乱戦(五)
五日目、AM12:22。
聖堂の屋上で、のことである。
「やっべぇ」
小さく呟いて、恭介はその場から跳んで離れる。
察知スキルが、これまで最大の危機が近づいていることを告げていた。
以前、狙撃されかけた時の比ではないくらい、危険度を。
しかし、それがどこから来るのか、わからない。
恭介は油断なく周囲を伺い、同時に、倉庫で防具になりそうな物を検索する。
ぞわ、と、全身の毛が逆立つ感覚。
同時に、うなじの辺りに大きな衝撃。
どうにか倉庫から引き出せたスケルトンの大盾は、大きく変形して使い物にならなくなっていたので、すぐに倉庫に戻した。
かなり危ないやつだな。
と、恭介は思う。
心臓の鼓動が、さっきからうるさい。
敵の姿は、相変わらず見えなかった。
遥と同じような、忍者タイプ。
ことによると、忍者のさらに上位職、かも知れない。
もしも、その手のジョブが背後から首を狙って来る、という知識がなかったら。
恭介はなにも警戒しないまま、首を落とされていたはずだ。
参ったなあ。
相変わらず周囲を警戒しながら、恭介は思う。
敵は、明らかにこちらよりも格上。
相当のことをしないと、その敵を出し抜くことは出来そうにない。
これまでで一番の危機、かも知れない。
五日目、AM12:22。
聖堂の二階で、のことである。
「あ。
やば」
中方広場の異変を真っ先に察知した彼方は、小さく呟いたあと、
「みんな!
うしろに逃げて!」
と、叫ぶ。
「あれ、プロテクト、ですかね?」
彼方の視線を追って中央広場を見おろしていた青山が、いった。
「聖女様と同じスキルを使う敵、ですか」
広場の中心部には、六角柱の透明な力場が発生していた。
その力場が、銃弾だろうが魔法だろうが、関係なくすべての攻撃を跳ね返している。
「あれだけだといいんだけれど、ね」
彼方は、そう返す。
「一体だけ、ってことはないだろうなあ。
って!」
「改めて、この周囲にバリヤー張ってます!」
彼方と青山が見ている中、そのプロテクトの力場から、一体の影が飛び出し、まっすぐこちらに向かって来る。
一度、聖堂前に張り巡らされていたバリヤーによって動きを阻まれるものの、それも一瞬だけのこと。
その影が腕を一振りすると、バリヤーはあっけなく破砕されてそのまま消失した。
「あのバリヤー、かなり念入りに強度を高めていたんだけど」
彼方は、内心で呆れる。
結界術のバリヤーは、限界強度を超える負荷がかかると、そのまま壊れる。
結界前に張ったバリヤーは、彼方の他、数名で強度を高めた特別仕様だったが、あの影をそれを一挙動で壊してしまった。
パワータイプかなあ。
と、彼方は予想する。
おそらくは、ジョブでいえば戦士型。
正直にいえば、あんまりやり合いたくない相手だ。
その影が、今、彼方と青山の目の前にまで迫っている。
大きい。
身長は二メートル前後だが、甲冑などの装備を着込んでいることもあり、肩幅と体の厚みがかなり大きくみえた。
右手に刃渡りが一メートル以上もある湾刀を持っていて、その背を、自分の肩に乗せている。
「青山さんも逃げた方がよかったんじゃない?」
「今さらそれいいますか?
っていうか、あれが素直に逃がしてくれると思いますか?」
「ま、精一杯抵抗してみるか」
甲冑が右手を振ると、青山が張ったバリヤーが破砕されて消えた。
次の瞬間、彼方はアサルトライフルを腰だめに撃ち、青山は水魔法のステッキを一閃している。
しかし、その時には甲冑は移動して、その場所には居ない。
速い。
「だけど」
彼方は呟く。
「ぼく、もともと罠師だったんだよね」
彼方たちの右に移動した甲冑は、そのまま床を突き抜けて落下した。
「青山さん」
甲冑が落ちた穴に銃口を向けて、彼方はアサルトライフルを連射する。
「逃げるのなら、今のうちだよ。
あれの目的、どうやらぼくみたいだし」
これまでで一番の危機、かも知れない。
五日目、AM12:22。
生徒会執務室が入っている建物、その二階部分でのことである。
「あら、まあ」
中央広場に六角柱のプロテクト結界が発生したことを認め、結城紬は感心したような声を出した。
「これは、大変」
結城紬はそのまま踵を返し、階下に降りる階段へと移動する。
「待ってください!」
すぐに、築地副会長が結城紬を追ってきた。
「復活のスキルを持つあなたは、全プレイヤーの生命線です!」
「でも、わたしは、その全プレイヤーの中で一番レベルが高いわけですし」
結城紬は、普通の口調で指摘をする。
「立場的に考えても、皆様のため、防波堤になるべきではありませんか」
「わかりました」
筑地副会長は、「これ以上の説得は無駄」と判断し、生徒会の倉庫から装備品を取り出す。
「それでは、ぼくがあなたの護衛につきます」
「避難誘導などを、した方が」
「それは別の者がフォローしてくれるでしょう」
「ぼくもいきます!」
慌てて避難するプレイヤーの中から、一人の男子が飛び出して来た。
「ただしくん、ですか」
築地副会長はそういって、首をゆっくり横に振った。
「本音をいえば断りたいところ、なんですが。
君、今のレベルは?」
「五十三になったばかりです」
「安全の保証は出来ませんよ」
「はい!」
「大丈夫ですよ、副会長」
結城紬は、おっとりとした口調でいった。
「なにかあっても、わたしが何度でも復活しますから」
「では、ただしくんに合う防具を、見繕っておきましょう」
少し時間をかけて準備したあと、三人はそのまま階下へ、中方広場へと向かう。
これまでで一番の危機、かも知れない。




