生徒会のミーティング(三)
「他に質問がある方はいらっしゃいますか?」
小名木川会長はそういって周囲を見渡す。
しん、と静まりかえっていた。
「ちょっといいか?」
『Sソードマンの奥村氏です』
知ってる。
と、小名木川会長は心中で呟く。
「どうぞ」
「この件と直接関わりがない、わけでもないか」
奥村はそう前置きして続ける。
「基本、生徒会ってのは、自分たちで問題とかを直接解決するつもりはない、ってことでいいんだな?
今回のも、設備の提供ってはいいにしても、あとは勝手にしろってことだろ?」
そうだそうだ、と賛同する声がいくつか、あがった。
ただ、全体の人数からすると、そういう声を出したのは決して多くはない。
せいぜい、数名といったところか。
「当生徒会を構成する人員は、五名です」
小名木川会長が続ける。
「たったの、五名です。
そんな少人数では、出来ることは限られています」
「なら、なあ。
そんな生徒会がこの場を仕切っているってのは、ちょっとおかしくないか?
おれは直接見ていなかったが、昨日、そこの中央広場で、あわや集団戦がはじまるところだったって聞いているぜ。
今後そうした、力をつけたどこかのパーティが、他の生徒たちを威圧していいように使いはじめたら、生徒会で対処出来るのか?」
「もっともな懸念ですね」
小名木川会長はあっさりと頷く。
「おっしゃる通り、当生徒会は、警察や軍隊に相当する、治安を維持するための固有の武力を持っていません」
「だったら……」
「そこで!」
なにかいいかけた奥村を、小名木川会長が語気も荒く制する。
「今後の対応も睨み、新たに協力してくれるパーティを作りました。
新設したばかりのパーティ、風紀員会のリーダー、新城志摩さんを紹介します」
「ど、どうも」
小名木川会長の背後から出て来た新城志摩が、少し気後れした様子で挨拶をする。
「ご紹介にあずかった、新城志摩といいます。
その、風紀委員会のリーダーをすることになりました。
市内の見回りとか治安維持活動を、生徒会の人たちと協力してやっていく予定です。
レベルは二十八、得意技は火系の魔法、ジョブは戦士になります。
よろしくお願いします」
長身の、女生徒だった。
「レベル二十八!」
奥村が、叫ぶ。
「志摩さん、あなた!」
樋口も、叫んだ。
「あなた、うちのパーティだったじゃない!」
「昨日までは、そうですね」
新城は、頷く。
「でも今は、風紀委員会に所属しています」
「風紀委員会の志摩さんには、当生徒会からの勧めで鑑定スキルを取っていただきました」
にわかにざわめき出す会場を気にした様子もなく、小名木川会長が続ける。
「新城さん、どうでしょう。
今、この会場に居る方全員を前にして、これを鎮圧する必要が出て来たと、そう仮定します。
新城さんなら、鎮圧可能ですか?」
「ええっと」
新城は目を細めてぐるりと会場を見渡す。
「そうですね。
僭越ながら、自分なら、可能だと思います」
「出来るだろうなあ」
坂又どすこいズの坂又が、ため息混じりにいった。
「ただでさえ倒しにくい戦士をレベル二十八まで育てて、その上、広域殲滅能力に定評ある魔法も使うっていうんだろ?
下手すりゃ、一瞬で全滅だよ」
「さらに補足すると」
酔狂連の三和も、勝手に発言する。
「あの、新城って子。
バレー部のアタッカーだろ?
スキルとかジョブとか除いた素の身体能力でも、この場に居るたいていのやつより上だよ」
この二人の声はよく通り、会場にはっきりと響いた。
しばらくして、会場が静まりかえった。
「風紀委員は、この新城さんを筆頭に全六名で構成されています」
小名木川会長は先を続ける。
「全員、レベル二十五以上の戦士です。
治安維持能力としては、十分だと思います。
あともう一人、紹介したい人物が居ます」
「まだ居るのかよ」
奥村が、低く呟く。
「こちら、ユニークジョブ聖女の、結城紬さんです。
このジョブは特権的なスキルが与えられていて、それは、条件付きながら、死んだ人を生き返らせることが可能だ、ということです。
その能力の性質上、在野に置くわけにはいかないので、本人と相談の上、六人目の生徒会役員として働いて貰うことになりました」
新城のときと同じように、小名木川会長の背後から歩いてきた結城紬が、一礼する。
「ははははは」
酔狂連の三和が、突如笑い出す。
「これは、駄目だ。
誰も、生徒会に逆らえない。
死人を生き返らせるジョブだって?
そんな人材を確保したてたら、誰も逆らえないじゃないか!
いや、やるなあ。
生徒会の人たち!」
「さて」
小名木川会長はさらに続ける。
「ご存じの方もいらっしゃると思いますが、生徒会は皆様の個人データ、ポイントの推移や現在のレベル、スキルなどを閲覧する権限を持っています。
これまでは、生徒会のみで参照していたわけですが、今後、無用な混乱を避けるため、一部の情報を全プレイヤーに公開することにいたしました。
みなさま、各自、システム画面のランキングという欄を参照してください」
「なんだよ!
レベル五十超えって!」
「宙野彼方……彼方エリアの、彼方か。
だったら、まあいくかな」
「馬酔木恭介。
ああ。
あの、ちっこい鉄砲射ちか」
「初日にイグアナ野郎とやり合ってたやつだろ?
まあ、あいつなら、三十くらいにはなるか」
「レベル二十台が、魔法少女隊と風紀委員が団子になってて。
あとちょっと、女子寮チーム(仮)の子も、ぼちぼち入っている」
「高レベルプレイヤーが一目瞭然になったわけか。
少なくとも、この高レベル組に喧嘩を売るやつはいないわな」
「ここまでで、なにか質問のある方はいらっしゃいますでしょうか?」
会場が静まるまで、しばらく待ってから、小名木川会長が確認をする。
「それでは、次の議題に移ります。
全プレイヤーの人数は百五十名。
で、現在登録されているパーティの数は八十以上になります。
これ、ちょっとおかしいですよね?
パーティの数が、総人数の半分を超えています。
多分、一人パーティの方が相当数、含まれているせいで、見かけ上のパーティ数が増えているんですね。
おそらく、この会場内にいらっしゃると思いますが、一人パーティが悪いとはいいません。
ソロで活動が可能な方は、どんどんソロ活動をやってください。
ただ、そういう方は、残念ながら、生徒会が実施する、これまでに説明したような一部のサービスを利用出来なくなる可能性があります。
もちろん、排水から汚物の始末まで単身でやれるよ、って方には、通常のパーティと同じ支援をおこないます。
が、維持が難しいなと判断した方には、残念ながら、該当する設備を返却していただきます。
繰り返しますが、ソロで活動すること自体は、なんら、悪いことではありません。
ただ、他の人と同じようなサービスを受けたかったら、仮にでも方便でも結構ですから、誰かと組んでください。
提供した設備をちゃんと維持出来てさえいれば、生徒会としてはパーティ内の活動内容にまで関与することはありません。
形だけでいいので、誰かとパーティを組んでください」
「本日の生徒会からの広報は、以上となります」
小名木川会長は、そう締めくくった。
「 当生徒会の目的は、皆様を守り、皆様の活動を支援することになります。
まず手始めに、ホームレスみたいな生活を続けているプレイヤーを一掃し、生活環境を整える。
という目標を、設定しました。
あと一時間ほどで、本日のオーバーフロー現象が起こります。
皆様もお気をつけて、オーバーフロー現象に対処してください」




