乱戦(七)
五日目、AM12:16。
「あれ?」
吉良明梨はかたわらに立っていた左内覇気を見た。
「中央広場の方、だと思います」
「やっぱり」
吉良は左内の言葉に頷き、思案顔になる。
「と、すると。
別に、明日まで待たなくてもいいか」
「すぐにいきますか?」
「その方がいいみたい」
二人はそのまま自分のステータス画面を開いた。
『パーティ「Sソードマン」から脱退しますか?
YES/NO』
YES
五日目、AM12:16。
「ん?」
坂又満は中央広場の方に顔を向ける。
「どうしました?」
「なにか、感じないか?」
「え?
別に、なにも」
「すまないな、竹屋。
ちょっと急用が出来た」
坂又はマーケット画面を開いてなにやら検索をする。
「と。
これが、一番早そうか」
坂又はマーケットからそのままスクーターを購入。
燃料が入っていることを確認し、坂又はスクーターに跨がる。
「あとは適当にやっておいてくれ」
「え?
ちょっと、隊長!」
パーティの他のメンバーを残して、坂又はスクーターを走らせる。
五日目、AM12:16。
新城志摩は自分の肩を抱いて身震いした。
悪寒と嫌悪感が綯い交ぜになった、これまでに感じたことがない感覚。
これは。
新城は、中央広場がある方角に向き直る。
あっちから、かあ。
錯覚では、ないらしい。
「どうしました?」
「うん。
ちょっと、説明をするのが難しい」
志摩は北畠ゆかりにいった。
「中央広場で、なにかが起こるみたい。
予感、よりも、ちょっと確実なもの。
だと思う」
「ああ」
北畠は頷く。
「高レベル者にか感じられないなにか、ですか?」
そういうこともあり得る世界、なんだろうな。
北畠は、ある種の諦観とともに、そんな風に納得をした。
「呼ばれている感じがするのなら、いってください。
なにも感じない人は、いっても役には立たないってことなんでしょうし」
五日目、AM12:23。
恭介は中央広場に面した窓際に立ち、彼方を手招きする。
「これ、あそこに投げて」
マーケットからある物品を購入し、広場の中央を示しながら彼方にも手渡した。
「なにこれ?」
「スタングレネード」
「なる」
彼方は頷く。
「誰かを、あぶり出すんだ」
「おれなら、あそこから狙うかな」
いいながら、恭介はスタングレネードを対面にある建物の屋上に投げる。
ほぼ同時に、彼方もスタングレネードを中央広場中心部、六角柱のプロテクト結界に投げる。
恭介はそのまま例の弓を取り出して引き絞った。
「居た」
二カ所で大きな閃光と音が発生し、生徒会執務室が入っている建物の屋上に、弓を構えた影が浮かびあがる。
その影も、弓を恭介の方にむけ、放った。
恭介は、すでに弦を放している。
確かに、恭介は敵が放った矢がまっすぐこちらに向かっているのを認めた。
しかし、恭介の放った純粋魔力はその矢もろとも対面の敵まで捕らえ、まっしぐらにその存在を消失させる。
「あ」
恭介は、間の抜けた声を漏らす。
「屋根まで、少し削ってしまった」
五日目、AM12:23。
装備を身につけた筑地副会長、結城紬、結城ただしの三人が中央広場を歩いていた時、プロテクト結界で作られた六角柱の目前で閃光と轟音が発生した。
「なにでしょうか?」
反射的に手をかざして突如発生した光を視界から遮りながら、結城紬が疑問を口にする。
「閃光弾、スタングレネードという物だと思いいます」
筑地副会長は冷静な声で答える。
「おそらく、聖堂側の人が仕掛けたのかと」
「ああ。
あの方々、ですね」
結城紬は頷く。
「いわれてみれば、らしいのかも知れません」
「どうやら本命は、あちらのようですが」
筑地副会長は背後の、たった今三人が出て来た建物の階上を指さす。
「あ」
そちらの方に視線をやり、結城紬は目を見開いた。
「屋根、なくなっていますね」
「そこに敵が居て、勢いが余ったものと推測されます」
「なんだか、あの方々らしい」
「おーい!
今から、武器を投げるからぁ!」
対面の建物、聖堂の二階からそう声が聞こえて、ついで、彼らの前になにかが投げつけられる。
その物体は彼ら三人の足元に突き刺さった。
「魔法攻撃を弾く剣!
こっちでは使わないから、そっちで好きに使って!」
「だ、そうです」
足元に突き刺さった剣の柄を握り、抜きながら筑地副会長がいう。
「では、これはただしくんが使用してください」
「いいんですか?」
ただしは、質問しつつ、その剣を受け取る。
「ぼくには、これがありますから」
筑地副会長は自分の腰に装備した剣を手で示した。
「将軍の佩刀、だそうですから、それなりの業物だと思います」
筑地副会長は、その剣をはじめとして、前日に結城紬が壊滅させたスケルトン軍の装備一式を身につけている。
現在、生徒会の手持ちの中で、それが一番高性能だったからだ。
恐縮した風ながらも、筑地副会長から巨大な湾刀を受け取ったただしも、甲冑などの防具は同じスケルトン軍のものを着用している。
「わたしたちを、律儀に待ってくれていますね」
六角柱の結界に目をやりながら、結城紬は呟く。
「余裕、でしょうか?」
「単なる個体の性格、かも知れません」
筑地副会頭は、そう応じる。
「聖堂の方では、すでに戦闘があった様子ですし」
六角柱の結界の中には、三体の敵が立っていた。
結城紬のものと似た、豪奢な錫杖を持つ個体を中心に、甲冑を着込んだ個体と大きな杖を持つ個体が、左右を固めている。
「外見から判断するなら、回復役を守る戦士か剣士、それに魔術師、といったところですが。
予断は、禁物ですよね」
「プロテクトが使えるということは、わたしと同等の能力を持つということ」
結城紬は推測を口にする。
「この中の一体は、倒れた仲間を復活させる能力があるかも知れません」
「いずれにせよ、一筋縄ではいかないでしょうね」
筑地副会長は、そういって頷いた。
「支援もあるのでしょうが、この三人だけで倒すくらいの心づもりでいきましょう」
他からの手助けを最初からあてにしているようでは、おそらくは倒しきれない。
それくらいの力量を持つ三体だ、と、筑地副会長は想定している。
レベルカンストしている結城紬はともかく、筑地副会長と結城ただしも、すでに五十以上にまでレベルアップしていた。
それで目前の敵に届くのか、どうか。
そこまではわからなかったが、プレイヤー内の水準からいえば、決して低レベルというわけでもない。
全身全霊を込め、全能力を解放して挑む。
現状では、それくらいしか、やりようがなかった。
不安も大きかったが、他に選択肢がない。
「プロテクトも、バリヤーと同じく、想定した負荷を上回る攻撃を受ければ解除されるんですよね?」
筑地副会長は、結城紬に確認した。
「そのはず、です」
結城紬は即答する。
「あれがわたしのプロテクトと同等のものであれば、ですけど」
「他に糸口もないので、まずはあれを壊すことからはじめましょう」
筑地副会長は自分の剣を抜きながら、いった。
「正直、他の方法を思いつきませんので」
ローバーフロー全体の傾向を見る限り、どうやらこれを仕掛けた何者かは、プレイヤー側の対応や成長具合を確認する意図を持っているように思えた。
段階的に出現するモンスターの強さや難易度をあげるなど、そうした調整をおこなっている節がある。
いや、プレイヤーをこんな場所に連れて来たところから、なんらかの試験がはじまっているのかも知れない。
試される側としては、巨大な迷惑でしかないのだが。
「ではまず、あのプロテクトへの攻撃からはじめます。
これを壊さないことには、中に居る個体まで、攻撃が届きませんから」
筑地副会長はそういって、持っていた剣を大きく振りかぶった。




