夕餉
「属性魔法なんて、文字通り無から有を作り出している感じですもんね」
恭介は、そういって頷いた。
元の世界では、「到底あり得ない現象」、ではあるのだ。
「そのあり得ない現象にどうにか共通する法則をみつけようとしているわけだけど、さっきもいったようにまだまだデータが圧倒的に足りない。
時間が経てばば自然と解決するのかどうか、今のところはどっちともいえない。
なんというか、損な立ち位置だよ」
その女子はそういって、首をゆっくり横に振った。
「あ、自己紹介まだだっけ?
わたし、酔狂連所属の浅黄紅葉。
ジョブは研究者」
なるほど。
と、恭介は納得する。
このジョブにしてこの人あり、というか。
「ん、で。
こっちのちっこいのが、同じ酔狂連の浅黄青葉。
わたしの姉で、ジョブは分析者。
まあ、役割的にも、だいたい二人で組んで行動している。
酔狂連の引きこもりコンビだ」
「はあ」
恭介は思わず二人をまじまじと見比べてしまった。
「よろしくお願いします。
ええと、失礼かも知れませんが、青葉さんの方がお姉さん、なんですか?」
「あんたのいいたいことは、わかる。
二人一組で会うと、初対面の人からはだいたい同じ反応されるしな。
疑問を素直に口に出してくれるあんたみたいなのの方が、まだしも好感が持てるってもんだ。
で、このロリの方が姉。
この外見で十八歳、歴とした三年生だ。
その気になれば車の免許だって取れる。
そう見えないだろう?
だが、事実だ」
「まあ、どちらもよろしくお願いします」
恭介としては、無難な対応をするしかない。
「おにーさん」
つんつん、と、恭介の服を引っ張って、当の青葉がいった。
「青いの、いないの?
青くて、ふさふさの」
なんだか口調までが舌足らずで、チャイルディッシュに感じる。
「青くて、ふさふさ」
恭介は数秒、考え込んだ。
「ああ、うぃのことか。
そういいや、あいつ、どうしたんだろうな」
思い返してみると、昨日、中央広場で盆踊りみたいなことをしていた場面を目撃してから、姿を見かけていない気がする。
ああいう存在は気まぐれなもの、と思っているので、姿が見えなくても別に心配はしないのだが。
「うぃくんなら、キョウちゃんが呼べば出て来るんじゃない?」
遥がいった。
「あの子、どうやらキョウちゃんに一番なついているようだし」
「そうなのか?
でも、ここのところずっと、ハルねーにべったりだったじゃないか」
「それは、キョウちゃんがわたしのことよろしくって、あの子に頼んだからでしょ」
「そんなこと」
思い返してみると、何日か前にいったような気がする。
「一度試しに呼んでみれば」
彼方がいった。
「案外、ぽん、って出て来るかもよ」
「本当に出て来そうだから怖いな」
恭介はいった。
「試しに呼んでみるか。
うぃ!
姿を現せ!」
次の瞬間、「ポン」という擬音さえなかったものの、うぃが恭介の目の前に姿を現す。
「もふもふだー!」
さらに次の瞬間、うぃは、浅黄青葉に抱きしめられていた。
「いや、ちょっと待って」
妹の浅黄紅葉は、その様子を目の当たりにして狼狽えている。
「なにこの魔力、とんでもない。
しかも、なんの前兆もなく、唐突に現れたし」
ああ。
と、恭介は思った。
研究者というジョブのためか、魔力とかそういうのを感知出来る人、なのか。
と、いうことは。
「あのー。
青葉先輩」
恭介は、青葉に声をかける。
「今、抱きしめているそれ、なんだと思いますか?」
青葉のジョブは分析者。
だとすれば、紅葉よりも突っ込んだ分析内容を聞かせて貰える、かも知れない。
「もふもふの、ふさふさー!」
しかし、その期待に反して極めて抽象的な返答しかなかった。
というか、うぃの感触を本腰入れて堪能していらっしゃる。
この人、本当に十八歳なのか?
「姉貴は、やるときはやる人だから」
心中を察してか、紅葉が恭介の肩に手を置いて、そう諭す。
「せっかくこんなところにまで足を運んでくださったんだ」
彼方がいった。
「よかったら、夕食でもどうぞ」
酔狂連の人たちが集まって、例によってなにやら賑やかに口論していたが、ここで食事をすること自体には異論がないらしく、おとなしく案内に従ってついて来た。
生徒会が三名、酔狂連が五名、魔法少女隊が四名、トライデントが三名。
総勢で十五名という、この拠点運用開始以来の大人数になる。
恭介たちが寝泊まりしている家の、薪ストーブの間に、どうにか全員が入った。
「土間ですいませんが、他に適切な広さの場所がないもんで」
彼方はそういって、全員に椅子を勧める。
「師匠、今晩はなんですか?
鮭が出るのは、焼くの手伝ったから知っているんですけど」
七輪と炭を購入して、魔法少女隊にも手伝って貰って、人数分の塩鮭を焼いたのである。
「今日は、和食。
焼き魚とか卵焼きとか、まあベーシックなやつ」
「朝食みたいっすね」
「他にリクエストとかあれば、その場で作ろうかな、と」
赤瀬とそんなやり取りをしながら、恭介はテーブルの上に倉庫から取り出した業務用の炊飯器を置いた。
「あ、炊飯器、買ったんだ」
「お客さんが来るって聞いてな。
人数が人数だし、土鍋では間に合わないと思って」
遥は、倉庫から出した鍋をあけて、お椀に熱々の味噌汁を注いで配りはじめる。
しじみ汁、だった。
恭介もご飯を茶碗によそって、全員分を配る。
というか、端から順に回して貰う。
倉庫は、中に物を入れた時点で、どうも時間が停止する仕組みらしい。
熱々のまま入れれば、冷めない状態で保管されるから、こういう時は便利だった。
「卵焼きは、甘いのと塩味が強いの、二種類用意しました。
どちらでも好きな方を選んでください」
一斉に、リクエストが殺到した。
「熱々とご飯と味噌汁が、こんなにありがたく思えるとは」
小名木川会長は、食事をしながら、比喩ではなく本当に感涙にむせんでいた。
「聖女様が食堂を重視する心境が、はじめて理解出来た気がする」
「しばらくインスタントとか冷食ばかりだったんで、染みますね、これは」
横島会計も、会長の言葉に同意する。
「これ、食事は士気にかかわって来ますよ。
単純なこと過ぎて、これまで重視して来ませんでしたけど」
「あの、リクエストってやつ、いいっすか?」
常陸庶務が片手をあげて発言する。
「おれ、なんでもいいんで、肉料理食いたいんですけど」
「ああ、おれにも頼む」
鍛冶士の八尾も、片手をあげた。
「同じく、肉料理ならなんでもいい」
「生姜焼きならすぐに出来ますが、それでいいっすか?」
「おお、生姜焼き!」
「おおいに結構だ!」
常陸と八尾の声が、明るくなった。
実は、肉料理のリクエストが来るとは予想していたので、生姜焼きは事前に仕込んであった。
肉は、以前に調理したイノシシっぽい動物のものを薄切りにして使用している。
恭介は仕込み済みの肉に生姜と醤油などからなるタレを混ぜ、カセットコンロで熱したフライパンの上に置く。
生姜と甘辛いタレの匂いが、周囲に広がった。
「ご飯と相性がいい臭いだ」
浅黄紅葉が、ぽつりと呟く。
恭介は小皿二皿に完成した生姜焼きを取り分けて常陸と八尾の前に置き、残りの生姜焼きを大皿に盛って、テーブルの中央に置いた。
そして、残りの全員にも小皿を配る。
「あの、ベーコンエッグって出来ます?」
「焼き鳥食べたい!」
「ベーコンエッグはすぐ出来る。
焼き鳥は、冷凍のを買って七輪で焼くくらいなら可能。
ただし少し時間がかかる」
これがきっかけになって、次々にリクエストが殺到した。
ホスト側である恭介たちトライデントの三人は、しばらくそのリクエストをこなすのに忙殺される。




