総力戦(二)
「Sソードマンと魔法少女隊から、大型モンスターを迎撃していいかとの確認メッセージが届いています」
横島会計がいった。
「つまり、今の持ち場を離れて、城塞の屋上を移動して、ということですが」
「どうなさいますか?」
アイレスがシュミセ・セッデスに確認する。
「好きにさせてやれ」
シュミセ・セッデスは、そう応じる。
「どの道、今日は大型モンスターが多過ぎる。
多少は間引いて貰った方が、ありがたいくらいだ。
フラナ勢からは、そういう要望は出ていないか?」
「今のところは」
アトォが即答した。
「基本的に、開けた場所での狩りに慣れている人たちですから。
今のまま、城塞外にまで逃げてきたモンスターを狩っている方が、楽に仕事をこなせると思います」
城塞の屋上になると、地面ほど頑強でもないし、通路になっている場所には高低差も出来る。
フラナの狩人たちにしてみれば、慣れた環境の方で狩りをするのを好む、のだろう。
「なら、その二組だけ、迎撃に向かわせろ」
シュミセ・セッデスはいった。
「少勢でどれほどのことがなせるものか。
手並みを確認してみるか」
シュミセ・セッデスらセッデス勢は、こちらのプレイヤーがどういう戦い方をするのか、知らないからなあ。
と、恭介は思う。
ことに、ここ最近はダンジョン内部での戦闘が続いているはずだから、あちらのプレイヤーはほとんど、少人数での戦いに最適化されているのだが。
「結構、派手なことになりそうなんだがなあ」
恭介は、小声でそう呟いた。
Sソードマンと魔法少女隊、両方のパーティについて、事前に情報を持っていたからだ。
「はあ?」
案の定というか、シュミセ・セッデスが間の抜けた声をあげる。
「やつら、飛べるのか?」
「条件さえ揃えば、ですけどね」
恭介が簡単に解説する。
「基本的なスキルと、それに、あちらで得た知識を組み合わせた応用技になります。
今のところ、実際に使える人は限られているようですが」
画面の中では、魔法少女隊の四人が浮遊ボードに乗って滞空していた。
そして、適切な場所に陣取った上で、大規模な魔法攻撃が開始される。
城塞の屋上であることを配慮してか、質量攻撃を伴う土や水属性の魔法ではなく、風や雷属性の魔法を多用しているようだった。
その方が、後始末も楽だろうしな。
などと、恭介は思う。
「……大型モンスターを、あっさりと各個撃破しているんだが」
目を丸く見開いたシュミセ・セッデスが、恭介の方に顔を向けながら、そういった。
「それも、一人で一体ずつ。
いや、うちの者でもフラナの者でも、一人であの大きさのモンスターを個別撃破することは、出来ないぞ」
「彼女たちは優秀ですからね」
恭介はなんでもないことのように断言した。
「それくらいは、当然、出来ますよ」
「反対側では、勇者様が暴れまくっているし」
小名木川会長が、別のモニターを見ながら指摘する。
「あの技は、今までみたことがないな」
「うーん」
そちらに視線をやり、恭介も唸り声をあげた。
「確かに、初見ですねえ。
あれは、雷と一体化しているのかな?」
「精霊魔法の応用、みたいですね」
その画面に眼を向けたアトォが、解説してくれる。
「あれほど見事な精霊との合体技は、よほどの資質がないと成功させられないのですが」
雷光を身に纏った勇者、結城ただしは抜き身の剣を振りかざして、動く。
瞬時に百メートル以上の距離を移動し、大型モンスターを倒しては、次の大型モンスターへと移動して撃破していく。
「雷と一体化することで、だいぶ、物理的な制約から解放されているらしいな」
恭介は、そう漏らした。
「あれくらいのことをすると、体にもかなりの負担がかかるような気もするけど」
人間が人間である限り、生物としての制約は存在する。
本来のあり方からかけ離れた活動をすると、生体の部分に負荷がかかるのではないか。
恭介は、そう考えた。
「それは、姉貴の聖女様にあとで頼むんじゃないか?」
小名木川会長は、指摘した。
「回復なら、聖女様の十八番だ」
それもそうか。
と、恭介も納得する。
いずれにせよ、恭介としては、ああいう無理なやり方は、頼まれても真似したくはなかったが。
Sソードマンの他の面子も、結城ただしほどには派手な活躍はしていなかったが、それぞれの方法で着実に大型モンスターを始末していた。
雷と一体化した勇者様ほどの機動力は望めなかったので、他の面子は固まって動いている。
ゴツい甲冑を纏った美濃が大型モンスターの前に出て、他の三人が側面、あるいは後方から攻撃をする。
という、スタイルらしい。
楪は銃撃、奥村は片刃剣で斬りつける、という差こそあるものの、この二人はモンスターを左右から攻撃する役割になる。
残る一人、内海は、モンスターの背後、あるいは、モンスターの背に乗って、攻撃を敢行していた。
内海のジョブは、ストーカーっていっていたっけか。
確か、ステルス状態になることが可能なジョブで、モニター越しにはわからないのだが、モンスターからは感知不能な状態になっているのだろう。
一体の大型モンスターを四人で同時に、別の方向から攻撃しているため、攻撃を受ける側のモンスターの注意も一カ所に固定されず、結果としていい感じに袋だたきになっていた。
接触するやいなや、一撃でモンスターを撃破してしまう勇者様ほどではないが、この四人もかなりの短時間で大型モンスターを沈め続けている。
むしろ、この四人に関していえば、モンスターを倒したあと、別のモンスターが居る場所まで移動する時間が、ボトルネックになっている印象を受けた。
「それぞれの能力に応じた、的確な戦い方だな」
シュミセ・セッデスは、こちらのプレイヤーの戦い方を観て、そう評する。
「空を飛ぶ者らと、雷光を纏った者。
あれらは別格にしても、あの四人も十分に健闘している。
というより、うちの者らに真似をさせるのならば、あの四人のやり方になるのだろうな」
そうなるだろうなあ。
と、恭介も心中で頷いた。
勇者様と魔法少女隊の方法は、誰にでも真似できるというわけではない。
その点、あの四人の方法は、ある程度の再現性があった。
十分な訓練をすれば、セッデス勢の人たちでも同じようなことは出来るだろう。
「健闘しているのはいいが」
モニターを注視しつつ、小名木川会長が指摘をする。
「それにしたって、大型が出ているペースが早すぎる。
このままだと、いつかは抜かれるんじゃないか?
あ。
今度は、ワイバーンまで出て来た。
次々と、空へ逃げている」
「ちょうど、こちらも遅れていた航空戦力が着いたところです」
アトォが、澄ました口調で告げる。
「合計で、三十体ほど、だそうで」
「航空戦力、だと?」
小名木川会長が、アトォの方に顔向けて訊き返す。
「そんなもの、この世界にあるのか?」
「あるようですね」
恭介が、あるモニターを指さす。
「大きな鳥に乗っています」
「おお」
その様子を確認した小名木川会長は、感心した声をあげていた。
「絵本かファンタジーでしか観たことがない光景だな」
「ダカライの戦士たちまで来てくれたのか!」
シュミセ・セッデスが大きな声を出す。
「夜を徹して飛び続け、ようやく到着したようです」
アトォが、そのように説明してくれる。
「その割には、やる気は減じていないようですが」
「さもあろう」
シュミセ・セッデスは大きな声をでそういったあと、一人、頷いた。
「ダカライの戦士が来てくれたのなら、空の守りは万全だ」
そのダカライとかいう集団は、ここでは有名人らしいな。
と、恭介は推測する。
単純に、空を飛ぶ戦闘集団が珍しい、ということもあるだろうし。
それに。
と、恭介はモニターの様子を見て、考える。
巨大なワイーバーン一体の周囲に、ダカライの戦士が乗った鳥形のモンスターが数体ずつ、群がっていた。
遠過ぎてモニターの中でも点のようにしか見えないのだが、彼らが乗る鳥形モンスターは、ワイバーンよりもかなり小さい。
ワイバーンのサイズが全長二十五メートル以上とすれば、猛禽に似た姿をした鳥形モンスターのサイズはその数分の一、全長でいえばせいぜい五メートル前後、といったところだろう。
人一人を乗せて飛べる生物とみれば、結構ぎりぎりなサイズに思える。
あるいは、この世界では、恭介たちが知る航空力学とは別の原理で、空を飛ぶ生物も存在するのか。
とにかく、ワイバーンの周囲に群がった鳥形のモンスターは、ワイバーンが身をよじって進路を妨害しても、身軽に避けている。




