会長との対話
「能力の高低は、人権に関係ないでしょう」
恭介は、口に出してはそういった。
「こんな場所に飛ばされたのはおれたちプレイヤーの責任ではないし、だとすれば同じ立場同士、助け合うべきだと思います。
確かにこの世界は、どうやら個人の能力差が大きいようです。
が、だからといってその能力差を無条件に認めてしまったら、あっという間にプレイヤー間のヒエラルキーが固定して、階級社会が出現しますよ。
おれはここに、そんな場所になって欲しくはない」
「一理ある」
小名木川会長は、恭介の言葉にあっさりと頷く。
「そうなんだよなあ。
圧倒的にハイレベルなお前たちがそういう、自分たちのことしか考えてない呑気な性格だから、こちらとしてもかなり救われている面も大きいんだよなあ。
お前らが高い笑いしながら他のプレイヤーを踏みつけにするようなやつらだったら、目も当てられん。
そうなっていたら、ぶっちゃけ、わたしら生徒会には手の施しようがない」
「ま、正直にいっちゃうと、ぼくたちは踏みつけにしたいと思うほど、他のプレイヤーたちに関心を持っていませんからね」
彼方が、冷静な声で続ける。
「これから先、ぼくたちの邪魔をしてくるようでしたら、その方針も変わってくるわけですが」
「現実問題として、今のお前らに逆らったりちょっかい出して来るような度胸を持つプレイヤー、まず居ないと思うけどな」
小名木川会長は、何故か目をそらしてそういった。
「つい今し方、だが。
お前らの作業中に昨日の映像、編集が終わってだな。
公開されたところなんだが。
お前らのパートだけ、早速もの凄い再生数になっている」
「は?」
「は?」
「は?」
トライデント三人組の声が重なる。
「コメント欄を見ると、驚き半分恐怖半分、ってところだな」
小名木川会長は続けた。
「公開してからまだ間もないってのに、凄い反響だとはいっておく。
まあ、アレを見てお前らにたてつこうとするやつが居るとすれば、それは単なるバカだろ。
容赦なく、叩き潰してよろしい。
ちょっとやり過ぎたとしても、うちの聖女様がなんとかする」
「いや、別に殺しませんから」
真っ先に立ち直った彼方がいった。
「そんなに、再生されてますか?」
「五分くらいで五千再生、回っていたからな。
ここには百五十名しかいないことを考えると、笑っちゃう再生数だろ。
ほぼ全員が、何度も再生しているとしか思えん」
「はぁ」
「娯楽が少ない環境だからねえ、ここ」
小名木川会長は、遠い目になった。
「わたしら、別に他のプレイヤーの娯楽になるつもりはないんですけど!」
遥が、強く反発する。
「っていうか、肖像権とかどうなっているんですか、それ!」
「ここは日本ではないし、日本の法律とか適用されるのかなあ」
小名木川会長は露骨に目線を逸らしたまま、そう続ける。
「それに、トライデントだけを特別扱いしているわけでもないし。
昨日の映像は、なるべくまんべんなく、すべてのパーティを切り抜いて編集しているはずで。
いやあ、うちの庶務くんが、徹夜で頑張ってくれたんだよ。
その数ある映像の中からトライデント関連だけが突出して再生されているのは、別にわたしら生徒会のせいでもないわけだし」
「ぐ」
「はい、そこまで」
言葉に詰まった遥の腕を、恭介が体の両側から掴んだ。
「ハルねー、落ち着いて。
深呼吸して。
ある程度は予想していたはずだし、そこまで怒ることでもないから」
小名木川会長と遥。
どうもこの二人は、折り合いが悪い気がする。
というより、身内の利益を最優先する遥と、すべてのプレイヤーを平等に扱おうとする小名木川会長とでは、立場的に対立することが多くなるのも必然。
と、そう考える、べきなのか。
遥はすぐに落ち着き、椅子に座り直した。
「昨日のオーバーフローで、通称が完全に定着したプレイヤーが三名居る」
小名木川会長は続けた。
「うちの聖女様も、一部では殲滅聖女とは呼ばれているんだが、それは一昨日からだからな。
昨日の分でいうと、首狩り娘、破滅の射手、それに、鉄壁領主の三名が、新たなネームドプレイヤーに加わった。
奇しくもトライデントに所属する三名が揃って、というわけだが、これも別にわたしら生徒会が意図的に流布したわけじゃない。
昨日の時点でぼちぼち噂されていたあだ名が、動画が公開されたおかげで完全に定着した形だ」
「あの」
彼方が、片手をあげる。
「他の二人は、わかるんです。
いかにも派手な活躍、していましたから。
でもぼくの場合、スキルを使って指揮していたくらいで、そんな人目に立つようなことをしていたおぼえがないんですが」
「最後の二十分くらいがなければ、そうだったかもなあ」
小名木川会長は説明する。
「まあ、それまでも、お前さんの指揮下にあった聖堂内のプレイヤーたちには、かなりの信頼を得ていたわけだが。
そうした人望に加えて、あの最後の巨大モンスター相手に、盾ひとつですべての攻撃を受け止め続けたって活躍は、どうしたって目立つだろ。
なにしろ、あの間中ノーミスで、あの巨体の攻撃をまともに受け続けた本人は、こうして涼しい顔をしているわけでな。
うちのカンスト聖女様だって、プロテクトで受けていたくらいだぞ。
あの巨体から繰り出された攻撃を生身で受け止めて平然としていられるのが、どう考えてもおかしい。
その、控えめにいっても、だな。
お前ら三人、揃って十分に異常だよ」
恭介としては、彼方に、
「自覚はなかったのか?」
と声をかけたかったが、その発言は自分に跳ね返ってくるような気がしたので、大人しく口を閉じていた。
「あ、あと」
おし黙った三人に向け、小名木川会長は、続ける。
「昨日の実験とやらは、まだ雷属性だけなんだろ?
他の属性について実験する時は事前に知らせてくれ。
映像記録も録るつもりだし、わたしら生徒会も見学させて貰う。
自分の目で確認しないと納得出来ないことって、あるからな」
「なんか途中から、すっかり主導権握られてたね」
彼方がいった。
「なんだかんだいって、人あしらいが巧みなんだよなあ。
あの会長」
生徒会執務室を一度辞した三人は中央広場に出て、そこでテーブルと椅子を出して休憩していた。
彼方は冷静だったが、遥は、
「あの女、ムカつく」
とか、ぶつくさ小声で呟いている。
遥の性格を考えると、特定の個人にここまで敵愾心を燃やすのは珍しい。
というよりも、恭介の知る限り、はじめての事例ではなかろうか。
「キョウちゃんは、あれに腹立たないわけ?」
そんなことを考えていると、遥から、そう水を向けられる。
「腹が立つ、ってことはないかなあ」
恭介はことさらにゆっくりした声を出した。
「あの人にはあの人の立場があり、おれたちにはおれたちの立場がある。
時に衝突することもあるだろうけど、たいていの問題は交渉すればなんとかなる。
そんなもんだと思うよ」
「そりゃ、そういう理屈はわかるんだけどね」
遥は、小声になった。
「でも、ああ!
腹が立つのは、どうしようもないじゃない!」
周囲から、
「おい、あれ」
「例の」
「動画の」
「怖いやつらだ」
「目を合わせない方が」
などという声が漏れ聞こえてくるわけだが、とりあえず三人とも無視している。
あえて相手にしても、益がないからだ。
「休憩終わったら、防水処理をすればここでの仕事は終わりだから」
彼方だけが、いつもの通りだった。
「酔狂連の人たちに、相談しにいくってアポ取っておくね」




