現地人たちの場合
セッデスの戦士たちは、ここ最近、戦闘周辺を巡る変化の激しさに戸惑いつつ、必死にその変化に適応しようと努めていた。
まず、大規模な銃火器の導入。
これは、最初に自身である程度、銃器や大砲の基本的な原理を学び、使いこなせるようになってから、さらに多数の人形を扱えるようになる必要があった。
多数の人形を制御してそうした火器を扱わないと、出現するモンスターのすべてに対応が出来ないのだ。
ウダという優秀な共感が手取り足取り、かなり懇切丁寧に教えてくれたおかげで、ほとんどの戦士がこの課程をごく短期間で終えている。
結果、自分自身で戦う、いわゆる白兵戦をする機会が少し前と比べて激減した。
とはいえ。
「せいっ!」
気合いとともに、戦士の一人が剣を振るう。
その一挙動で、数体のモンスターがまとめて斬り払われた。
見ると、その戦士の剣にはほのかな燐光を纏っている。
その戦士は、「向こう側との接触」以前から、自力で剣士スキルの取得に成功していた例外的存在だった。
どうしてそんなことが可能だったのか、本人にもわからない。
物心ついて以来、無心で剣を振り、毎日のようにチュートリアルで実戦を積みあげ、そうしたらいつの間にかこうしたスキルを使えるようになっていた。
滅多にないことだったが、セッデスの間では、そうした現象も「まれにあること」として認識されていたので、特に問題にはならなかった。
この時代遅れにも。
その戦士は、改めて自分のスキルが役立つ局面に立ち、心の中で苦笑いを浮かべている。
まだまだ、活躍の場はありそうだ。
今回、モンスターたちは、その一部を城塞内部に侵入させる、という戦術を実行していた。
こうした事例は、大昔にはあったそうだが、ここ最近ではまったくなかった。
結果、不意を突かれて負傷した者が続出している。
人形経由で銃火器を操作することに夢中になり、背後を警戒しているセッデスはほとんどいなかった。
と、いうことなのだろう。
だが、その戦士のように、自分で剣を振るい、自身で戦うことに喜びを見いだしているセッデスも、皆無というわけではなかった。
「に、しても」
その戦士は、呟く。
「手応えがないな」
向こう側と接触する以前は、モンスターとこうして交戦することは珍しくはなかった。
というより、それこそが、セッデスの日常だった。
だから、今回侵入して来たモンスターたちのあっけなさに、違和感をおぼえている。
いや、すべてのモンスターが弱いわけではなく、何体に一体かの割りで、普通のモンスター以上に倒しにくい相手が混ざってはいるのだが。
玉石混淆も、甚だしい。
と、その戦士は思う。
あちらがこの侵入戦法に賭けているのだとするのなら、もっと精鋭を送り込むはずではないか。
だと、すれば。
「これは、陽動か」
戦士は独自に、恭介と同じ結論に達した。
だとすれば、本当の主戦場は。
「城塞の外、か?」
城塞の各所に据えつけられた銃座は、ほとんど銃口の向きが固定されている。
別の方向からモンスターが沸いて来れば、少なくとも即応は難しいはずだ。
タンクとかいう異界の起動兵器であれば、どうにか対応することも可能だったが、現状では、あれの台数も稼働させる人員も、極めて限られている。
いつもとは違う場所からモンスターが湧いて来ているようなら、今のセッデス勢に出来ることはほとんどなかった。
とはいえ。
「今のおれには、どうにも出来んか」
戦士は、また呟く。
自分に出来るのは、目の前の敵を叩き伏せることのみ。
戦士自身も、そう弁えている。
だったら。
今、やれることをやるしかない。
あらめめてそう思い定め、その戦士は城塞内の通路を走りはじめた。
次なる敵を求めて。
「またここに来るとは」
数奇なものだな。
と、その老人は思う。
老人は、かつてはセッデスの一員だった。
まだ若い時分に負傷し、左足のすねから先を失うまでは。
どうにか一名はとりとめたが、従来と同様の活動が出来なくなって、城塞から去り、セッデスとして以外の生き方を求めた。
当時は、そうするしかなかったのだ。
しかし、今。
レベル、スキル、ステータス。
そうした新しい概念を学び、さらには、この。
「ZAPガン、か」
便利な武器まで与えられている。
魔力の元、魔石さえ持っていれば、それがなくなるまで、いくらでも連射可能な武器。
その老人は、これまで狩人として生活して来た時間が長いため、それに、さきほどダンジョン内でごく短時間のうちに数多くのモンスターを仕留めてきていたため、倉庫内に大量の魔石を蓄えていた。
ZAPガンは、事実上、矢が尽きない弓であるといっていい。
しかも軽く、扱いやすい。
今の老人にとっては、都合がよすぎるくらいの武器といえた。
そのZAPガンを、老人は連射する。
察知スキルで感知したとおりに、通路の向こう側から大量のモンスターがこちらない近づいて来る途中だった。
そのモンスターたちは、老人の連射によってすぐに倒れ、姿を消していく。
なんと、あっけない。
と、老人は思う。
ZAPガンの威力に対して、モンスターたちは脆すぎた。
「おおい!
撃たないでくれ!」
モンスターが来た方角から、そんな声が聞こえる。
「こっちに怪我人が居るんだ!」
「近くにモンスターは残っていないか?」
老人は、まず確認した。
「こっちでわかる限りは!」
そんな声が、返って来る。
「姿が見えない!」
「だったら、さっさとこっちに来い!」
老人は、どなるようにいった。
「こっちの詰め所に来れば、何人だろうと治してやる!」
詰め所の中には、老人を除けば年端もいかない子どもが二人、居るだけだったが。
それでも、三人総掛かりで対処すれば、どうにかなるだろう。
仮にならなかったとしても、「聖女様」とかいう、回復能力に特化したプレイヤーが、あとに控えているという。
だったら、失敗を恐れる必要はなく、自分たち即席の医療班は、自分たちに可能な範囲内で手を尽くすだけだった。
「医療班はうまく機能している、か」
複数の報告を統合し、シュミセ・セッデスはそう結論する。
「治療行為以外に、片手間に手近に寄ってきたモンスターを難なく片付けている、と」
「例外なく、ですな」
アイレスは、つけ加える。
「治療班の中には、年端もいかない子どもだけで配置された場合も少なくはないようですが。
そうした者たちも、モンスターが近寄って来るのを感知するやいなや、詰め所の外に出て迎撃し、すぐに元の詰め所に帰っているそうです」
「あいつら、この短期間で、どこからそんな人材を持って来たんだ」
「少なくとも、モンスターに相対して臆する者は皆無のようで」
シュミセ・セッデスの独白に、アイレスが答えた。
「ただ、肝心の治療行為には、多少手つきが危なっかしいとの報告も入っています。
それでも、回復術は全員、使えていますので、大きな支障はないのですが」
「そうでなくては、われらはとっくに内部から瓦解しておる」
シュミセ・セッデスはため息混じりにそういった。
「本日の負傷者は、すでに八十名を越えている。
従来であれば、セッデス勢全体が機能しなくなるはずの負傷者数だ。
だが、そのうちの八割以上が、詰め所に届けられてからごく短時間のうちに加療され、自分の足で歩いて元の現場に復帰している。
結果、多少弱体化はしているだろうが、全体的な継続戦闘能力はほとんど失われていない」
どうなっているのだ。
シュミセ・セッデス心の中で自問し、口に出してはこういった。
「特別なのは、あの三人だけではない。
と、そう見るべきなのか?」
「われらも、まだまだ学ぶべきことが多いと、そう見るべきなのでしょうな」
傍らのアイレスは、無難な答え方をした。




