクーロンで発見されたのだ。それも前回同様大量の……。


 流石に二度目は……と思い再びクーロンへと足を向けたリンファを待っていたのは、別の友人たちだった。


「悪い……リンファ」


 口を開いた友人からは、先日別の友人たちから聞いたような言葉が続けられた。


「はあ? また流せって言ってんのか?」


「そこを何とか!」

「嫌だよ……もう悪事は……」

「悪事じゃねーよ。人助けだと思って」


 頼み込まれては仕方がない。彼らにも返しきれない程の恩があるのだから。でも――


「お前らを助けるのはいいんだけど、そもそも何でこんなに沢山の武器があるんだよ?」

 眉を寄せるリンファの前で

「……そりゃかく――ムグ」

 何かを口走ろうとした友人を、別の友人が慌てて止めた。


「な、なんでもねーよ。最近モンスターが多いんだ。お前の方から壁の修繕依頼しといてくれ」


 取り繕う姿に不信感こそ滲むが、コソコソと「リンファは巻き込めねぇよ」とやり取りする優しさに「もう巻き込まれてるよ」とは口が裂けても言えなかった。彼らは変わったが、変わって無かった。


 かつて彼らに助けられた恩はまだ返しきれていない。


「今回で終わりだからな」


 二度目のブラックマーケットは、一度目よりは気が楽だった。


 それどころか、こんな悪事に気づかない衛士隊の面々に呆れすら覚えていた。


「平和ボケだな……」


 思わず口をついて出た言葉であったが、それと同時にリンファは嬉しくも思っていた。


 またクーロンの皆に教えてもらえたのだと……バカ真面目なだけでは見逃してしまう悪があるのだと。それに気付けるようになれたのだと。


 ……何てことはない。自分自身に対する言い訳だ。それに気づかないふりをして、都合のいいように解釈をして。


 向き合うには大きすぎた。

 受け止めるには重すぎた。


 あの時断っていれば、昨夜のような事件は起きなかったのではないか。

 いや、もっと前に犯罪者から『革命』と聞いた時点で隊長に報告しておけば。

 それより前に武器を横流ししなければ、彼らを止められたのでは。



 考えれば考えるほど、リンファは闇に落ちていくのを感じていた。


 そして昨夜、あの不気味な男に出会った――何処から来たのか。何時からいたのか。クーロン全体を掌握し、リンファの知るクーロンを壊し、皆を扇動する不気味で底の知れぬ男に――

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