総力戦(十一)
「元を絶て、ってのは、理解出来るんだけどね」
遥が合流してすぐ、恭介はそういった。
「ただ、そんなに簡単にいくのかどうか、ってのは、実際にやってみないことにはなんともいえない。
この弓、魔力弓だからさ。
これまでも、魔法を無効化するモンスターとかも、それなりにいたし」
「元、ってあれでしょ」
遥は、モンスター発生源を指さす。
「火山みたいに煙を吐き出しているところ」
「着弾と爆発で巻きあがった粉塵だね、あれは」
恭介はいった。
「今も、継続してあそこに対地砲とか爆弾とかが降り注いでいるわけで」
「ずっと、うるさいもんね」
遥は、頷く。
「でも、あの猛攻を潜って外に出ているモンスターがこれだけ多いとなると、確かにいろいろ試したくはなるかも」
「試してみること自体は、悪いことではないよ」
いいながら、恭介は弓を大きく引き、上に向けた。
「その結果までは、予想出来ないってだけで」
恭介はそのままの姿勢で、二度三度と弓を引いて、放つ。
少し遅れて、爆心地の煙が、上の方から晴れていった。
「命中したようだね」
遥がいった。
「さて、成果の方は?」
「駄目っぽい」
砂塵が晴れた次の瞬間、そこから数体のワイバーンが立て続けに現れ、そのまま上空まで飛んでいった。
そのあと、ケルベロス型やキマイラ型などの大型モンスターが、わらわらと湧いてい来る。
以前にも増して、大量に。
「どういう方法でか知らないけど、あそこに魔法の効果を大幅に減少するか無効化するなにかがあるらしいね。
ひょっとすると、物理攻撃なんかも軽減しているかも」
その様子を確認し、恭介は結論する。
「現代兵器による物理攻撃も、どこまで効果があるのか」
一気に数を増やした大型モンスターに対処するため、魔法少女隊の動きがにわかに活発化する。
Sソードマンの四人も、魔法少女隊が取りこぼした大型モンスターに対処しはじめていた。
しかし、そうした迎撃態勢をかいくぐってくるモンスターも多く、そのほとんどが一斉に恭介の方目指して向かって来る。
恭介は冷静な挙動で連続して弓を引き、そうした大型モンスターをあっけなく一掃した。
護衛、必要かな?
と、遥は内心で疑問に感じる。
「それで、司令部。
このあとは、どうしますか?」
恭介は腕の動きを止めないまま、司令部に指示を求める。
「予定通り、そのまま爆心地に向かってくれ」
小名木川会長から、通信が返って来る。
「そちらが爆心地に到着するタイミングで、砲撃も止める手筈になっている」
「つまりは、おれたちになんとかしろってことですか?」
「原因の特定してくれるだけでも、十分ではあるがな。
それさえわかれば、対策の取りようもある」
小名木川会長の返答は、にべもないものだった。
「そういう微妙な判断が要求される仕事を任せられるのは、お前らくらいしか居ないんだ」
そんなやり取りをしている間にも、増えた大型モンスターのうち、何体かが恭介たちの方に接近して来た。
四分の三くらいを恭介の射撃によって倒し、残りを遥が倒している。
「ということで、少し歩くよ、ハルねー」
恭介は、軽い口調で声をかけた。
「歩く?
走れば、あっという間なのに」
「おれ、ハルねーほど速く走れないんだよね。
たまにはこっちに合わせてよ」
実際には、二人してとぼとぼ歩いたわけではなく、恭介の速度に遥が合わせる形で爆心地、モンスター出現地点付近まで移動する。
そこに近づいていくと、連続して響き続ける着弾音や振動が大きく、生々しく感じられた。
と、いうか。
「やかましいわ!」
遥が叫ぶ。
「司令部、現地に到着しました。
一度、砲撃を止めて」
恭介は通信でそう告げながら、矢を天に向けて放つ。
細長い軌跡を描いて、無属性魔法の矢は目の前にあるモンスター出現地点に刺さった。
かなり広範囲で砂塵などが姿を消し、一瞬にして周囲の視界が晴れ、見渡しがよくなる。
「なるほど」
その光景を確認して、恭介が呟いた。
「結界術みたいなスキルを使えるモンスターが、居るわけか」
全長一メートルほどの蜂のような形状のモンスターが、モンスター出現地点上空に多数、滞空していた。
その蜂型モンスターの周囲には、球状の結界めいた力場がある、らしい。
なぜそうとわかるのかというと、蜂型モンスターを覆う球状の力場が周辺に漂う粉塵などを弾き、そこだけ透明な空間を維持しているからだ。
恭介は無言でアンチマテリアルライフルを倉庫から取りだし、蜂型モンスターの一体を狙って撃ってみる。
球形の力場に命中した銃弾は蜂型モンスターを押し出し、そうして押し出された球形力場が別の力場とぶつかり合う「玉突き状態」がしばらく続き、ピンボールかビリヤードめいた連鎖運動が起こった。
しかし、その力場の中に居る蜂型モンスターには異常がなく、力場同士が衝突した中に居た蜂型モンスターも、一時的にふらふらと頼りない飛行をするのだが、すぐに元気を取り戻し、元通りにモンスター出現地点上空まで飛行してそこで滞空する。
遥も自分のZAPガンを取り出して撃ってみたが、球状の結界に当たると霧散して、魔法は効果がないことがはっきりした。
「まいったな、これは」
恭介は、呟いた。
「魔法攻撃も物理攻撃も、何割かをあいつらが引き受けているとなると。
決定打にはならないぞ」
恭介のヘルメットに装着したウェラブルカメラを通じて、その映像は中央司令部にも送られる。
「すべての攻撃を、あれがいったん遮っている、と」
小名木川会長は、そう結論した。
「負荷が大きすぎれば、あの結界だって中のモンスターもろとも潰れるんだろうが。
それでも、あれが上空に多数たむろしている状態だと、あらゆる攻撃を一度あれが受けてから、運動エネルギーなんかが他の部分に伝わっていくわけだから。
結果として、かなり減衰しているわけだな」
「実際、常に何割かは攻撃を受け止め兼ねて、倒されてはいると思います」
築地副会長が答えた。
「それ以上の数の結界蜂が常時出現しているので、表面上は、数が減ったようには見えないわけですが」
「あの結界蜂があらゆる攻撃を何割か吸収してくれるおかげで、他のモンスターの出現数が以前よりも増えている、と」
常陸庶務が、そのあとを引き取る。
「それで、どうします?
まずはあの蜂型をどうにかしないと、すべての攻撃は威力が半減するわけですが」
「蜂型ばかりに集中していると、他のモンスターの出現を今まで以上に許すことになります」
横島会計が冷静に指摘をした。
「蜂型を含めて、しばらくはあそこに集中攻撃をするしかないのでは?」
「現代兵器による攻撃は、しばらく止めて貰った方がいいな」
思案顔のまま、小名木川会長は続ける。
「威力はともかく、あれを使うと視界が悪くなるんで、敵の損傷状況を確認しにくくなる」
「となると、肉弾戦ということか?」
シュミセ・セッデスがそういった。
「こちらとしては、そういう戦い方の方が性に合っているが」
「とりあえず、戦えそうな者をあの出現地点に集めて対応する、しか、方策がないようですな」
アイレスが、そう続ける。
「モンスター出現地点で間引きが出来ない分、モンスターの出現数がしばらく増大する形になります。
その分、これまで以上に、各所の負担が大きくなると予想されますが」
「ここへ来て、人海戦術かあ」
小名木川会長が、ぼやいた。
「昨日までは、割とうまくいっていたのに」
「嘆いていても仕方がない」
シュミセ・セッデスは決断を下す。
「場外部、並びに、城塞内部の人員については、今の仕事をそのまま続行。
それ以外の人員は、至急、モンスター発生地点へと向かい、その途上で遭遇するモンスターをすべて倒せ。
そう、命じてくれ」
「ってことらしいけど」
赤瀬が通信でパーティメンバーに伝える。
「みんな、すぐに移動出来る感じ?」
「了解」
「問題なし」
「いけるよー」
魔法少女隊の反応は軽かった。
「はみ出て来たのを叩くか、出たてを叩くかの違いでしかないし」
青山は、そう評した。
「わたしらがやること自体は、そんなに変わらないっていうか」
彼女たちは四方に散った状態で、これまで城塞屋上を移動中の大型モンスターを狩っていた。
現在の彼女たちの能力から考えると、簡単な分、単調で、退屈な仕事でもあった。
そして、移動力のある彼女たち四人は、呼びかけに応じた中では真っ先にモンスター出現地点周辺に到着し、簡易な包囲網を完成させる。
砲撃や射撃といった現代兵器が使用されない今、周辺の砂塵はすでにかなり薄くなり、見通しはかなりよくなっていた。
「ああ、あのぶんぶん飛んでいのが、結界蜂か」
間近にそこの様子を見て、仙崎が感想を漏らす。
「風紀委員長が見たら、発狂しそうな光景だ」
「その下で、モンスターが湧いて来ている」
緑川が指摘する。
「早急に対処する必要が、あり」
「とりま、大きなのを連発しておきますか」
赤瀬が、のんびりとした口調でいった。
「あんまり粉塵を巻きあげるなといわれているんで、そこは各人で工夫して」
緑川が、モンスター発生地点を中心として、巨大な竜巻を発生させる。
まず結界蜂たちも、その竜巻に巻き込まれ、上空まで吸いあげられていった。
結界蜂たちがいなくなった場所をめがけて、巨大な氷柱や円錐形に成形された土が降り注ぎ、中心部から出現したばかりのモンスターを串刺しにしていく。
「ちょっと!」
青山が仲間たちに文句をいった。
「司令部からはは、あまり粉塵を巻きあげるな、っていわれているんだけど!」




