発注
屋上の防水処理も滞りなく終わり、三人はそのまま酔狂連の拠点へと向かう。
マウンテンバイクに乗っていけば、時間はさほどかからなかった。
昨日訪れた場所まで移動してから通信で案内を乞うと、昨日のように瓦礫の山が割れて階段が現れる。
「このギミック、なんの意味があるのかな?」
「趣味じゃない?」
などといいながら、三人は階下に降りた。
「昨日はご活躍だったようだね」
ガラス天井の広間に出ると、開口一番、三和がそんなことをいって来る。
「動画は、こちらでも堪能させて貰っているよ」
「そりゃどーも」
遥が、不機嫌な声で応じた。
どうやら、あの動画が公開されたことを不本意に思っているらしい。
「それで、今日は相談があるとのことだが」
「はい。
メインの用件は、こちらの恭介用の新しい武器をこちらで作って頂きたい、ということですね」
彼方が事務的な口調で続ける。
「実は恭介が昨日の夜に、新しいジョブを得まして」
滅多にあることではないので、流石にここまでは説明していなかった。
「新しいジョブ、か」
三和は複雑な表情になった。
「君らばかり、ほいほい出るもんだなあ。
新たらしいジョブを見つけたとかいう話、他のパーティで聞いたことはないぞ」
「こちらも別に、狙って見つけているわけでもありませんので」
彼方は、軽く流す。
「ですが、見つけてしまったものは仕方がない。
せいぜい、そのジョブを活用出来るよう、環境を整えるだけです」
「それで、新規の武器を、というわけか」
三和は、納得してはない様子だったが、それでも頷いて見せた。
「こちらとしても、得がたい経験にはなるので、歓迎はするのだがね」
そのあと、新規武器の詳細な条件など、具体的な内容に移っていく。
「溢れる魔力を抑制する機構を組み込む」
「遠距離用」
「何種類かの属性魔法を、選択的に撃ち出せる構造にする」
「ダンジョンのような狭い場所でも取り回しがいいように、小型化する」
「盾との併用も想定しているので、片手で扱える形状が望ましい」
などの条件を聞いたあと、三和は少し考え込み、
「拳銃型、といったところかねえ」
と、呟く。
「銃身が短くなると、命中精度が多少、落ちると思うが」
「問題ないです」
恭介は即答した。
「新しいジョブに、狙撃手程度の命中補正は継承されるようなんで」
狙撃手のジョブ固有スキル命中補正は、かなり強力なスキルだった。
的を狙った段階で、当たるのかどうか、かなり高い精度で直感できる。
当たると思えばそのまま撃つし、当たらないと思えばフォームなり狙撃地点なりを変えて、仕切り直す。
この固有スキルを持っている限り、射撃で失敗するということは、まずない。
その新武装で狙えない距離に狙撃対象があった場合は、例の弓なり別の火器なりに持ち替えれば済む。
前提として、そこまで長距離有効射程を、恭介はその武器に求めてはいない。
なお、料金の方は、
「原材料も製造にかかる時間も読めない」
とのことで、見積もりも出なかった。
いわゆる、「時価」対応なわけだが、恭介たち発注者側としては、それでも別に文句はない。
なにしろ前例がないことだし、それに、トライデントはポイントを持て余しているくらいなので、仮に多少ぼられたとしても、それはそれでよかった。
「それでは、そういう条件で、うちの武器職人と相談してみるよ」
一通りの条件を聞いたあと、三和はそう結論した。
「依頼を受けることには、問題はないと思う。
今は、ちょっとみんな手が離せない状態でね。
なにしろ、昨日に在庫を一掃してしまったから、新たな在庫を作らなけりゃならない」
忙しそうでなにより、だな。
と、恭介は思う。
つまりは、それだけポイントを稼げたということだ。
「ところで、昨夜、君らの拠点の方角から、かなり大きな音が響いてきたんだが」
続けて、三和は別の話題を出して来た。
「ひょっとして、例の新ジョブというのは、その音と関係があるのではないかな?」
まあ、普通、関連づけて考えるわな。
と、恭介は思う。
タイミング的に、ドンピシャ過ぎる。
「実は……」
かくかくしかじかの経緯で実験をおこなって、と、恭介自身が説明をした。
「それで、新ジョブがアンロックされた、と」
一通りの説明を聞いたあと、三和は、感慨深げな表情を浮かべた。
「そういうことなら、うちの武器職人がきっかけになった形ではないか。
まんざら無関係なわけでもない、か。
あ、それから、他の属性魔法については、まだ実験していないはずだよね。
音は、一回だけだったし。
もしもこれから、他の属性魔法について実験をするつもりなら、事前に知らせて欲しい。
こちらも、好奇心が強い連中が揃っていてね。
そういうイベントがあるとわかっていれば、全員で見学を希望すると思う」
生徒会と、同じパターンだった。
続いて彼方が、
「酔狂連の常設販売店を」
という話題を出したのだが、こちらはあっさりと断られた。
「先に、生徒会の方からそういう話が来ていて」
ということだった。
それもまあ、そうか。
と、恭介は思う。
恭介たちが思いついて、生徒会が思いつかないわけがない。
生徒会の立場からいっても、そうした店はあった方がいいわけで。
さらにいえば、労働力の確保などの面でも、生徒会主導の方がなにかとやりやすいだろう。
恭介たちにしてみても、なにがなんでも自分たちの手で、という理由は存在しなかった。
自分たちが手を煩わせることもなく酔狂連発のアイテム類が流通するのなら、それはそれで望ましい形ではある。
「昨日の動画の話題に戻るのだが」
最後に、三和はそんなことをいった。
「想像以上だった。
高レベルのプレイヤーは、あんな動きが出来るのか。
うちの連中も興奮していて、なにやら思うところもあるようだ。
いい刺激になったと思うよ」




