適性
交替でシャワーを浴び、夕食の準備がおおむね終わったところで、魔法少女隊の四人が帰って来た。
どうやら赤瀬の運転で帰って来たらしく、赤瀬を除く三人の顔色が如実に青白い。
「今日はご馳走だから、さっさとシャワー浴びてくるように」
恭介たち三人の住処に顔を出した四人に対して、彼方はそう告げた。
特に断りの連絡でもない限り、この四人の分も夕食を用意することが当然になっている。
四人はそそくさと去って、いくらもしないうちに戻って来た。
「え。
すき焼き、ですか?」
「市販のタレを使ったものだけどね」
彼方はいった。
「ただ、肉はそれなりに値が張るのを選んだから、心して味わうように」
「そりゃあもう」
「こっちに来てすき焼きが食べられるとは思わなかった」
「材料、いくらでもマーケットに売っているじゃん」
魔法少女隊も、ポイントには不自由していないはずである。
「いや、自分たちで用意すると、ついつい出来合いのものになりがちなんですよ」
「自分で作るとなると、ハードルが」
「別に手の込んだもの、作っていないんだけどなー」
「そんなことよりも、早速いただきましょう」
「君ら、結構遅くまで向こうに残ってたね」
「あー。
なんか、いきがかりで聖堂の改装を手伝うことになって」
「重機動かせるから、って、張り切った子が出て来まして」
「あそこ、本当に銭湯にすんの?」
「聖女様は、本気のようで」
「ただ、排水溝から整えなけりゃ駄目なんで、結構規模の大きい工事にはなりそうです」
「あそこだと、水、どこに捨てるの?
近くに河川とかなさそうだけど」
「なんか、地下に下水道みたいなのはあるっぽいんですよねえ。
もう半分以上、埋もれているみたいですけど」
「住人が居た頃は、それなりに発展した町だったのかなあ」
「建築物とか、残ってるもの見ていると、技術的にはそれなりだったと思いますが」
「今後もあっちを手伝うの?」
「さあ、どうでしょ?」
「手伝ってもいいけど、こっちの進展も気になるし」
「先に、最低でも洗濯出来るようにはしておきたいかな」
「そうだね。
明日はまず、給水塔の設置。
それ以降のことは、設置が終わってから考えましょう」
「さんせー!」
「実は生徒会から、中央広場の舗装とか頼まれているんだけど」
彼方は、そう切り出す。
「あと、今日壊した屋根の補修とかも。
よかったら、手を貸してくれるかな?」
「生徒会絡みかあ」
「広場、ボコボコになってますもんね」
「市内のことに、別にこっちが手を貸す必要もないと思いますが」
「それはそうだけど、最初にある程度手本を見せてから、あとは人任せにするのはありかな、と」
彼方はいった。
「ノウハウの伝授も含めて。
義理はないっていえばその通りなんだけど、かといってなにもしないでいても、妙な恨みを買うだけだし」
「ああ、なるほど」
青山が頷く。
「一種の懐柔策、ですか。
トライデント、かなりポイント集めている形ですもんね」
「市内の環境を整えることは、こっちにもメリットあるしね」
彼方は説明した。
「生徒会、今後は本格的にあの廃墟の改装を進めるつもりらしいし。
そこでなんにもしないとなると、こちらを見る目が冷え込んでくる、っていうか」
「わかりやすく、こんだけ貢献しているんだぞ、っと、見せつけておきたい。
と」
仙崎も、彼方の言葉に頷いた。
「そういうヘイト管理、っていうか、イメージ戦略、意外と大事ですもんね」
「わたしは、重機使う機会が増えるのなら、なんでもいい」
これは、赤瀬の意見になる。
「どの道、聖堂の仕事は手伝うつもりだったしね。
あっちに、知り合いも増えたし」
緑川は、一人で黙々と肉を食べ続けている。
夕食後、恭介は自分のステータス画面を操作する。
「誰か、魔法の杖、貸して貰えないかな」
「はい、どうぞ」
近くに居た仙崎が、自分の杖を差し出した。
「それで、どうするんです?」
「今日、出先で、おれに魔法の才能みたいなのがあるかも、っていわれてさ」
恭介は説明する。
「ちょっと、試してみてもいいかな、って。
一度、魔術師に転職して」
「なるほど」
仙崎は頷く。
「そういえば師匠、まだ、魔術師になったことなかったですもんね」
「恭介」
彼方がいった。
「試すのはいいけど、建物とかに被害が及ばないように気をつけてくれよ」
幸い、彼方が防壁で囲った土地はかなりの広さになり、被害が及びそうもない場所もかなり広大に残っている。
というか、そうした手つかずの場所は、ほとんど周囲の森と区別がつかない状態だった。
他の住人たちも、杖を手にした恭介のあとをぞろぞろとついてくる。
「ええと、雷魔法のスキルを取ればいいのか」
ステータス画面を操作し終えてから、恭介は借り物の杖を掲げた。
「ええと、スパーク」
なんとも気のない声を出す。
と、次の瞬間、見守る面々の二百メートルくらい先がまず真っ白になり、続いてとんでもない轟音が鳴り響く。
その音が収まった時には、原生林と同じだった場所に、円形に焼け焦げて炭化した木々が積み重なっている状態になっていた。
「これ、自然破壊じゃない?」
冷静な声で、遥が指摘をする。
「開けた場所に居る、何千とか何万単位の軍隊相手になら、無双出来そうだね」
彼方は、そう評価した。
「ただ、普段は使わない方がいいと思う。
ダンジョンの中はもちろんのこと、町中なんかで使ったら、被害がとんでもないことになる」
「師匠は、その」
仙崎がいった。
「魔術師のジョブには、就かない方がいいかも。
適性があり過ぎて、かえって使いどころがないっていうか」
「とりあえず、これ、返す」
恭介は仙崎に魔法の杖を返した。
「ジョブに関していうと、狙撃手で全然不満がないからなあ」
そういい終えた恭介は、自分のシステム画面を操作してジョブを元に戻そうとした。
そして、操作をする手が、一度止まる。
「ん?」
見ると、ジョブ画面に新しいジョブが加わっていた。
「雷撃士、って、なに?」
その時、生徒会から連絡が来て、
『今の轟音はなんだ?
こっちにまで鳴り響いてきたぞ』
との問い合わせが来た。
対応した彼方は、説明するのに苦労した。
「雷撃士、ねえ」
彼方は呟いた。
「システム画面の説明書きによると?」
「遠く離れた場所を雷で撃つことが出来るジョブ、だそうだ」
恭介が続けた。
「狙撃手の性能に、雷属性の魔法を上乗せしたような感じ。
なのかなあ?」
「それって、さ」
遥が推測を口にする。
「他の属性魔法を使ったら、やっぱり別のジョブも生えてくるのかな?」
「かも、知れないね」
彼方がいった。
「恭介が狙撃手になったこと。
無属性の魔法を使ってばんばんモンスターを倒したこと。
それに、今、魔術師としての力を行使したこと。
新ジョブがアンロックされた原因として考えられるのは、それくらいかな?」
「さっきの雷属性魔法、ちょっと凄過ぎましたから」
赤瀬がいった。
「たとえ条件がわかったとしても、あれだけの威力がある魔法を使えるっていうのが条件なら。
誰にでも真似が出来る、ってわけではないですね」
先ほど、生徒会からの問い合わせに対しては、
「ちょっと魔法の実験をしていただけ」
とのみ、答えている。
一応、嘘ではない。
恭介の新ジョブについては、
「もう少し調査して、詳細がわかってから報告しよう」
と、彼方が、判断したからだ。
他のプレイヤーにも再現性があるのかどうかわからない現状では、急いで報告してもあまり意味がなかった。
「ちょっと、まとめるね」
遥が片手をあげて、発言する。
「キョウちゃんの新ジョブについては、他の属性魔法を使った場合も生えてくるのかどうか。
これを確認してから、生徒会に報告する。
再現性の有無は、あっちで確認して貰おう。
ってか、まず狙撃手がキョウちゃん以外にいない現状だと、確認しようもないのか。
じゃあ、生徒会に報告しても仕方がないのかな?
で、キョウちゃん個人のことをいうと。
明日以降、酔狂連に頼んで、専用の武器を作って貰おう。
ええと、属性魔法が使える飛び道具。
狭い場所とかでも使えるように、威力をナーフして調整可能なものが、望ましい。
うーん。
それ、と。
取り回しのこととかも考えて、拳銃型、とかどうかな?」




