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高校生150名が異世界廃墟に集団転移したようです。みんなは戸惑っているようですが、おれたち三人は好きにやらせて貰います。  作者: (=`ω´=)
接触篇

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遥の場合

「よ、っと」

 遥は軽く声を出して、忍者のスキル、「忍術: 影分身」を使用する。

 遥の体全体が、唐突に七体に増えた。

 ように、見えるはずだ。

 しかも、七体の遥がそれぞれ別個に動いているので、注意してみたとしてもどれが本物の遥なのか、判然としない。

 今回のような混戦、多数の敵を相手に攪乱する必要がある場合は、かなり有用なスキルであるといえた。

 案の定、目の前のモンスターの大群は、戸惑った様子で驚きの鳴き声を上げている。

 遥自身は、その場でステルス状態に移行した上で、モンスターの体をすり抜けるようにして潜入、群れの中心に居た個体から順番に背後を襲い、一撃で首のうしろを刎ねて一体一体、倒している。

 モンスターたちにしてみれば、目の前では数体の遥の虚像が迫って来ている中、自分の仲間たちが唐突に首を切断され、次から次へと倒れているわけであり。

 当然、パニックを起こして騒然となった。

 無闇に持っていた武器を振り回し、同士討ちや共倒れになるモンスターも少なくはない。

 なまじ知能が高い分、疑心に駆られはじめると統率もなにもない、狂乱状態に陥る。

 遥が遠距離からの攻撃を選択しなかったのは、自分がなし得る遠距離攻撃の威力に自信がなかったことと、それに、自身の防御力が脆弱であることを自覚していたから、になる。

 モンスター側に、なんらかの遠距離能力を持つ者が居て、反撃されたら無事では済まないのだった。

 そうしたリスクを取るより、遥は、着実に一体一体を始末していくことを選択した。

 の、だが。

「ここまで狂乱状態になるとは」

 遥は、声に出さずに、心中で呟く。

 知能の高低、という問題ではなく、感情の制御が緩い種族が集まっているのだろうか。

 今では、このモンスターの群れは遥が攪乱するまでもなく、仲間同士で殺し合いをおこなっていた。

 それを沈めるべき役割を持つ者がいないらしく、騒ぎは拡大する一方だ。

 ほぼ全員が興奮した状態で、手近な仲間に襲いかかっている。

 遥はステルス状態を解かないまま、その集団から距離を取り、見た目的に強そうな個体を狙って、ZAPガンで狙撃をはじめた。

 そうした狙撃に気づける個体はすでに皆無であり、モンスターの群れは際限のないどつき合いを繰り返している。

 通路のそこここに血と肉が付着し、かなり凄惨な光景が広がっていた。

 プレイヤーが倒したモンスターの遺骸は、特別な設定をしていない限りは倉庫内に収納されるが、それ以外の死因で死亡したモンスターの遺骸はその場に放置される。

 このまま放置しておいても害はなさそうであったが、途中でモンスターが我に返る可能性がある以上、遥としては着実にこの群れを全滅させておきたかった。

 ここまで来ると、遥の干渉がなくても、遠からず全滅しそうな勢いであったが。


「動きがはや過ぎてなにをしているのかわかりませんな」

 遥のそうした様子を監視カメラ越しに観察していたアイレスが、呟いた。

「ハルカ殿が物凄い勢いでモンスター群を駆逐しつつ、高速で移動しているのは確かなのですが」

 遥の動きがはや過ぎること。

 それに、監視カメラは、主要な通路の曲がり角など、城塞内の要所にしか設置されていない。

 この中央司令室からは、途切れ途切れにしか遥の動きを追えなかった。

 わかることは、遥が通ったあとには生存しているモンスターが残っていないこと。

 それに、その途上にある、外部からの進入路はすべて遥が修復していること。

 この二点のみ、になる。

 シュミセ・セッデスがつきっきりで案内をしているキョウスケの突破力も凄いのだが、ハルカの働きも無視できないものだった。

 それと。

「今度は、カナタ殿まで」

 アイレスは、頭を抱えたくなった。

 これまで大人しく担当の詰め所で待機していたカナタまで、人形遣いのウダが詰め所に到着して以降、勝手に出歩くようになっている。

 カナタの行動をハルカと同じように追跡している余裕はないのだが、ときおり、各所の監視カメラに写り込んだ行動などを見ていると、このカナタも、

「なるほどハルカやキョウスケの同類なのだな」

 と、深く納得しないわけにはいかなかった。

 この三人は、アイレスが知るどんな人物とも比較不可能なほどの、殲滅の能力を持っている。

 こちら、セッデスのどんな戦士とも、これまで知り合った向こう側のプレイヤーとも、比較にならないほど桁外れな能力といえた。

 セッデスの戦士の中にも、それなりに能力に秀でた者は、居る。

 向こう側との接触以前に、自力でスキルやジョブを無意識に解放し、それなりに使いこなしている者は、居るのだ。

 数は、少ないのだが。

 そうした、歴戦の戦士たちをも上回るこの子たちは。

 そう、彼らの見た目は、アイレスの目には、まるっきり、年端もいかない子どもにしか見えなかった。

 いったい、なんなのだ。

 アイレスがこれまで観察した範囲内では、城塞内部に侵入したモンスターの半分以上を、この三人だけで倒している勘定になる。

 この三人は、当初、各詰め所に待機状態であったため、実際に動き出したのはかなりあとだったのだが。

 さらにいえば、シュミセ・セッデスに案内されているキョウスケを除く他の二人は、どうやら自分で自分の行き先を決めて、独自の判断で動いているらしい。

 それでいて、着実に、モンスター群が居る場所へと迷うことなく移動していく。

 この城塞の通路は、長い期間を経て増設に増設を続けていた都合上、迷路じみた複雑さを獲得している上、無闇に広い。

 この場に来たばかりの初心者が、迷わずに歩き回ることは、到底不可能なはずだったが。

 これも、スキルとやらの恩恵、その効能だというのか。

「参りましたねえ、これは」

 セッデスの戦士たちも、今ではスキルを得、それを使っている者が大勢居た。

 しかしそれは、これまでのところ、戦闘に直接関与するスキルが、ほとんどであり。

 それ以外の、補助的なスキルを使いこなしている者は、皆無に近かった。

 スキルについて研究する余裕が、これまでなかったからだ。

 こうした突出した能力を持つ人たちを、セッデス勢としては今後、どう遇するべきなのか。

 セッデス勢の事務方筆頭であるアイレスは、本気で考えはじめる。


 遥の移動速度は異常だった。

 さらにいうと、索敵範囲の広さも異常だった。

 恭介のように誰かがナビしてくれているわけでもなく、彼方のように城塞通路の略図を貰っているわけでもなく。

 ただ単純に、モンスター群の規模が大きい順に、だいたいそちらの方に進んでいく。

 道を間違えたり行き詰まったりしても、すぐに引き返して別の道にいくだけだった。

 移動速度自体が常人と比べてひたすら速いので、多少迷っても大きな支障とはならない。

 モンスター群と遭遇した時の殲滅速度も、同じように異常だった。

 ほとんどのモンスター群を、遭遇してから五分もかからずに始末してすぐ別の場所に移動している。

 一度レベルをリセットして、再度高レベルまでレベルアップしている遥は、たった一人で二人分以上の働きが出来るようなプレイヤーに育ちつつある。

 チュートリアルで出現してくる程度のモンスターは、相手にならなかった。

 特異なスキルや個性を持っていないモンスターで、あれば。

「硬っ!」

 例によって背後から首のつけ根に短剣の刃を振りおろした遥は、そんな声を出してしまう。

 そのモンスターは皮膚が異常に硬く、遥の刃が潜り込むことなく、表面でむなしく弾かれている。

 カブトムシが二本足で直立しているような、そんな外観のモンスターだった。

 なら。

 遥は素早くシステム画面を操作し、自分のジョブを「忍者」から「暗殺者」に変更する。

 これで、攻撃の何分の一かに、クリティカル補正がつくはずだ。

 刃が通らないほど硬い相手なら、クリティカルに賭ける。

 遥の攻撃を弾いたモンスターは、怪訝そうな身振りで周辺を伺っている。

 ステルス状態の遥のことは、感知出来ていない様子だ。

 遥はそのモンスターの背後に忍びより、両手に持った短剣を、モンスターのうなじに連打する。

 ほとんどの攻撃は弾かれたが、何発かに一回、刃が硬い皮膚に潜り込んだ。

 遥はさらに速度をあげ、短剣を連打する。

 何度かクリティカルが発生し、徐々にモンスターの首にダメージが入っていった。

 モンスターは、両腕を振り回して不可視の攻撃を振り払おうとする。

 しかし、速度に特化している遥は、その程度の動きを見越した上で、余裕で回避をしつつ、攻撃を続ける。

 そして、ついに完全に首を切断されたモンスターは、その場に倒れて動かなくなった。

 そのモンスターが、この群れの最後の一体だった。

「ふう」

 遥は息をついて、ジョブを元の「忍者」に戻そうと、自分のシステム画面を開く。

「お?」

 そして、ジョブの項目に、新たな選択肢が増えているのを見つけた。



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