新メンバー
「どうするの、それ?」
「どうすりゃいいんだろうな、これ」
遥と恭介は、そんな問答をする。
「いや確かに、拒まず追い返さず、とはいったよ。
だけどこんな、いきなり距離を詰めてくるとは思わないじゃないか」
「ってか、そもそも、これなんなの?」
「いや、おれに訊かれても」
恭介も、首を傾げる。
「例の物体、石碑?
に、関係するなにか、だとは思うんだけど」
「そもそも、どうやって入って来たんだろうね」
彼方は別の疑問を発する。
「入口のところ、まだ整備していないから、通るたびに板渡して通っている状態なんだけど。
それ、恭介たちが帰って来る時、いっしょに連れて来たわけじゃないよね?」
「わたしたち三人しか居なかった、はず」
青山は即答する。
「空堀、結構幅がありましたよね」
「あるね」
彼方は頷いた。
「少なくとも、このちんちくりんが跳んで越えられる幅ではない」
「でも本当、なんなんだろうな、これ」
恭介は「それ」を見おろしながらいった。
「身長は、せいぜい一メートルそこそこ。
直立二本足歩行。
頭部が異常に大きい。
両手両足に鋭い爪。
全身が青っぽい毛皮に包まれている。
動物っぽいといえば動物っぽいんだけど、ただ、少なくとも元の世界には、似たような動物はいない。
……よな?」
「動物というより、マスコットか着ぐるみみたいな」
緑川が説明を補足する。
「一番似ているのは、あれ。
子ども向けテレビ番組に出て来る、主人公宅に居候していそうなキャラクター」
「ああー」
ほぼ全員が、その言葉に頷く。
「ああいうキャラがリアルに居ると、こういう造形になるのかなあ」
「これ、頭部の骨格が全然動物っぽくなんだよね」
彼方がいった。
「ノーズがなくて、顔が平たいし。
三角形のケモ耳っぽいのが、頭の上についているけど」
「あと、爪も牙も、体とかと比較して大き過ぎるんだよね、これ」
恭介も指摘した。
「爪、これ、長さ三十センチ、幅は五センチくらいかな。
体や腕のサイズと比較すると、大き過ぎる。
牙も、まあ、頭部自体が胴体部との比率で大きすぎるんだけど、それ考慮しても大き過ぎる。
見えている部分だけでも、五十センチ近くないか、これ。
この爪と牙のおかげで、かなり凶暴な印象になっている」
「テレビ番組のキャラなら、わざわざこんな尖ったデザインにしないでしょうね。
全体に丸みがなくて、頭部も体も角張っていますし」
仙崎は頷いた。
「爪や牙はともかく、顔の造形はなんか、可愛くないですか?
ちゃんと、というか、口の両端はきゅっと持ちあがってて、笑っているように見えなくもないですし」
「造形はともかく、全体のバランスがなあ」
赤瀬が評する。
「頭が大きすぎる、ってえか。
頭身でいうと、二・五頭身くらい?
全身の半分近くが頭で、口から長ーい牙が生えているって、少なくともお子様受けはしないと思う」
「まあ、生物、ではないでしょうね」
青山がいった。
「というか、これ、あの石碑に描かれていたもの、そのものなのでは?」
「やっぱりそう思う?」
恭介は、複雑な表情になった。
「あの浮き彫り、デフォルメされた姿かと思ってたけど、こうしてみると案外写実的だったんだなあ」
「あのさ」
遥が指摘をした。
「今、もっと差し迫った問題ってのは、この子をどう扱うのか、ってことじゃない?」
「あ」
全員の声が重なった。
「どうしよ、これ」
「正体の詮索よりも、そっちのが先だよなあ」
「凶暴そうな見た目に反して、なんか大人しくない?」
「まあ、さっきからずっと待ってくれてはいる」
「ゆっくり見渡して、全員の反応を確認している感じかなあ」
「意外に知性は高い?」
「流石に言葉は理解していないと思うけど、態度や言葉の抑揚で雰囲気は掴んでいるんじゃないかなあ」
「人に慣れているは、確実」
「緊張したり警戒したりする風ではないよね、確かに」
「こんなところまで入り込ん来て、君はなにをしたいのかなあ?」
遥が「それ」に顔を近づけて、訊ねる。
「なにか具体的な目的が、あるの?」
「うぃ」
「それ」は小さな声を出して、爪先を隣に居た恭介に向ける。
「え?
おれ」
恭介は「それ」に顔を向けた。
「おれに用があるの?」
「うぃ」
『野生の精霊(?)からパーティへの参加要請がありました。
要請を承認しますか?
YES/NO』
「……はい?」
恭介は気の抜けた声を出す。
完全に、想定外だった。
『毎度おなじみのトライデントか』
「毎度おなじみのトライデントです」
恭介が生徒会に連絡すると、すぐに小名木川会長が出てくれる。
なんか、ホットラインと化していないか?
『今日は二度目だな』
「今日は二度目ですねえ」
『それで、今度はなにをやらかした?』
「いや、別におれたちがなにかをやらかしたわけではなく、ですね。
相手の方が勝手について来たんです」
『そっちの拠点、お前らしかいないはずだったよな。
少なくとも、プレイヤーはその近くに居ないはずだ』
小名木川会長はいった。
『それで、誰が勝手について来たって?』
「精霊っぽいなにか、らしいです。
システムの画面では『精霊(?)』と表記されていました。
おそらくは、システムもあの存在の種別を正確に判定出来ていないのではないか、と」
『お前さん、昨日、神様っぽいなにかと接触したばかり、だったよな』
「まあ、そうっすね」
『……まったくもう』
小名木川会長は、ため息混じりにいう。
『呆れるのにも、飽きたわ。
お前さん、この世界のなにかに気に入られているんじゃないか?』
「その自覚はありませんが」
恭介は、話題を先に進める。
「その、精霊っぽいものが、どうもおれたちのパーティに入りたがっているようなんですが。
生徒会的には、ああいうのがプレイヤーに交じって活動してても、問題はないっすかね?」
『本音をいえば、だ』
小名木川会長は答えた。
『そんなもん、こっちで判断がつくわけないだろ』
「ごもっともで」
『こっちの都合はともかく、それは、仮にパーティに入れたとしても、うまくやれそうなのか?』
「やれるんじゃないっすかね」
恭介はいった。
「こっちのみんなは、あれにまったく反発していないですし。
むしろ、最初から仲がよすぎて困惑しているっていうか。
あれ、今、女子組といっしょに風呂に入っています」
『そういや、そっちは風呂を買ったばかりだったな。
いいなあ、お風呂』
「会長、現実逃避してません?」
『そんなことはないぞ、うん。
まあ、そっちの面子に馴染んでいるようなら、別にいんじゃね?
そっちのパーティに入れても。
そういう存在を、お前らがうまく活かせるかどうかは、別問題になるんだろうけど。
というか、正体がよくわからんなにかを自分のパーティに入れようとする時点で、お前らはこっちの予測をはるかに超えているよ。
毎回のことだし、もう慣れたけど』
「そうですか」
恭介としては、そう返すしかない。
「それでは、パーティへの参加申請を受けておこうと思います」
生徒会への報告を終えて外に出ると、風呂からあがった「あれ」を先頭に、魔法少女隊の四人が列をなして不思議な踊りを踊っていた。
「なんだ、ありゃ?」
「なんかあの子、踊るのが好きみたいね」
アイスキャンディを口から離して、たまたま居合わせた遥が説明してくれる。
「あとに続いている四人は、なんていうか、ノリ?」
まあ、あれの正体はともかく、悪いものではないんだろうな。
と、恭介は思う。




