次の敵
五日目、AM11:43。
ガトリングガンによる斉射攻撃はその後、三十分ちかく続いた。
ポイントが欲しい者は銃座が据えられた場所まで移動して、そこで順番を待つことになっている。
ガーゴイル一体を倒すと十五万ポイント前後は獲得出来るので、低レベルプレイヤーにとってはかなりおいしかった。
利用希望者が殺到したため、ガトリングガンは最終的に三台まで増やしている。
そして、その時間内に風紀委員、Sソードマンなどの有力パーティ率いる集団が中央広場付近に集まり、その全員で中央広場を包囲する形となった。
ステルス性能を用い、各所に潜伏しいた敵戦力についても、察知スキル持ちを急遽増員して走査し、対処していたので、ほとんど殲滅が終わっているもの、とされた。
仮にいくらか残存兵力がどこかに潜伏していたとしても、もはやさほど問題にはならないと、生徒会によってそう判断されたのだ。
ガーゴイルの湧き方、つまり、その速度と量は、これまでのオーバーフローを前例と考えると、そこから完全に逸脱している。
半時間も大量破壊兵器の猛攻に晒され、まだ沸いて来るわけだから、これは前例破り以前に、もっと根本的な部分で異質であると、誰もが認めていた。
今回のオーバーフローは、
「異常なことばかりだな」
というのが、プレイヤー全員が共有する所感になる。
「まあ、今さら気張ってもなんにも変わらないしねえ」
聖堂内で、彼方はすっかり緊張を解いている。
ガトリングガンが頑張っている間、彼方たちにはやることがないのだ。
魔法その他の方法で援護してもいいのだが、下手に介入すると「ポイントを横取りするのか」とか、思われかねない。
それに、
「いい骨休みになるしな」
と、彼方は思う。
今回のプーバーフローがはじまってから、この場に居るプレイヤーたちが稼働していたのは実質、一時間に満たない。
しかしそれは、実戦に晒された時間でも、ある。
心身の疲労はあるはずだったし、彼方自身、ろくに休憩を挟めなかったことに対して、忸怩たる思いを抱いていた。
そうして、この場で待機をしつつ休憩をしていると、遥や恭介、魔法少女隊の緑川と仙崎が、続々と合流してくる。
それぞれも持ち場でやるべきことを終え、手すきになった。
ということだった。
遥以外の全員が、
「生きた心地がしなかった」
と、共通の感想を述べている。
それでも、この全員は、なにかと変則的で、その場の起点が求められる状況を乗り越えてきたそうで。
「ご苦労様でした」
と、彼方は心の底から、そう労った。
「このガーゴイルで終わりだと思う?」
「だといいんだけどねえ」
恭介から問われて、遥は軽く首を振った。
「今回のはちょっと毛色が違うから、これからなにが起こっても不思議はないっていうか」
「さっき生徒会に確認したら、達成率は70パーくらいだって」
彼方は二人に情報を提供した。
「七割、か」
恭介はなにやら考え込む表情になる。
「ってことは、あと二回くらいは大きな波があるな」
「三回、かも知れない」
遥も、真剣な面持ちになる。
「本当今回は、読めない」
実質休憩中とはいえ、待機状態でもあるので、三人は窓越しに中央広場の光景を並んで見ている。
とはいえ、無限に沸いて来るように見えるガーゴイルが、そのまま銃弾の雨になぎ払われているのしか見えなかった。
銃声と石材が無理に破砕される音とが重なり合って、どうにも不快な濁音となっている。
ガーゴイルは、自分たちを破壊しているのがあの銃座であると理解しているのか、こちらには目もくれず、揃ってガトリングガンがある方向へ向かっていた、そのすべてが途上で銃弾に倒れていた。
「いやあ、凄いねえ。
現代兵器」
彼方は呟く。
「これを使うのは、思いつかなかったな。
っていうか、マシンガンにもいろいろ種類があるってことさえ、理解していなかった」
「マニア以外なら、そんなもんでしょ」
遥は、軽く流す。
「どっかにミリオタでも居たんじゃない?」
「居たんだろうね」
彼方は頷く。
「そういう、自分の知らないことを、知っているかも知れない人に訊ねる、頼る。
そういう発想自体が、なかったからなあ。
今回はなんというか、自分の至らなさを思い知らされたなあ」
「それをいったら、おれだって」
恭介も、不機嫌な顔になった。
「あやうく、殺されるところだった。
ステルス性能持ちの刺客が、あれほど恐ろしいとは」
「それ、まんま、わたしのことなんですけど」
遥も、不機嫌な表情になる。
「っていうか、そのステルス、キョウちゃんが本家本元じゃない」
「遠距離か近距離かの違いはどうあれ、ステルスな敵は怖いでしょ」
彼方はあきれ顔で仲裁する。
「姿が見えない敵は、どっちでも怖いよ。
その存在に気づく前に、自分がやられているわけだし。
君たち、大同小異だよ」
「お。
ガーゴイルの出が、鈍くなってきた」
「やっとか」
「次はどんなやつかなあ」
三人は身構え、彼方は、その場で休んでいた全員に、
「動きがあった。
全員、待機状態を解いて、次の事態に備えて」
と指示を飛ばす。
ガーゴイルがすっかり出なくなったそのあとに、中央広場に出現したのは……。
「全員、中央広場から距離を取って!」
彼方は、厳しい声を出す。
「二人は……もう居ないか」
異変を感じてすぐ、恭介と遥は自分の持ち場へ移動していた。
すなわち、それぞれが一番戦いやすい場所へと。
『あれ、なんだと思う?』
「見た目からいえば、悪魔かなんかだな。
角が生えてて、翼があって、毛皮に包まれていて」
『形だけなら、さっきまで出て来ていたガーゴイルにも似てたけど』
「今問題になるのは、やつらの特性とか能力だなあ」
『戦ってみればわかるよ』
「それはいいけど、無理はしないで」
『わかっている』
本当にわかっているのかな。
と、恭介は思う。
遥の性格を考えると、あまり信用出来なかった。
やつらの情報が欲しいのは、確かなのだが。
今、恭介は聖堂の屋上まで昇り、そこで気配などを消して、他から自分の存在を感知出来ないようにしている。
ここから一撃を食らわせて、やつらにもあの弓が有効なのかどうか、確認したいのだが。
おそらく遥が、まさに今、単身で殴り込みをかけているはずなので、身動きが取れなかった。
と。
悪魔っぽいのうち、一体の首が飛んで、その個体が消えた。
『物理攻撃有効。
首を断てば殺せることがわかった』
遥が、物騒な報告をしてくる。
「わかったから早くそこから離れて!」
恭介は、珍しく切迫した声を出した。
「やつら、どんな反応をするか読めない!」
『わかって……うっひゃぁ!』
遥からの通信は、そこで途絶えた。
下を覗いても、遥の姿は認められない。
ということは。
と、恭介は判断する。
遥は、どうやってか、逃げられたようだ。
あの魔法の一撃をまともに食らったら無事では済まされないし、そして、死んだら遥のスキルによるステルス状態も解除される。
恭介は即座に例の弓を取りだして弦を引く。
迷いも躊躇もなかった。
あの悪魔の姿をしたモンスターは、攻撃魔法を使う。
恭介たちプレイヤーが、はじめて出会う、積極的に魔法攻撃をしてくる敵、だった。
恭介は立て続けに弓を引いては放つ動作を繰り返す。
中央広場は、すぐになにも居なくなった。
『恭介!』
「なんだ?」
『もうなにも居ないよ。
やつら、ガーゴイルほどには、出て来るのは早くないみたいだ』
「そうか」
恭介は手を止めて、深呼吸をする。
「あれ、なんだと思う?」
『外見的な印象でいうのなら、悪魔だね。
印象以外に確認されたことをいうと、物理でも殺せる。
魔法でも殺せる』
「ガーゴイルよりは、脆い」
恭介も、その意見に賛同した。
「そして、多分だが、ガーゴイルよりは強い」
『根拠は?』
「ガーゴイルとは違い、やつら、自分で判断して動いている節がある。
反応に、個体差があった。
それと、やつら、攻撃魔法を使った。
見つけ次第、即始末しないと、手が着けられなくなるぞ」
『わかった。
生徒会にもそう伝えるよ。
恭介はしばらく、そこで見つけ次第やつらを始末しておいて』
「わかっている」
そうやり取りをしている間にも、恭介は何度か出現したばかりの悪魔もどきを始末している。
さてこいつらは、いつまで自分で始末をし続けることが、出来るのか。




