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終末の歌姫と滅びの子  作者: キー太郎
断章

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第127話 夜空に輝くアルタイル(中編)

 フェンやアデルと砂漠の鷲(アクィラ)のメンバーが飲んだ次の日……エレナを抜いた荒野の白鳥(シグナス)の三人は、休みにもかかわらず早朝からオペレートルームに集まっていた。


 酔が醒め、昨晩の恥ずかしさからか俯いたままのフェン。

 そんなフェンに「うじうじしない」と頬を膨らませるアデル。

 そして未だ状況が飲み込めず、困惑気味のラルド。


 そんな三人の目の前には、額に青筋を浮かべるブルーノの姿があった。腕を組み、苛々とした様子が、しきりに上下して床を叩く彼の右足に現れている。


「おい、ディーノ! 残りの三人はどうしたんだよ?」


 苛々が頂点に達したのか、ブルーノが声を張り上げながら、部屋の隅で壁に持たれるディーノを振り返った。


「……知らん」


 短く呟いたディーノが、「……全員いい年した男だ」と続けるが、無表情のそれはフェン達には怒っているのかどうかすら分からない。


 ただフェン達には分からないだけで、「まあ、怒るのはお前に任せるわ」とブルーノが顔を顰めて頭を掻くあたり、ディーノは怒っているようだ。


 ブルーノとディーノのやり取りを見ていたアデルとフェンが


「ねぇ……ディーノさんの表情の違いって分かる?」

「分かるわけねーだろ」


 コソコソと声を抑えて口を開いた言葉に


「僕ちょっと分かるかも」


 とラルドが呟き、二人の疑問符が「「え?」」と綺麗に重なった瞬間、ドタドタと階段を降りてくる複数の足音が響き……


「危ねえ、間に合った――?」


 とロランにダンテ、そしてルッツの三人が開く自動扉に身体をぶつけながら転がり込んできた。


「……間に合ってねえ」


 そんな三人の前で仁王立ちして底冷えする声を出したブルーノだが、そのまま鉄拳制裁……とはいかず、少しだけ体を開いて親指で後方――ディーノを指さした。


「やべぇ……すげえ怒ってんぞ」

「お前が二軒目行こうとか言うから」

「お、俺のせいかよ〜」


 ディーノを見たルッツ、ロラン、ダンテの三人が顔を青くして冷汗を流す。


「…………」


 無言のディーノが、三人にゆっくりと近づく――


「おい待て」

「ディーノ、早まるな。その顔は――」

「モンスターに向ける奴じゃねえか〜」


 両手を上げる三人の前でディーノが指をポキポキと鳴らした……









 頭に出来た巨大なコブを擦る三人を前に、「ったく、しっかりしろよ」とブルーノが盛大な溜息をもらし、ディーノが無言のまま定位置まで戻った。


「……ディーノさんが一番怖いね」

「……そうだな」

「今はもう怒ってなさそうだけど」


 コソコソと話す三人の言葉通り、


「ディーノ! 俺達に向ける表情と違いすぎるぞ!」

「そうだ。不公平だ!」

「幼なじみにも優しさをくれよ〜」


 三人が文句を垂れているので、ディーノは今穏やかな顔をしてフェン達を見ているのだろう。


「うるせえ馬鹿共。遅れてきたお前らが悪い」


 ブルーノの一喝で三人が口を尖らせたまま黙り、オペレートルームには再び静寂が戻った。


「お前らが遅れてる間に、三人には今日の作戦概要は話してある」


 ブルーノの言葉で、全員の顔が一気に引き締まった。


「てことは宿題の答え合わせも終わったのかい〜」


 ダンテがチラリとフェン達へ視線を向け、ブルーノがフェンを顎でしゃくる――まるで「聞かせろ」とでも言う様な仕草に、フェンが頷いて口を開いた。


「……分からなかったです。俺達は俺達なりに頑張ってる……だから今日の同行で――」


 真剣な顔のフェンに、ブルーノが盛大な溜息を返して続く言葉を遮った。


 黙ったままのフェンを見つめるブルーノ。そしてその奥ではフェンたちのオペレーターであるリザがハラハラとした様子でこちらを見守っている。


「おいリザ――」


 振り返ったブルーノの声に椅子に座っていたリザが「ひゃい」と肩を跳ねさせた。


「……今日の任務、お前も手伝え」


 ブルーノの視線に、「え……」とリザが固まった。


「お前が甘やかしてたツケだ。お前が持ち上げるから、この三人がいつまで経ってもお荷物のまんまで、それのケツを俺達が拭わねえとなんだぞ?」


 ブルーノの厳しい意見に、「先輩、そんな酷い言い方ないです!」とリザが頬を膨らませる。


「酷いも何も事実だ」


 吐き捨てたブルーノに、「おい、ブルーノ……」とロランが眉を寄せるが、それをブルーノは制して首を振る。


「いいか。こういうのは誰かが言わねえと駄目だ。皆甘やかしてるから付け上がりやがる……総合力No.1? エレナにおんぶに抱っこの間違いだろ? そのクセ本人たちは、それの自覚が無いと来たもんだ」


 ニヤリと笑うブルーノに、フェンが怒りに滲んだ瞳を向ける。煽るようなブルーノの態度に、ルッツが頭を掻きながら口を開いた。


「ブルーノ。言いたいことは分かるが、昨日許可したんなら、グダグダ言わねえのが筋だろ?」


 ルッツの尤もな発言だが、ブルーノはそれに鼻を鳴らした。


「別に連れて行く事に関して文句は言ってねえ。ただ、現状を教えとかねえと、何の為に行くかも分からねえ上に、全員の足をひっぱるだろうが。オペレーターとして、そこはキッチリさせとかねえと、だ」


 そう捲し立てたブルーノに、ルッツ以下四人が溜息をもらし、「あんまり虐めるなよ」と肩を竦める。


「虐めねえよ」と言ったブルーノだが、未だに自身を睨み続けるフェンを前に

「お前らがお荷物って事を認識させねえと、全員が危ねえからな」

と態とらしく肩を竦めてみせた。


「いいか。昨日は酒の席だから敢えて言わなかったが、これは遊びじゃねえ。それは分かってるな?」


 ブルーノの冷めた瞳に「分かってますよ」と鼻息の荒いフェンだけでなく、残りの二人も頷いた。


「なら、なんでエレナに相談しなかった? 昨日ロランに言われたんだろ?」


 ポケットに手を突っ込んだまま「若くて未熟でいいって」と続けるブルーノの言葉に、フェンとアデルが俯いた。


「恥ずかしくて相談できなかったか?」


 溜息混じりで笑うブルーノが、「ああ、ラルド。お前は関係ないぞ」と困惑するラルドにヒラヒラと手を振った。


「そ、そんな事相談できる訳ないでしょ。迷惑になるじゃないですか」


 再び瞳に力を込めたフェンに、アデルも「そうですよ」と頷いた。


「迷惑……迷惑な……」


 そんな二人を前に、ブルーノは頭を掻いて溜息をついた。


「なら、エレナがユーリ達と外に出かける事も許してやれよ。……お前らだって迷惑だろ?」


 ニヤリと笑うブルーノに、「そんなわけ無いじゃないですか」とフェンが声を荒げる。


「俺達がエレナさんに頼られて、迷惑だなんて思うはず――」


 そこまで声を張り上げたフェンが、何かに気がついたように口を噤んだ。


「どうした? 『迷惑だなんて』……何だ?」


 ポケットに手を突っ込んだブルーノから、フェンが視線を逸した。無理もない。フェンの脳裏には昨日アデルが言っていた言葉が反芻しているのだから。


 ――アタシ達には迷惑かけられない、って。


 アデルが言っていた言葉が何度も響く。今までだってそうだった。個人的なことになると「迷惑はかけられない」とエレナが線を引くことは度々あった。


 ……なんで?


 そう思ったフェンに、まるでブルーノが心を読んでいるかのように「何でか教えてやろうか?」とニヤリと笑ったまま口を開いた。


「お前らは信頼関係が築けてねえからだ」


 ブルーノの冷たく言い放った言葉に、フェン達三人は驚いた様に固まり、そうして一斉に「そんな事はない」と早口で捲し立てている。


「あ、アタシ達はちゃんと……ちゃんと任務も熟せてます!」


 口を開いたアデルの視線の先には、ハラハラとした表情で様子を見守るリザの姿。


「そりゃそうだろ。エレナが居るからな」


 肩を竦めたブルーノが、「お前らが任務を熟せてんのは、エレナがいるお陰だ」と続ける言葉に、フェンが瞳を更に細めた。


「その言い方だと、俺達は役立たずって聞こえますが?」


 怒りを露わにするフェンに、「お、落ち着いて……」とラルドが肩を掴みながら声を掛けるが、それをフェンが振りほどいて一歩前へ出る。


「聞こえるんじゃねえよ。そう言ってんだ。役立たずのお荷物だって」


 怒りに震えるフェンを前に、ポケットからタバコ代わりの棒付きキャンディを取り出したブルーノが、それを口に放り込んだ。


「取り消して下さい。俺達の事……俺達がどれだけ必死に頑張ってるかも知らないのに……いくらブルーノさんでも許せません」


 拳を握りしめるフェンに、「そ、そうですよ! 先輩言いすぎです」とブルーノの後ろからリザも声を張り上げた。


「取り消せ? 言い過ぎ? 嫌だね。これはお前らを客観的に見た俺の見解だ。お前に言われて、俺が俺の意見を変えないといけない理由があるか?」


 キャンディの棒を上下に揺らして笑うブルーノに、「が、頑張ってるフェンさん達に失礼です」とリザが眉を寄せてフェンとブルーノの間へと入った。


「頑張る? 何をだ?」


 そんなリザを一瞥したブルーノが「ああ」と態とらしく手を叩いて笑う。


「背伸びは頑張ってるな」


 そう笑うブルーノの言葉に、「「「背伸び?」」」とフェンとアデル、そしてリザの言葉が重なった。


「背伸びだ背伸び。クソ弱いくせに、エレナと並ぼうと背伸び……もしかして、そんな事すら自覚がねえのか?」


 冷めた瞳のブルーノが、「悪い、自覚があれば『迷惑だから』なんて勘違い発言しねえな」と鼻を鳴らしてキャンディを取り出した。


「さっきから聞いてたら……背伸びだ何だって」


 握りしめたフェンの拳が怒りに震える。


「一緒のチームなんですよ? 肩を並べようとして何が悪いんですか!」


 声を張り上げたフェンに、アデルも力強く頷く。


「肩を並べる……だ? 本気で言ってんのか? 自分の実力も把握出来てねえガキが、か?」


 小馬鹿にするようなブルーノの表情に、フェンの顔が一気に強張った。


「自分が弱いことくらい分かってますよ! それに未熟でも良いって言ってたじゃないですか!」


 完全に頭にきている……そんな様子のフェンだが、ダンテやロランは止める素振りを見せない。唯一無表情のディーノだけが「……重症だな」と小さく呟くだけだ。


「未熟とガキの違いも分からねえクセに、一丁前に吠えるな」


 鼻を鳴らしたブルーノに、「意味が分かりませんよ」とフェンのボルテージが上がっていく。


「俺が……俺達がリーダーより弱いことなんて知ってますよ。それでもチームのメンバーなんだ。肩を並べようと頑張る事の何が駄目なんですか!」


 鼻息が荒くなるフェンとは対照的に、キャンディを舌で転がすブルーノは眉一つ動かさない。


「肩を並べようと頑張る? ……その不格好な背伸びがか?」


 鼻で笑うブルーノに「背伸び背伸びって……」とフェンの顔が赤くなっていく。


「自分が弱いって知ってるだ? 嘘つけ。お前は分かってねえ。自分が弱いことを分かってねえ」


 呆れ顔のブルーノが、キャンディを咥えたままフェンに手招き――


「いい機会だ…お前が弱い事を……本当に教えてやるよ」


 ――ブルーノの口の端でキャンディの棒が今日一番に上向いた。


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