各種の条件
「あと、気をつけなければいけないのは」
恭介は続けた。
「チュートリアルの時もそうでしたが、終了する条件が提示されていないんですよね、これ。
最初にダンジョンをクリアすれば、とか、すべてのダンジョンをクリアすれば、という条件は、どちらもプレイヤーがボーナスを得るための条件で。
どうすればゲームを終わらせられるのか、明記されていないんです」
「……いわれてみりゃ、そうだな」
これまでを思い返してから、小名木川会長は頷く。
「今回チュートリアルが終わったのは、あー。
多分、だが。
達成率が百パーになったからだ」
「今日のは、百パーだったんですか?」
「そうだ。
昨日、今日と百パーだったが、昨日のはかなり特殊な例になるからなあ。
純粋にプレイヤーの力とは、いえない。
というか、こちらに有利な条件ばかりが重なった結果、だから」
「なるほど」
恭介は頷いた。
「ダンジョン攻略の場合、どうなればその百パーになるんでしょうね?
すべてのプレイヤーが、すべてのダンジョンを攻略し終えたら?」
「だとすれば、気が遠くなるな」
小名木川会長は首を横に振った。
「ただでさえ、今の時点ではダンジョンの規模がわかっていないってえのに。
まあ、生徒会の仕事としては、当面、やることは変わらないんだが」
「お疲れ様です」
恭介は、もっともらしい顔をして頷く。
「あ、お前らもな」
「はい?」
「うちの屋根も早々に直して貰わんといかんが、それ以外に、ここの舗装もやっておくように」
「ここ、とは?」
「中央広場の地面、な。
ここをほじくり返したのは大半、お前らのパーティだ。
それにここは、今は宙野弟の所有ってことになっている。
責任持って整備しておけ」
「あ、はい」
恭介としては、頷くしかない。
生徒会も他のプレイヤーも、現状では結構いっぱいいっぱいなはずであり。
それくらいの負担を負うくらいなら、仕方がない。
と、そう思えた。
いずれ手を着けるにしろ、今日中は無理かな、とも思う。
今の中央広場は、チュートリアル終了に浮かれたプレイヤーたちが多数集まっていて、かなり浮かれた様子になっていた。
今から人払いをするのも大変そうであったし、恭介にしても、別に急ぐ理由もない。
「ちょっといいか、君」
小名木川会長が去ると、周囲でやり取りをしていたプレイヤーたちが恭介に殺到する。
「訊きたいことがあるんだが」
「と、いわれましても」
恭介は両手を横に広げる。
「おれ、皆さんと同じ、一プレイヤーに過ぎません。
皆様に教えられることなんて、なにもないと思いますが」
「いや、さっきの会長とのやり取りを見てればわかる。
まだまだ君は、隠していることがあるはずだ!」
わいわいと、多人数に囲まれて、そんな意味のことをいわれた。
なんというか、その場に居るプレイヤーは、みんな、殺気立っている。
「今、おれが会長に話した内容はすべて、そういう解釈も可能だ、という程度の確度の低い情報に過ぎません」
恭介は冷静な声で指摘をする。
「今の時点では、単なる推測に過ぎない、っていうか。
なんなら、皆さんでも自分で考えれば、これくらいの結論は導けるものと思います」
恭介としては、自分の推論などに過度の価値があるとは、考えていない。
「これくらい、誰でも頭を働かせれば出て来る結論だろう」
というくらいの評価しか、していなかった。
「では、仮に君が、最初にすべてのダンジョンをクリアしたとしたら、システムになにを願う?」
「おれなら、そうですね」
恭介はほんの数秒、考える。
「元の世界への帰り方を、質問すると思います」
なにしろ、この世界は。
各種のインフラもない。
まともな医療もない。
現状、マーケットが存在するからどうにかなっているが、その状態がいつまで続くのか、なんの保証もない。
マーケットが存続したとしても、なんらかの事情でポイントを稼げなくなれば、そこで詰む。
生存に不利な要素ばかりであり、恭介としては、早々に帰還したいところだった。
「ああ」
「それは、そうか」
恭介の回答を聞いた者が、みんな、がっくりと肩を落とす。
「念のために訊くが、君は、元の世界へ戻る方法を知らないんだな?」
「知っていれば、今、こうしてこんなところに居ませんよ」
恭介は、素直にそう答えた。
「かけらもヒントを得られていないから、ここに居るわけで」
「まあ」
「それは、そうだよな」
「ダンジョンが出来るまでにやっておくべきこと、って、なにかないか?」
「生活環境を整えてください」
恭介はいった。
「規則正しい生活を送る。
日中は適度に運動する。
食生活にも気をつける」
常識論の域を出ていないが、こんな状況ではことさらに気をつける必要がある。
と、恭介は思っていた。
フィジカルな不調は、メンタルにも影を落とす。
不安要素は、ひとつひとつ、丁寧に、潰していくしかない。
「ダンジョンが使用可能になる前に、ポイントを稼ぎたいんだが」
「ああ、それならね」
遥が、割って入る。
「森の中に入って、そこの野生動物を狩る。
あれ、結構ポイント稼げるよ。
同じサイズなら、チュートリアルで出て来たモンスターより少し割増しって感じ。
個体によって差はあるけど、二割から五割増しくらいにはなる」
「森、かあ」
「市街の外に出る発想はなかったな」
「野外で活動するわけだから、それ用の用意をしておかないと、自分が困ったことになるよ。
服装とか靴とか、ちゃんと揃えて。
ジョブなら斥候がお勧め。
察知のスキルがあるのとないのとでは、狩り効率が全然違ってくるから」
とうとうと続く遥の説明を、真面目にメモし出す者も居る。
「PPではなく、CPだけなら。
別に狩りをしなくても、生徒会の仕事を請けるだけでも得られるんじゃないかなあ」
ぼそり、と、恭介が呟いた。
「今、PPってそれほど切迫して必要でもないわけでしょ。
この先はどうなるか、わからないけど。
CPとか地道に稼いで、レベルをあげるって道もある」
「それも、そうか」
「市街内部整備の仕事は、確実に増える。
とか、いってたもんな」
「おれたちだって、いつまでも瓦礫の中で生活していたくはないし」
「CPってのは、どうも、誰かのためになることをすれば発生し、稼げるシステムのようですから」
恭介は、そう結論した。
「チュートリアルと次のゲームの合間で、余裕のある今のうちに、いろいろ試していてもいいかも知れませんよ。
どういったことをすればどれくらいのCPが発生するのか、その条件の検証、とか」




